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無能才女は悪女になりたい~義妹の身代わりで嫁いだ令嬢、公爵様の溺愛に気づかない~(WEB版)  作者: 一分咲
五章

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34.

 心配通り 、それからランチェスター公爵家に近づこうとする人々は増えていった。


 そんな中、今日はブランドナー侯爵家で夜会が催されることになっている。流行病もやっと収まり、ブランヴィル王国の王都には穏やかな日々が戻りつつある。


 それを祝い、王都に戻った貴族の交流を深めましょうというのがこの会の趣旨らしいが、流行病により疲弊した部分の情報を交換し、寄付を集めるのが真の目的なのはわかっていた。だからこそ、この大広間には大勢の貴族が集まっている。


「流行病は悲しい結果と社会への大きな変化をもたらしましたね」

「ああ。物流はやっと通常に戻り、王都にも人が戻ってきた。完全に元に戻るのには時間がかかるだろうな」


 そんな会話をするエイヴリルとディランだったが、まさか王族内の立ち位置まで変化し、自分たちのところまで余波が来ることになるとは思ってもみなかった。


(優秀なディラン様を後継に置いておきたいというローレンス殿下のお気持ちはわかります。ですが、これまでその位置になかった方に突然の重責を負わせるのは、あまりに酷です)


 先日、ローレンスから次期王太子になることを打診されたディランは、返事を先送りにした。


 けれど、受けるはずがないというのは変わらない答えである。だが、ローレンスが簡単に諦めてくれないのもまたわかっていた。


 そこで、直系で王位継承権を辞退しようとしている王族三人に接近し、本当に意思は固いのかを確認した上で動くべきだというのがディランが出した答えだった。


(この国は直系の王族は自動的に王位継承権を持ちます。今、王太子が誰になるのかざわついている理由は、傍系までお話が回ってきてしまっているからです。直系の皆様が辞退を撤回してくだされば、何の問題もありませんから)


 あのローレンスがこの手立てを試みなかったとは考え難いが、王太子が直系の候補者たちに比べてディランを高く評価しているのは明白だ。あえて、引き留めることなく辞退を受け入れている可能性もなくはない。


 今日の夜会は、趣旨と主催者から見て、その辞退した候補者たちが出席するのはわかっていた。エイヴリルたちは彼らに会うためここへ来たようなものである。


(とにかく、しっかり立ち回りませんと……!)


 エイヴリルをエスコートしてくれるのはディランなのだが、後ろにはサミュエルも付き添ってくれている。


 実家での夜会だというのと、今日はディランが単独行動をする時間が増えそうなため、エイヴリルのエスコート役としても立ち回る予定だ。


 今日、ディランが王位継承権を辞退した彼らにただ接近して話を聞くだけではないのは何となく伝わっていた。彼らを説得に動くのは当然のことだろう。


 そうして、勝負の夜会が始まるのだった。




 ブランドナー侯爵家の大広間には大勢の人々が詰めかけていた。豪奢なシャンデリアの下、ワルツの優雅なメロディが流れる。


 着飾った貴族たちが所狭しと社交を繰り広げ、広間の中央に開いたスペースでは若い男女が優雅にダンスを楽しんでいた。


 そのざわざわした空気の中から、ディランは早くも目的の相手を一人見つけたようだった。エイヴリルの耳元で囁く。


「……スミュール公がいらっしゃるな。少し外す」

「かしこまりました」


「残る二人のうち、ラサール公は公爵らしく目立つ方だが、一方のゴンドラン公は掴みどころがなく行動も考えも読めない方だ。おそらく、かなり見つけにくい。とにかく、トラブルには巻き込まれないように」

「お任せください! 行ってらっしゃいませ」


 離れていくディランの背中を見送った後で、エイヴリルは隣のサミュエルに視線を移すのだった。


「ではサミュエル。ここからのエスコートをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「はい。ここは僕の庭ですから。責任を持ってエスコートさせていただきます」


 恭しく礼をしてくる姿がとてもかわいい。この夜会に出席した重要な目的を忘れて頬が緩みそうになるのを、エイヴリルは耐えた。


(のほほんとしている場合ではありませんね……!)


 ディランがスミュール公と話しに行ったのだから、エイヴリルは次の相手を探すべきだろう。


(今日、この夜会にお出ましになっている王位継承権を辞退された方々はお三方。スミュール公、ラサール公、ゴンドラン公です。皆様、お年を召した上に体調を崩されたと伺っていますが、寄付を集める目的でもあるこの会には積極的にお出ましになるはずです)


 エイヴリルは大広間の中を注視する。皆の顔はわからないのだが、服装や付き合っている相手から大体の推測はできるはずだった。しかし、今のところ、目的の人物は見当たらないようだ。


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