24.
サブタイトルをつけるのにあまりにも悩むため、ここからなしでいきます。
わずかな 間を置いて、ディランは拒絶した。
「お話は聞きませんと申し上げたはずです。これ以上無理に話されるようでしたら、礼儀を欠きますが無視して退出させていただきます」
あまりにも固い決意を感じさせるディランに、ローレンスは苦笑したようだった。けれど、それでも諦める気など全くないのも見て取れる。
「……ほんの数年のことだ。すぐに王子が生まれれば、お前に用はなくなる。ただ、それまでの空席を埋めるだけだよ。辛抱してくれないか?」
「考えるまでもなく嫌です。辞退します」
すかさず、また立ち上がろうとするディランを、アレクサンドラが同情の瞳で見つめている。
「ランチェスター公爵閣下には大変申し訳ないお願いと存じます。ですが、ほかにまともな人間がいな……コホン、いえ、適任がおりませんのよ」
あられもない本音を漏らしたアレクサンドラは、ディランだけではなくエイヴリルの方も見ている。夫妻揃っての器を見られているというのは何となく理解したものの、エイヴリルだって受け入れられない。
「数年だけ、という確証はどこから来るのでしょうか?」
おずおずと問いかけると、ローレンスはこの話題だと信じられないほどに緊張感なく笑う。
「わからん。勘だ。それにこの状況だ。側室を迎える準備もあるぞ。アレクサンドラも反対はしていない」
「ええ。せっかくですし、私が直々に『国母になっても問題がなさそうな賢いご令嬢』をリストアップして差し上げようと思いましたの。そうしたら」
「その先は言わなくて結構だ」
ただでさえ不機嫌だったディランはますます不快さを露わにしている。
もともと、ディランとローレンスは親しい関係にあった。だから、気の置けないやり取りが交わされることも多いのだが、王位継承権というこれ以上なく重要な話題を前にしても王太子はいつも通りだ。
そして、ディランは完全に拒絶している。ローレンスは余裕を持って笑みを浮かべた。
「そんなに怒らないでくれ。アレクサンドラがエイヴリル・ランチェスターを側室候補にピックアップしたことも、私が王太子候補としてディランを推したいことも、どちらも事実だ。だが、さすがに前者については趣味が悪すぎる。彼女はお前の妻だからな。だから、お前に頼みたいのは、王太子候補の受諾だけだ」
「……っ」
ディランが美しい横顔を歪めた。恐らく、ローレンスはエイヴリルを側室候補にすることなど、もともと本気で考えていないのだ。けれど、ディランから譲歩を引き出しやすくするためにこのことを引き合いに出した。
(こういう言い方をされてしまったら、現在の立場も鑑みて、断るに断れませんから)
ローレンスの元へ差し出されずに済んだことに安堵しつつ、エイヴリルは冷静に答えを出した。
「王太子殿下。あまりにも急すぎるお話と存じます。この場でお答えするのではなく、少しお時間をいただけませんでしょうか」
「君はディランのようにはなから拒絶はせず、物分かりがいいね。……わかった。もう少し時間をあげよう」
「ありがとう存じます」
(その間に、ディラン様とお話しして策を考えましょう。ローレンス殿下が相手では、一筋縄ではいきませんから)
エイヴリルがお礼を告げて頭を下げると、わかりやすく空気が変わった。これ以上、この話題について話しても無駄だとローレンスもわかっているのだろう。
微妙な空気が残る中、アレクサンドラの合図で侍女たちが入ってきて、お茶の準備を始める。
殺伐としていた部屋に紅茶と焼き菓子の甘い香りが漂い始めて、エイヴリルはほっとしたのだった。




