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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
二章

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11.駆け引きをします

「ええと、チェックメイトのようです」

「嘘だろう……」


 エイヴリルの向かいでは、黒い仮面を身につけた男が呆然としている。その背後には、仮面を外したウォーレスとキャシー、数人の男がさらに愕然とした様子で口をぽかんと開けていた。


(騒がれないように始めたチェスでしたが……ディラン様の邪魔をしそうなウォーレス様をここに留めておくのに最適な手段でした。ということで、何勝負もしてしまいました。チャンスをくださったキャシー様に感謝しなくては)


 さっき、大広間でのディランとウォーレスは険悪な様子だった。ウォーレスをこの部屋から放流した場合、他の場所でディランに会って絡み仕事の邪魔になる可能性がある。


 そう思ったエイヴリルは、ウォーレスをこの部屋に引き留めるため、キャシーとのチェスを終えたあともいくつかの挑戦を受けることにしたのだ。


 一方、エイヴリルにチェスの勝負を提案し、この部屋の人間で一番に素顔を晒すことになってしまったキャシーはなぜか得意げである。


「もう皆聞いてよ? 彼女、抜いてくれっていう駒が妙に具体的だったのよ! はじめてルールを知った素人じゃ思いつかないような! 偶然かなって思って受け入れてあげたけど、痛い目にあったわ!?」

「それは申し訳ありません。ですが、ここで素顔を晒すわけにはいきませんでしたので」


 今日のエイヴリルは悪女なので手段は選ばなかった。ふふっと微笑んで見せれば、キャシーはさらに満足げに笑う。


「ウォーレス。こちらのエイヴリル嬢はあなたでは物足りなかったんじゃないかしら? 捨てられたのも、あなたがつまんない男だったからよ? 残念ね」

「な……っ!?」


 ウォーレスは顔を赤くして怒りかけたが、その口にキャシーがつまみのナッツを突っ込みニコリと笑って黙らせた。遊び慣れている仕草をエイヴリルはしっかり目に焼き付ける。


(これが悪女っぽい仕草……! って、見惚れている場合ではなかったわ。そろそろディラン様のお仕事が終わる頃でしょうか。私も大広間に戻らなければ)


 この後、ディランと約束のダンスができるのだろうか。実は、エイヴリルのダンスレッスンの相手は先生もしくはクリスが務めていた。


 ディランは忙しくてレッスンに付き添えなかったからなのだが、そのせいでエイヴリルはディランが踊るところを見たことがない。


(きっと、ディラン様のエスコートで踊れたらとっても素敵なのでしょう)


 それを思っただけで、今日の目的も忘れて心が弾んでくる。


 ということで、この場を退出するタイミングを図るエイヴリルだったが、チェステーブルを挟んで向かいに座っている男は動かなかった。


 エイヴリルにたった今負けたばかりの男はじっとこちらを見たまま、ひとつ結びにした赤いブロンドを揺らす。それから、片方の口角だけをあげて不敵に微笑んだ。


「――見事だ。噂は聞いていたが、こんな才女だったとは」

「お褒めに与り光栄にございます」

「私は仮面を外すわけには行かなくてね。代わりに、これを」


 男はテーブルの上に無造作に紙幣を置く。無造作におかれるにしてはちょっとありえない多額の紙幣に、エイヴリルは思わず固まってしまう。


「!? ……いえ、いただきません。ここにいらっしゃる皆さんは、私の……ひ、暇つぶしにもなりませんでしたから」


 目が泳いだもののなんとか悪女設定を貫くと、周囲はさぞかしそうだろうというふうに頷く。噴き出しそうなのを堪えているのはクリスぐらいなものだ。


 けれど、黒い仮面に赤いブロンドの男は意外そうに目を眇める。


(……この方は、少し雰囲気が違う気がします)


 この場にいる人間は皆、仮面舞踏会を楽しみに来ている。これは遊びなのだから、その場のルールに従うし羽目も外す。


 しかし、彼はどこか異質な空気を放っている。この場に馴染んではいるけれど、女性とは一定の距離を置いているしエイヴリルへの接し方もまるで淑女を扱うようだ。


(ここに遊びに来たのではないのなら、もしかして)


 黒い仮面の男は、立ち上がるために身体を曲げたタイミングでエイヴリルだけに聞こえるように囁いた。


「……君はここに何か別の仕事をしに来たんじゃないのかい? ただ遊びに来るような人間じゃないだろう?」

「――!」


(この方は――!?)


 その瞬間、待ちわびた声がエイヴリルの頭上から降ってきた。



「――随分と待たせてしまったようだ」


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