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第36話 思いがけない出会い



「はああああああああッ!!」

「……うーん、まだ甘いかなぁ」



 僕はシェリーの剣を受け止めると、それをあっさりと受け流す。ちなみに今は不可視刀剣インヴィジブルブレードではなく、普通のブロードソードを用いている。



「はぁ……はぁ……はぁ……何がダメなのかしら……」

「うーん。何か違和感があるんだけど、言語化できない……難しいな……」

「……ユリアでも分からないなら、仕方ないわね」

「いや僕は指導者としては素人同然だからね。自分の戦い方もちょっと特殊だし」



 現在はシェリーの特訓に付き合っているという感じだ。訓練も終わり疲れがあるが、特訓に付き合ってほしいということで僕はグラウンドで彼女に付き合っている。僕も危険区域にほぼ毎日出ているのでその疲れを残しているけど、彼女の頼みを無下にもできない。



 だが状況は芳しくない。シェリーと剣を合わせるも、何をどうすべきか……というのをしっかりと説明できないのだ。そもそも、僕の戦闘スタイルは不可視刀剣インヴィジブルブレードをメインにしている。見えない利点、それに質量がナイフだけというのを活かした高速の剣撃、さらには複数の起点から繰り出す圧倒的な物量。到底、普通の人間に教えられるものではないし参考にもならない。基本的な体捌きならまだしも、シェリーはすでにその領域にはない。



「はぁ……どうしたらいいのかしら……」

「あ……その……あなたには、ブロードソードは……合ってないと思います……」

「「え!!?」」



 ギョッとして声がする方に振り向く。するとそこには灼けるような真っ赤な髪をした女性が立っていた。目線は僕よりも高く、それにスラッとしている。でも確かこの人……どこかで……。



「あ……ユリアくん……お久しぶりです……」

「あ! えっと、序列二位の人ですよね!!」

「は……はい……えっと、ベルティーナ・ライトと言います……その、私も第七結界都市に担当になったので……あ、私のことはベルって呼んでください……ちなみに階級は大佐です……ね、年齢は32歳です……よ、よろしくね? へ、へへ……」



 そういえば、第七結界都市にはもう一人特級対魔師がくると聞いていたが、まさか序列二位の人がくると思っていなくて少し驚いてしまう。



「こちらこそ、よろしくお願いします。えっとベルさん……それでどうしてこんなところに? 今はもう就寝時間が近いですけど……」

「あ……そのついさっき到着して……それで、2人が訓練しているのが……見えたから、挨拶と……それとちょっと……あ、アドバイスでも……あ、不快でしたか!? ご、ごめんなさい!」

「だ、大丈夫ですよ! それに序列二位の人に見てもらえるなんて、嬉しい限りですよ! ね、シェリー?」

「そうですよ! もちろん大丈夫ですよ!」



 僕とシェリーは最大限、ベルさんをフォローする。なんというか、自分に自信がないのか、それとも謙虚なのか、序列二位とは思えないほどだ。でも性格なんて関係ない。この人は特級対魔師の中でも序列二位なのだ。彼女の意見はきっと参考になる。そう思って、僕は先ほどの話を掘り下げることにした。



「えっとベルさん。シェリーにブロードソードが合っていないというのは?」

「その……ちょっと感覚的な話になります……けど、シェリーさんは……刀が向いていると思いま……す。腕も長いですし……それに、振りが速い……ので、ブロードソードよりも……む、向いているかもしれま……せん」

「刀……刀ですか」



 刀と剣には明確な違いがある。剣は重さを利用して『叩く』が、刀は切っ先の鋭い刃で『切る』ことを前提としているのだ。だが、細身である分耐久性に問題があるし、刃こぼれもしやすい。そのため、刀の扱いというのはかなりの技量を要求される。特に魔物と連戦することにおいては。


 僕の場合は不可視刀剣インヴィジブルブレードはどちらかというと、刀の性質を利用しているが、別に何度も発動できるので耐久性に問題はないし、刃こぼれも考えなくていい。しかし普通はその欠点を嫌って、剣を使う人が殆どだ。でも、シェリーには刀が向いているという。これは参考にすべき意見だろう。少なくとも、刀で練習してみるのも悪くない。



「なるほど、刀……刀ね……ユリアはどう思う?」

「いいと思うよ。新しい武器に挑戦するのも悪くないと思う」

「あ……よ、よかったら……わ、私のけ、剣舞……み、見ますか?」

「え!? いいんですか!?」

「は……はい。い、いいです……よ」



 思えば、序列二位のベルさんの武器は太刀だ。しなやかな反りのあるわん刀である太刀。その刀身は1メートルを超えており、とても長い。そして彼女は腰にぶら下げている太刀を引き抜くと……そのまま剣舞を型に沿ってなぞっていく。



「すごい……」

「うん、これが……序列二位か……」



 ただただ圧倒された。その一挙手一投足、全てが洗練されている。体の運び方から、太刀の振り方まで彼女のそれは明らかに常人の域を超えている。そして僕たちはそれを唖然としながら見ていると、ベルさんの剣舞が終演を迎えてしまう。



「ど……どうでした、か?」

「すごい、すごい、すごいです!! 私決めました!! ベルさんの弟子になります!!」

「え……で、弟子です……か? で、でも私は……お、お話しするのが……と、とても……に、苦手で……教えるのも……上手く……できるか……ど、どうか……」

「お願いします! 私は強くなりたいんです!」




 なりふり構わず頭をさげるシェリー。きっとさっきの剣舞に何かを見出したのだろう。直感的にあれが自分に合っていると悟ったのだ。その感覚は大切だ。僕もまた、自分には不可視刀剣インヴィジブルブレードが適していると感覚で理解しているし、今もそう思っている。



 こうして、シェリーは序列第二位であるベルティーナ・ライトさんの弟子になるのだった。



 ◇



「ふーん。来たのって、ベルだったんだ」

「はい。昨日夜に偶然会いました」

「で、シェリーが弟子にねぇ……ベルにできるのかしら?」

「どういう意味です?」

「だってベル、口下手じゃない。それに自信もないし。人に何かを教えられる人間とは思えないわ。鈍臭いとこもあるし」

「ははは……辛辣ですね……で、でも序列二位ですよね?」

「……ユリアはベルの本気、見たことある?」

「いえ、昨日初めて言葉を交わしたので」

「ベルは凄まじいわよ。特に秘剣っていう特殊な剣技を10ほど持っているらしいけど……私は震えたわね。初めて見たときは」

「そ、そこまでですか?」



 昼食休み。僕とエイラ先輩は向かい合って食堂でカレーを食べていた。そして僕は昨日のことについて話していたが……今の先輩の雰囲気はかなり本気だった。ベルさんは伊達に序列二位ってわけじゃないのか……いや、別に疑っているわけではないけど、どうにもあの性格からはその凄まじい剣技は想像しづらい。



「おそらく、半径3メートル以内の戦闘なら最強ね。私は超至近距離クロスレンジでベルが負ける姿を全く想像できないわ」

「先輩がそこまでいうほどですか……」

「ユリアはいいの? ベルの剣技を見れば参考になると思うけど」

「うーん。今はシェリーの邪魔をしたくないですからね。きっと彼女はもっと伸びると思いますから」

「ふん、仲間想いなことね」

「まぁ……シェリーとは色々と特別な出会いでしたから。力になってあげたいというか」

「……あっそ!! 私、先に行ってるわねっ!」


 エイラ先輩は残っているカレーを一気に掻き込むと、そのまま食器を下げていってしまった。


「え……僕、何かしたかな?」



 僕はそのままゆっくりとカレーを食べ続けるが、結局先輩が不機嫌になったのは謎のままであった。


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