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配信に誰も来ないんだが?  作者: 常夏野 雨内


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105話 教わったことを踏まえて 

 夕方になり仕事が終わって帰宅した。明日は休みで、今日は市乃たちに教わった配信の仕方を意識しつつ三ツ橋エリスたちの配信を見る。


 彼女たちに教わった配信法や心掛けてる事は彼女たちのやり方で、それぞれ考えが違ってたりもしたが灰川にはとても有用な話だった。


「まずはエリスだな、色々と教えてくれて大感謝だよ本当に」


 最初は三ツ橋エリスの配信をクリックして視聴する、エリスからは配信で心掛けてる事を様々に教えて貰った。なぜそれらを心掛けてるのか、心掛けてないとどうなるのか等を詳しくだ。


 それらの事は配信でも言った事はあるし切り抜き動画もあるようなのだが、その時よりも詳しく灰川に分かりやすく教えてくれたのだ。



『やっほー、みんな今日もお疲れ様ー! 今回は夏っぽいゲームの代表格!サマートラベルやってくよー!』 


コメント;待ってたよ!

コメント;今日は暑かったねー

コメント;サマトラって前に流行ったよね

コメント;夏の色んな観光地を巡るゲームだっけ?


 エリスはまず、配信でプレイするゲームを選ぶ事を重要視するらしい。ゲームの評判や知ってる人が多いか少ないかを調べ、そのゲームの動画などを少し見て『プレイ中にどのようなトークが出来るか』『どのような配信になるか』を予め考える。


 それを心掛ける事によって事前に配信の大まかな段取りが出来上がり、トークにも道筋が出来るため話を回しやすく、視聴者に対して無理のない形で楽しんでもらえる配信が可能になるとのことだ。


 これを怠るとトークやゲームに対しての反応が取り留めの無い内容になってしまい、配信の雰囲気に沿わない発言をしてしまったり、ゲーム画面から得られる視覚情報と耳から入って来る情報の差でノイズが生まれ、どんなに良いトークやゲームプレイが出来ても面白さは半減すると考えてるらしい。


『このゲームって何だか懐かしい感じするよねっ、私この前にここみたいな田舎に行ったんだけど、スッゴイ良い場所だったよ!』


コメント;シャイゲのナツハちゃんと一緒だったんだよね

コメント;ツバサちゃんも一緒だったらしいね

コメント;こんな場所に行ってみたいな!


 エリスは配信で絶対に守ってる事は『理由なく5秒以上は黙らない』だ、それを体現するようにゲーム中であっても常に何かしらを喋ってる。それに加えて『画面見てれば分かることを何度も喋らない』という事にも気を付けてる。


 初めての視聴者、特に自分を知らない視聴者は5秒退屈させたら帰ってしまう。画面を見たら分かる事を喋らないというのは場合によりけりだそうだが、それは退屈の元になり配信の陳腐化に繋がると言ってた。


 エリスは配信を楽しみながらやっているが、配信で稼いでる以上はプロであり視聴者を退屈させる事は許されないと考えてる。退屈させた瞬間に視聴者は見限り離れ、名前も忘れられて『どうでもいい存在』になり果てる。ネットの世界ではそれが顕著だと感じたそうだ。


『皆もたまにはこういうスローなゲームやりなよー、懐かしい思い出に浸ろうぜー、あははー!』


コメント;懐かしい思い出か、田舎に帰りてー!

コメント;夏の旅行のゲームって良いね!

コメント;そこ隠し通路あるよ

コメント;今年も忙しいから実家に帰れねぇ!


 エリスが配信に最も強く心掛けてる事は『視聴者を絶対に退屈させない』という事だった、それを聞いて配信を見ると以前とは違った見え方がしてくる。エリスの配信の面白さは努力の賜物(たまもの)であり、元から面白かったわけでは無かったそうなのだ。


 最初の頃は可愛い3Dモデルと、ハッピーリレーから褒められた自身の声があれば有名になれると考えてたが、現実は甘くなかった。最初の配信で獲得した視聴者登録は、事前登録3000に対してマイナス20(・・・・・・)だったらしい。この記録は黒歴史になり半ば封印されてる。


 つまり多くの人が『つまらない』『退屈』『期待外れ』と感じたという事だ、この結果がトラウマになり、そこから必死に配信という物を学んだ。


 エリスはデビューは中学2年生の時だったそうだが、実はハッピーリレーの配信講義はあまり真面目に聞いて無く、自分ならやれる!という根拠の薄い自信で配信に向かったらしい。


 社長に頭を下げてもう一度講義を受けたいと言い、学び直して徐々に自分の配信というものを確立していった。その時に花田社長から言われた事は今も忘れてない。


『うわぁ! この景色凄い良いねー! 映画とかドラマに出て来そう!』


コメント;CGはちょっと古いけど良いよね

コメント;ここの元ネタの近くに住んでるwww

コメント;実際にここのモデルの場所は映画に使われてるよ


『えっ!?映画に使われてるんだ! こんなに綺麗だから使いたくもなるよねっ、あははー』


 花田社長に、配信もメディアも必ず人柄や性格、考え方や物事の受け止め方が出てしまう。面白くしようと努力するなら着いて来る視聴者は居るが、ただ自己満足な上に退屈な配信だったら伸びない。そう言われたそうだ。


 その言葉は今もエリスの中に生きており、初配信のトラウマと共に『退屈は配信の敵』という強い理念を抱くようになった。


 それ以来はトーク、雰囲気にこだわって視聴者を退屈させないよう気を払ってるが、まだまだ達成は難しいらしい。説明された自分ルールも守れない事があると言う。


 エリスは灰川に「面白い配信をするのは当たり前だけど、どうやったら面白くなるのかを考え続けなきゃダメ!」と強く言った、それは登録者が100万人目前に迫っても考え続けてるとの事だ。




「次はミナミの配信だな」


 エリスの配信からミナミの配信に移る、ミナミから教えられたのは好感を持ってもらう事の大事さだった。


『こんばんわ皆さん、今日は雑談配信なのでまったりお喋りしていきますね』

 

コメント;こんばんわミナミちゃん

コメント;前の戦術学の勉強配信は失敗だったねー

コメント;ランチェスター計算法則とか分からんて

コメント;ガチの戦術学で爆笑したwww


『皆さん酷いですよ、私にはちょっと早かったけど、またチャレンジしたいです!』


 ミナミは以前に灰川に勧められた戦術学の勉強配信をして撃沈した。大学卒の灰川と高校1年生のミナミでは知識の(へだ)たりがあるのだが、それを考慮せず勧めた灰川の浅はかさが招いた失敗だ。


 しかしその失敗もミナミは配信の糧にしてしまった、それは視聴者に好感を持ってもらえるよう努めてる結果だという。


 ミナミの言う好感とは言い換えれば『視聴者を味方に付ける』という事だそうで、味方にさえなってもらえれば強い力になると言った。だがそれこそが難しく、味方になって貰えるほどの好感を視聴者に持ってもらうのは簡単じゃないとも言う。


 基本的に人間はリアルでもネットでも、何らかの理由と呼べるものが無ければ味方にはなってくれないとミナミは感じた。気が合うだったり、何らかの利益があるだったりという理由だ。しかも人間の好感というのは0か100かみたいな単純なものじゃなく、難し過ぎて今も大きな悩みの種だそう。


 ミナミはそれを何人もの配信者を見て子供ながらに研究し、結果的に『受け入れる姿勢を見せる』ということを見出した。


『皆さんは夏休みの予定はありますか? 私はイベントが今から楽しみなんですよ』


コメント;絶対にVフェス行くよ!

コメント;ミナミちゃんの出るイベントは行く!

コメント;エリスちゃんとの絡み期待してる

コメント;仕事サボってでも行くぞ!


 ミナミは視聴者を絶対に否定しない、例えばスーパーチャットで何らかの常識外れなコメントが来たとしても、最初に質問の意図やコメント文章の裏側にある感情や心理を考え、極力に視聴者が納得できる形で話をずらして答えたりする。


 それらの行動で『視聴者の心を大事にする』という精神性を示し、それが今の人気に繋がってる自負があるそうだ。しかし、その考えに至って手法を考え出すまでには失敗も多くて時間が掛かり、結果的に視聴者登録数ではエリスの後塵(こうじん)(はい)する事になった。


 最初の頃はネットで調べたデータを参考にしたり、ネットに書いてあった良い配信の仕方を実践したそうだが、全く上手く行かなかったらしい。


 その理由を『他人が取ったデータは自分に合致した物ではない』『ネットに書いてある事は大勢に向けた物であって自分に向けたものでは無い』からとミナミは考えた。


 本当に有用なデータとはネットで調べる物では無く自分で取る物、生きたデータとは自分で調査した上で、数値の裏にある事象を知り、なぜこのデータになったのか?という事を考えて初めて有用になるという思いに至ったそうだ。


 ネットに書いてある成功法は嘘か本当か分からない、それらを通して自分を信じる事を学んだという。これは自分を信じ過ぎず、周りの意見を聞くという謙虚な性格が元からあったから成功に繋がったと灰川は考えてる。


『そういえばエリスちゃん達が旅行に行ったんですが、私は予定があって行けなかったんですよ! 可愛い猫ちゃん達に囲まれてるの見て、私も行きた過ぎて泣きそうになりました!』


コメント;元気出して!

コメント;猫か~、良いよね

コメント;SNS見たけど楽しそうだった

コメント;次は行けるって!

 

 ミナミは自分で集めたデータや自分で導き出した視聴者が欲してるものを深い所まで考え、視聴者の精神を受け入れて好感を強く持ってもらう配信を確立する事に成功した。


 それによって配信でミスをしたり、そもそも配信内容のチョイスがミスだったりしても受け入れられる雰囲気を作り出せたのだ。自分が受け入れる事によって自分も受け入れてもらうという手法である。


 ミナミは灰川に視聴者から持たれる好感がどれほど大事か語った、好感を持たれれば何度でも見に来てくれる、逆に一定期間で一定以上の好感を持たれなかったら二度と来ない。そう考えてると言った。


 北川ミナミの稼ぎは総合で見ると視聴者登録数がミナミより多いエリスより高い、それは視聴者のミナミへの好感の高さを示してると言えるのだろう。




 ツバサはとにかく配信は全力でやると語っていた、それは元気に配信するのは当然のことで、マイクの設定や通信速度にこだわって見やすい配信にするという事も含まれる。


 視聴者の名前を覚える事も大事だと語り、見に来てくれる人達を一人一人大事にする。だからこそツバサは視聴者から大事にされる、それは視聴者の継続率を見ても明らかだと灰川は思った。


 視聴者登録数が全く伸びなかった以前を今も気にしており、これは間違った方法なんじゃと思ったそうだが、一気に伸びた視聴者が今も離れてない事から間違いじゃないと考え直して今に至ってる。


 しかしまた伸び悩み始めてるから「私も進化しないといけないわ!」と言っていた。



 ルルエルちゃんは今は会社の言った通りにやろうと両親と相談して決めたそうだ、分からない事だらけの世界で一人歩き出来る年齢ではないし、どんな問題が発生するか分からない。


 視聴者の中にはルルエルちゃんがガチの小学生だと分かってない人も多いし、勘づいてる視聴者も真実は分からない。演技だと思ってる人も少なからず居る。


 だから大人や先輩達に負けないよう、今は色んな事を学んで鍛えつつ頑張ろうと考えてるそうだ。それが許される程に周囲に才能を感じさせてるという事だ。



 染谷川小路は集まりに来れなかったため、機会があれば話してくれると言ってくれた。


 ナツハの配信までは少し時間があり、シャワーでも浴びる事にしてパソコンの前から立ち上がる。


 その時に灰川は思う事があった、人の心や考え方を知るっていうのは実は怖い事なんじゃないか?ということだ。 


 エリス達の今までの思いや考え方を知るにつれて彼女たちの見え方が変わった、それは見えないものが見えるようになったとも言える現象に近かった。普通の人が幽霊を見てる気分に近いかもしれない。


 配信の何気ない一言でも裏には苦労や深い考えが見えてくる、今の灰川には自分よりかなり年下の子達が化け物に見えるような気がした。


 かと言ってエリス達への接し方や思いが変わる訳では無い、これらの事はVtuberは人間であるという事に他ならないからだ。深い考えがあって当然、努力があって当然、今を生きる全ての人間に当てはまる事なのだ。


 それは視聴者一人一人にも当てはまる、そんな『思考の化け物』と呼べる種族である人間族(・・・)を何万人も相手にして配信し続け、人気を保ち続けてるのは恐ろしい事なのではないかと灰川は考えた。


 才能を持ちながらも努力と思考を止めない、そんな彼女たちに改めて尊敬の念を(いだ)く。

 

 シャワーから上がってパソコンの前に陣取り、次は自由鷹ナツハの配信が始まった。

 今回の話はホラーを書いてるつもりで書きました。

 身近に居る人でも見え方が変わると怖く見えるのでは?という思いから書いてます。

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― 新着の感想 ―
[一言] >身近に居る人でも見え方が変わると怖く見えるのでは?  怖いと凄いはかなり違うのでホラーではないかなあ。  人間には未知のものを恐れる本能がありますが、同種族の場合は、それを感じるには幾…
[一言] 1学年分、1学校分、小さな町くらいの人数を集めて配信してる子らは殆ど化け物ですよね 大昔に配信したことありましたけど、5,6人の常連さん作るだけでも大変でしたw
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