第148話 乙女☆サバイバル
「シーラ!!」
「うぉ!? なに、どうしたの!?」
バンッ! と大きく音を立てて扉が開く。
シーラの自室に押しかけてきたのはエイラだった。ちなみにシーラの部屋には、ノアもいた。二人は例の飲み会から意気投合したのか、よくこうして遊ぶ仲……というよりも雑談をするようになっていた。
「エイラさん? どうかしたんですか?」
「ノアもいるのね。まぁいいわ。で、例の話知ってる?」
「ちょっとエイラちゃんってば、唐突すぎるよ〜」
「今はそんなことはどうでもいいの。問題は、例のパレードの件よ」
「え? 知っているけどさぁ、何かあった?」
「その後にパーティーがあるじゃない」
「うん」
「そこでダンスがあるのよ」
「それで?」
「そこのプログラムに、ユリアとリアーヌが踊るっていう項目があるんだけど?」
「え? 本当に?」
「マジよ。さっき資料を入手してきたわ」
エイラはそう言って一枚の資料の紙をテーブルに広げる。そうして3人ともに、顔を覗かせるようにしてそれを注視する。
「うわぁ……ホントだ。でも仕方ないんじゃない? 今回の作戦成功の立役者と王女様だと映えるし、周りにも納得じゃないのかな」
「まぁそれだけならいいのよ」
「じゃあ、エイラちゃんは何を焦っているの?」
「最近妙にリアーヌの様子がおかしいのよ」
「……それはベルさんのことじゃなくて?」
「違うわ。落ち込んでいる感じじゃないの。そうね、どこか熱っぽいというか、浮かれているというか。それにあの事もあるし……」
「あの事って?」
エイラは話した。盗み聞きする気は無かったが、エイラはユリアとリアーヌの会話を聞いている。それは葬儀の前日、リアーヌが完全に自暴自棄になっている時のものを指している。
あの会話からするに、リアーヌはユリアに特別な感情を抱いてしまったのではないかという懸念がエイラにはあったのだ。
「あー、それは確かにそうかもね。ユリアくん、優しいし……そんなかっこいいこと言われたら、女の子ならキュンときちゃうよね〜」
「そうなのよ。で、ものは相談なんだけど……私、どうしたらいいと思う?」
暫しの沈黙。流石の今回の件にはシーラも考え込んでしまう。そうしていると、ノアもまた口を開くのであった。
「もしかしてエイラさんって、ユリアさんのこと好きなの?」
「そうよ。何か文句でもあるの?」
「いやとても良くお似合いだと思って」
「……詳しく聞こうかしら」
髪をいじりながらエイラはまるで興味がないかのような素振りをしながら、さらなる話を聞こうとする。
「同じ隊にいて思ったけど、元々は恋人同士だと僕は思ってたよ。まぁ他の対魔師に聞いたら違うよ〜って、言われたんだけど」
「……ふ、ふーん。恋人同士に見えるのは、どうしてかしら?」
「なんていうんだろう。すごく息が合っているというか、二人とも話している時は自然だから、かな? あくまで僕の主観だけどね」
「ノア。あなたはとてもいい子ね。お菓子をあげるわ!」
「わーい!!」
と、エイラはどこからともなく飴を取り出すとそれをノアに差し出す。もちろんノアは打算的な意味合いでお世辞を言ったわけではない。
それは純粋なまでの言葉だった。それを分かっているからこそ、エイラは上機嫌なのだ。
「エイラちゃん」
「なによ、シーラ」
「エイラちゃんもそこにねじ込んでもらえば? というよりも、ダンスパートナーは一人だけじゃないから、きっとエイラちゃんにもチャンスはあると思うけど。これをみた限り、そのあとは他の人もダンスをするみたいだし」
「本当に!?」
「うん。だからさ、思い切って誘ってみなよ」
「そうね……女は度胸ね!!」
「うんそうだよ! 私とノアちゃんもサポートするし!」
「え……僕もするの?」
「もちろんだよ〜。人の恋路をサポートするのも、対魔師の仕事だよ?」
「そうなんだ! なら僕も頑張ろうかな!」
しれっと嘘をつくシーラだが、果たしてエイラの行く末やいかに……。
◇
「う……うぅん……」
リアーヌ朝は早い。今となっては王族の公務よりも、軍の方の仕事を優先しているものの今は公務の方が比率が高い。
作戦は成功して、人類は黄昏の大地の一部を取りも出したのだ。王族もまた、対魔師と同じようにパレードに出席する義務がある。その段取りやスピーチの内容を考えるなど、今のリアーヌにはやることが多い。
「ベル……コーヒーを……って、そっか……」
リアーヌは朝が弱い。そのためいつもは先に起きているベルにコーヒーを入れてもらうように頼むのが習慣だったが……もう、ベルはいないのだ。
「……よし」
だが決して悲観的にはならなかった。
リアーヌはベルの分も生きて、先に進むと決めたのだ。いちいち気にしていては、ベルもきっと悲しむだろうと彼女は思っていた。
そうしてリアーヌは軍服ではなく、王族の公務用の衣装に着替えるとそのまま王城へと歩みを進めるのだった。
「あら? シェリー、どうしてここに」
「王城に行くんでしょう、リアーヌ。ついて行くわ」
「護衛の任務でも頼まれたの? でもそんな通達は聞いてないけど……」
「先生を引き継ぐって言ったでしょう。今度は私があなたの護衛になるわ。まぁ四六時中一緒にいるわけにもいかないけど、時間があるときはできるだけ側にいるようにするつもりだけど……嫌だった?」
「いえ。とっても嬉しいわ。私ね、同じ年の友達っていなかったの。だからシェリーと一緒にいれるだけでも、とても満足よ」
「それなら……いいけど……」
ちょっとぶっきらぼうになってしまうのは、照れているからだ。リアーヌの微笑みはたとえ同性であっても、魅力的だ。人間を限りなく超越しているその容姿の前では、性別は関係ない。だがそれだけでなく、純粋にリアーヌのまっすぐな言葉にシェリーは照れてしまった。
面と向かって、そのような言葉をかけられたことはあまりないからだ。
そうして二人で王城の中に入ると、リアーヌは少しだけ眉を顰める。そう、彼女の目の前にいたのはグレーテ第二王女だったからだ。
「あら、リアーヌ。お久しぶりですわね」
「……ごきげんよう、お姉さま」
もちろんそれを悟られることのないように、すぐに顔に仮面を貼り付ける。ニコニコと微笑んでいるものの、目は笑っていないリアーヌ。グレーテが何かと突っかかってくるのは想定しているも、やはり気分はよくない。
「作戦、成功したようで私も嬉しいですわ」
「はい。対魔師全員が全力を尽くしましたから」
「でもまぁ……犠牲は出たようですわねぇ……」
「……犠牲はつきものです。それだけ黄昏の世界は危険なのですから」
「そうねぇ……あなたの世話役だったベルも亡くなったみたいですしねぇ」
「ベルはその役目を果たしました。犠牲にはなりましたけど、ベルの意志は私たちが継いでいくのです」
「ふーん。ま、せいぜい頑張りなさいな。で、そちらの方は?」
ジロリと睨むも、シェリーは全く気にする様子などなく淡々と答える。
「特級対魔師のシェリー・エイミスと申します。グレーテ様」
「あぁ、あなたが新しい特級対魔師の方ね。それにしても、若いですわね」
「リアーヌ様と同じ、15歳になります」
「まぁ!? 15歳で特級対魔師!? あらあらまぁまぁ。ユリア・カーティスといい、最近は若い特級対魔師の方が多いようですわねぇ」
明らかにわざと驚いてみせるグレーテ。彼女はもちろんシェリーのことは知っている。というよりも特級対魔師のことは独自に調べているので、もちろん把握している。
だがやはり気にくわない。どうして優秀な人材ほどリアーヌの側に行ってしまうのか。
美貌だけでも嫉妬するのに、内面的な意味合いでも敗北を味わっているグレーテはかなり気分が悪かった。
「ではお姉様、失礼します」
リアーヌが頭を下げて、シェリーもまた同じ挙動をしてそのままグレーテの横を通り過ぎて行く。
二人ともに、グレーテの視線の意味がわからないほど、子どもではなかった。




