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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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121話 壁を乗り越えよう 3

「そういえばシャルゥちゃんって言えば個性的なトークが人気だよね、小路ちゃんは配信でそういう話はしたりするの?」 


「した事あるよ~、配信始めたばっかりの頃だったけどね~」


「えっ? そうなんだっ」



コメント;あの配信はヤバかったwww

コメント;初耳なんだけど!

コメント;小路ちゃんがエッチネタ!?

コメント;メッチャ知りたい!

コメント;アレは完全にシャイゲの失敗www



 小路はシャイニングゲートに入ったばかりの頃に、名作小説の朗読配信で官能描写がある作品を読んでしまった事があったのだ。


 その時は会社が指示した小説だったから普通に読んだのだが、コメント欄は小路の柔らかな声でそういう文章を読み上げられたものだから盛り上がってしまった。


 切り抜き動画も作られて視聴者を呼び込む一因にもなったから、一概に悪い出来事とは言えないが、それ以降はシャイニングゲートが提示する朗読作品は吟味される事になったのだった。今はその切り抜き動画も削除されてる。


「どんな内容だったのかなっ? 言える範囲で良いから教えて小路ちゃん、凄い気になるよ」


「えっとね~、主人公の男の人が結婚の前日に~~……」


 

コメント;小路ちゃん止めなさい!

コメント;あれはどう足掻いてもヤバイ内容だよ!

コメント;そのシーン喋ったら強制BAN喰らうって



「じゃあナっちゃん先輩にだけ教えてあげるね~、お耳を拝借だよ~」


「うんうん、え……ええっ!? 小路ちゃん、そんなの読んじゃったの!?」


「そうだよ~、お尻の描写がすごかったよ~」


「そ、そうみたいだねっ、小路ちゃんに凄い内容のASMRされちゃった」



コメント;ナツハちゃん羨ましい、俺も小路ちゃんの声でASMRされたい!

コメント;メンバー限定で音声アップロードしてくれ!

コメント;どんな内容だったのか凄い気になるwww

コメント;小路ちゃんのセンシティブボイス、めっちゃ欲しいwww



 小路がナツハに喋った内容は割とセンシティブ度合いが高いものだった。小路は幼い頃から点字書籍や小説朗読の拝聴で名作文学などに触れて来て、そのため文章力が身に付いたという部分もある。


 しかし文学作品は作者の情熱が良くも悪くも注ぎ込まれ、そういったシーンでは作者の癖が出てる事が多々ある。小路はそんな部分も吸収してしまってるから、少しだけそっち方面の考え方や受け取り方が普通の感覚とは違う。


 小路は人には絶対に話さないが、実は官能小説の朗読拝聴もネットで見つけて聞いた事がある。その時は顔が熱くなって頭が回る感覚になりながらも最後まで聞いてしまい、今まで誰も教えてくれなかった性に関する知識を知ったのだ。


 以前に灰川の腕に胸を軽く押し当てたのも、そこからの知識である。



「ナっちゃん先輩は配信でそういうお話することあるの~?」


「私は基本的にはしないんだけど、前に配信の切り忘れでやらかしちゃった事があるの。小路ちゃん聞きたい?」


「聞きたいな~、リスナーのみんなも聞きたいよね~?」


コメント;聞きたい!

コメント;なにやらかしたの?

コメント;あの切り忘れかwww

コメント;切り抜き消されてたね~



 配信界隈に時折に発生する失敗として配信の切り忘れがある、過去に何人もの配信者がやらかしてるし、中にはシャレにならない事をやってしまったりした配信者も存在する。


 逆に切り忘れたフリをしてわざと点けたままにして、視聴者を楽しませる切り忘れ芸などもあるようだが、ナツハは本当に注意不足で切り忘れた事があった。


「1年くらい前に凄く良い配信が出来たって思った時があったの、良い気持ちで配信を終了できたけど疲れちゃってたんだと思う」


 当時のナツハは配信後の疲れを癒すために、ネットで面白い動画や配信の糧になりそうな物を探していた。その時に見つけたのが『お〇ぱいの雑学』という豆知識ネタの動画だったのだ。


 ナツハはそれを見て部屋の中一人で「お〇ぱいかぁ……」とか言いながら鑑賞する。既に配信ページは閉じてたが実は配信を切り忘れており、残ってた視聴者がコメント欄に『ナツハちゃん!?』みたいなコメントを書いて埋め尽くされていたが本人は気付かない。 


 その動画はバストアップマッサージとか、形の良いバストを作る方法とかが説明されており楽しく見てた。ナツハこと空羽は胸はあまり大きくはなく普通か少し小さいかのサイズだ、それ故に市乃や桜のような少し大きめの胸に憧れがあったりする。


「そしたらスタッフさんが慌てて電話を掛けて来て、それからは部屋の中で顔真っ赤で叫びながら視聴者さんに言い訳したの、今でも思い出すと恥ずかしいかな」


「それは災難だったね~、私も気を付けないとな~」


「あの日は寝れないくらい恥ずかしかったんだから、小路ちゃんも絶対に気を付けた方が良いと思うな。でもやらかして仲間になって欲しい気持ちもあるかも」


「むふふ~、そうなったら傷の舐め合いしようね~、ナっちゃん先輩」


 

コメント;そんな事あったんだwww

コメント;あの時は爆笑したwww

コメント;その切り抜き見たいんだが

コメント;恥ずかしいな~

コメント;切り忘れには注意しなきゃね



 視聴者も普段の配信では聞けない話を楽しんでる、ナツハも小路も上手い具合に話を回す事が出来ており精神的にも余裕が出てきた。2人は少しづつ他の話も交えながら普段はしない内容の話をしていく。


 以前に入浴剤と間違えて洗剤を入れてしまい風呂場が大変な事になったナツハの話や、小路が配信してる時に段々と胸が痛くなって来たと思ったら下着のワイヤーが曲がってた、なんて話をしてる。


 この位なら笑い話だし視聴者も少し場面を想像しつつも、2人の話し方が上手い事もあって笑いながらコメントを打っている。


 だが最後まで気は抜けない、ナツハも小路もセンシティブになり過ぎないよう気を付けてはいるが、赤木箱シャルゥのような感じは出せてないという気持ちが心の中にあった。





 自由鷹ナツハと染谷川小路がコラボ配信してるルームの隣では、ハッピーリレー所属の三ツ橋エリスが100万人耐久配信をしている。


「思ったより登録者さん増えるの早いなー、これなら今日は早く終わっちゃうかもねっ」



コメント;早く終わったらちゃんと休みなよ?

コメント;明日も忙しいんでしょ?休んだ方が良い

コメント;ハピレ配信者は率先して休んで欲しい

コメント;エリスちゃんがきちんと休めるのが一番


「そこは長時間配信してとか言ってよー! 気持ちは凄く嬉しいけどさ!」


コメント;www

コメント;ハピレはさ、うん…

コメント;無理はしないで欲しいwww


  

 笑いと盛り上がりは普段よりあって、手応えは充分だとエリスは感じた。


 このままの調子で進めても視聴者は満足してくれる予感はあるが、それでは自分が壁を越えられないという気持ちがある。


 灰川が言ってた事を聞いて感じた物があった。センシティブからは逃げ切る事は出来ない、しかし視聴者はそれを求める、それに応えなければ壁は超えられない。


(ナツハ先輩や小路ちゃんにだって負けてられないよっ!) 


 シャイニングゲートにはエリスより登録者数が多いVtuberが多数在籍してる、その大半の者達は何かしら琴線に触れる特性を持っている。


 自由鷹ナツハは最高レベルの配信の面白さと魅力的過ぎる声、竜胆れもんは1分に1回は笑えると言われる配信力、染谷川小路は優しく柔らかな喋り、赤木箱シャルゥはエロさを感じさせないセンシティブトーク、様々だ。


 この配信は分かれ道だとエリスは感じてる、きっと今夜で100万人登録の壁は超えれるだろう。それと同時に自分も配信者として進化しなければ、登録者は100万人止まりになる予感がある。 


 進化というのは何もセンシティブな話をするという意味ではない、更に視聴者を満足させて楽しませるという事だ。


 そのための手段の一つとしてセンシティブトークをする道もあるが、そうではない道もある。それは直接的な話題に触れずに、視聴者たちの豊かな想像力を刺激して満足させようという手法だった。


 さっき灰川が変な口調で言ってた『エロティシズムとは画一的なものではない』という言葉、そこからヒントを得た方法だ。また灰川に助けられた、そう思うとエリスは少しの悔しさと共に、何か少し嬉しいような温かいような感覚になり落ち着く気持ちになれた。


「そういえば最近~~……」

 

 こうしてエリスはセンシティブな話をするという目標から、視聴者が想像力で満足するトークをするという方針に切り替えて話を切り出したのだった。


小説家になろうは性描写が厳しいらしく、今回の話に限らず運営から注意が来たら予告なく内容を変更か削除する場合があります。

どの程度までなら良いのか規約を読んでも分かりませんでしたので、次回も気を付けて書こうと思います。

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