112話 アカシック大図書館を行く!
「人ですかっ? いや、Vtuberみたいなホログラム?」
「アカシックベース? とは何なのかね?」
「私はアカシックベース・サポートAIです。アカシックベースとは全ての情報、知識、歴史を記録した位相空間であり、知的生命体のみがアクセスできるデータベースです」
つまりは何でも分かる場所という事だ、意識だけが来れる世界にあるようで、ここへの行き方は様々あるようだが灰川たちはその一つを実行してしまったらしい。
「AIさん、帰ろうと思えばいつでも帰れる?」
「はい、可能です」
「ここの本は閲覧は自由なのかね?」
「はい、お探しの知識や書籍があるなら当AIがサポートします」
「どんな事が知れるんですかっ?」
「あらゆる事象が記録されてます、ご希望の情報に沿ってご案内が出来ます」
どんな事でも知ることが出来るが、それを知るためには自分で本を調べるしか無く、AIに聞いても答えは分からないらしい。
もはやいくら説明されようと理解を越えてる場所であり、何を聞いても現実離れしてるため、アカシックベースという場所を理解する事は諦めた。
ここは遥か昔から人類に噂されるアカシックレコードの図書館、宇宙誕生から遥か未来に至るまで時間という概念を越えて記録された場所のようだった。
「すぐ帰った方が良さそうっすね、世の中知らない方が良い事は多いっすよ」
「ふむ…ところで以前に私たちの世界からコウタ君という子が来た事はないかね?」
「その記録がある場所へご案内いたしますか?」
「むぅ…いや、よしておこう」
AIはこの場所に関すること以外は教えてはくれないようで、過去に誰が来たか等の情報も同じらしい。
「俺たちをすぐに帰して下さい、あとこの場所に関する記憶も~~……」
「待って下さい!」
灰川の言葉に待ったを掛けたのは愛純だ。
「ここって凄い所じゃないんですかっ? どんな事でも知れるんですよねっ、それならすぐ帰るなんて勿体ないですっ!」
「ふむ、確かにそうだの。私も知りたい事はあるにはあるが」
ここは見方を変えればありとあらゆる知識や真実が知れる場所、過去の歴史の出来事の真相、宇宙誕生の秘密、明日の宝くじの当選番号、過去も未来も思いのままに知れる。
「それはそうだけど、世の中には知らない方が良い知識、知った時点で気が狂うと言われる知識なんかもあるんだよ。そもそも夢でしかない可能性も十分にあるし」
アダムとイブは知恵の実を食べて楽園を追放された、それと似たように知った時点で取り返しの付かない事になる知識も存在すると言われてる。
神が実在するのかどうか、死後の世界があるのか、自分はいつ死ぬのか、こういった事は知った時点で気が狂うという説があり、他にも様々な知らない方が良い事が存在する。
「でも…そういう事を避けて調べれば良いですよね? 灰川さんだって何か知りたい事があるんじゃないですかっ? 夢だったら何しても良いはずですっ」
「まあ、あるけど…」
灰川だって人並みに知りたい事はある、もしここに一人で来てたら危険を顧みずアレコレはしゃいで情報を漁ってた可能性もあるだろう。
どんな事であってもリスクなくして物や情報を得られるほど世の中甘くない、普段の生活だって何事をするにもリスクは付いて回る。歩くだけでも転倒するかもしれないというリスクはある、人間は物事のリスクを普段は意識せず生きてるだけだ。
「では一人につき1時間、調べるかどうかは3人で相談して決めるというのはどうかね?」
「賛成です! そうしましょう!」
その方式なら安全度は上がる、それに大体は体感時間にして3時間くらいで戻る事になるだろう。
灰川としてもこんな場所に来て手ぶらで帰るのもシャクな気分だ、また来れる保証も無いし、せっかくだからという気持ちもある。
「まあ危険はない様だし…でも禁断の知識だって思ったら容赦なく戻らせるからね」
もし準備を整えて来てたなら何を調べるか、どんな事を知りたいか熟慮しただろう。突発的に来てしまったから心の準備はなってない、しかも現実なのか夢なのかも定かじゃない状態だ。
一応は行動の指標は出来たし夢なら夢で構わない、そう前提して3人離れずに1時間づつ何か知りたい事を調べる事にする。医者と霊能者と中学生Vtuberによる奇妙な大図書館の、少し変わった冒険が始まった。
「じゃんけん」
「ぽん!」
「一番手は愛純君か、何か知りたい事はあるのかね?」
先に3人である程度のルールを決める。宝くじの番号とか自分たちの未来に関する事や、存在が確定しておらず知ったら危険と思われる事物に関する事、そういった感じの事は調べないと決めた。
「私は自由鷹ナツハさんを上回る視聴者登録が欲しいです! 私でも出来る世界一の登録者数になれる方法が知りたいです!」
「まあ、それなら良いんじゃないかね灰川さん」
「そうっすね、せっかくこんな所に来たんだし、そういう感じの事だったら」
という訳で愛純の希望する最高のVtuberのなり方が記された本がないかAIに聞く。
「最高のVtuberのなり方をお願いしますっ!」
「はい、最高という文言を含む情報攪乱・拡散及び政治・軍事的プロパガンダ戦略宣伝ヴァーチャルストリーマー人員兵器・VTUBER、もしくはエンターテイナーVtuberの成り方への情報を集積完了、ご案内します」
「え? 兵器? ちょ、なんかちがっ~…」
AIが喋り終わるのと同時に3人はまた違う場所に立っている、そこはまたしても目が眩むような数の本がある空間だった。本棚の列が遥か彼方まで続いてる。
「これが全部Vtuber関連の本だってのか…」
「一体どれだけあるんだろうか…」
Vtuberだけでこれほどの量の情報があるという事に驚く2人を尻目に、愛純は手近な本棚にある物を一冊取って開いてみる。
「VTUBERによる情報操作と軍事プロパガンダ広告の計画的推進? なんですかこれ?」
「こっちにはカミュール公国独裁政権によるVTUBERを利用した国民統制なんてのあるぞ? カミュール公国ってどこ?」
「何やら兵器とか情報操作とか不穏な文言ばかりの本が出てるの、Vtuberというのは兵器なのか愛純君」
「違いますよっ! 何かの間違いです! AIさんっ、どういう事ですか!?」
全く聞き覚えの無い事ばっかりだ、明らかに変な情報ばかりである。
「多元世界における最も一般的なVTUBERの利用法における、最高の情報操作管理者への成り方、及びその他のエンターテイナーとしてのVtuberへの成り方の情報を集積してます」
「うわぁ…やっちゃったね愛純ちゃん、なんか並行世界とか異世界とか、そういうの含めて集められちゃってるみたいだよ」
「なんですかそれっ? 異世界とかって本当にあるんですかっ?」
「どうやらあるみたいだの、これが夢や幻でなければの話だが」
これも禁断の知識に含まれるのかもしれないが、こんな所がある時点で予想はしてた。最近は異世界アニメや異世界を題材にした作品も多いから夢のある話だとは思う。
本という情報媒体形式も3人の居る世界の形式に合わせた形態のようで、他の世界などの知的生命体には別の形式の媒体になるそうだ。
「AIさん! 私たちの世界の情報だけにして下さい!」
「当AIの再使用には1時間のインターバルが必要になります、即刻の使用につきましては受付でアカシック課金カードを購入の上~~……」
「課金!? 受付ってどこ!? 財布なんて持って来てないです~! 騙された~!」
「アカシックレコードって金とるんだ…」
「私たちの世界の言葉に訳されてるのだろうが、アカシック課金カードとはセンスがない…」
どうやら他の世界ではVtuberというのは軍事や政治に利用されてる事が多いらしく、灰川たちが見た範囲の本棚にはそっち関連の情報書籍しか無かった。
「これは集団催眠で見せられてる夢くらいに思って、異界の情報を少しばかり楽しむとしよう」
「うぅ~、もっと詳しく言ったら良かったです~!騙された気分ですよ~! 土星日本の最高情報操作VTUBER、辺ウmi ぉ比って誰ですか~!」
「よく発音できたな、流石Vtuber」
「なお、課金された場合は高性能AIによるサポートと高度なサービスが受けられます」
「そこも課金制!?」
何やら金を取るらしい、精神世界みたいな場所で金を取ってどうするんだ?とか思うが、考えるだけ無駄だ。この場所は自分たちの世界の摂理とは別の摂理があるのだ、そう納得するしかない。アカシックレコードも景気が悪いのだろうか?
「そろそろ1時間、次は俺だなっ」
「う~~、全然役に立たない情報ばっかりでしたぁ~! やっと兵器とかじゃないのを見つけたと思ったら、東京地下ダンジョン配信Vtuberとか私たちの世界に居ないですよ~!」
「でも一応は最高って文言は入ってたんでしょ?」
「時間的にそこまで詳しく見れません! でも配信内容に困ったら、とりあえずアポカリプスドラゴンを倒しに行けば視聴者数は稼げるって書いてました!」
「めっちゃ強そう! そのVtuber絶対にレベル100とかだろ!」
「これは完全に夢だな、次は灰川さんの番だがAIに伝える言葉は詳しくした方が良さそうだ」
結局は1時間ばかり異世界のVtuber情報の本を見て終わってしまった、愛純は初手という事もあり完全に間違ったやり方をしてしまったらしい。
「よっしゃ! 俺は間違わないぜ!」
「ずるいです灰川さん! 私だけ貧乏クジじゃないですかぁ~!」
「げへへ、ジャンケンに負けた愛純ちゃんが悪いんだよ~、俺は遠慮なくやらせて貰うぜっ!」
だんだん楽しくなって調子に乗った灰川がメスガキ属性Vtuberを煽りながら、大人げない態度で自分の知りたい情報を決める
愛純と岡崎先生にも話して許可を得てからAIに告げた。




