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主人公というものについて

 レイル・グレイ


 本作品の主人公。

 経歴を始めから説明するならば、死んで神に会い、世界へ刺激を与える異分子として異世界に転生させられたところからだろうか。


 記憶を持って異世界に転生。ギャクラという国に生まれるも、貧民街という環境の悪さと両親の虐待に耐えかねて二歳にして両親を殺害。証拠隠滅を兼ねて住んでいた家を焼き払って貧民街から逃亡した。

 その後、貴族の孤独につけこんで、家族となることを了承させる。そこでようやくレイル・グレイの名をつけられた。剣と魔法の訓練と、読書による知識の蓄積、アイラとの銃器開発など様々な分野で力をつけようとするも実ったのは後者二つのみであった。


 ここからが、一般的なレイルという勇者について語り継がれることになる経歴となる。

 ギャクラでは学校に入学し、そこで多くの人間と出会う。国の王子や姫、商人など様々な人間と交友関係を広げつつ将来に備えた。


 ギャクラの勇者候補として名乗りをあげ、アイラ、カグヤ、ロウの三人と神に出会うための旅に出た。世界を巡ることも目的の一つであったようだが、メインは神に会うこと。

 魔法もつかえず、努力のわりには低い身体能力ながらも仲間の力や機転、策略などを用いて正面戦闘を避けながら功績をあげつづける。

 そして魔王城にて、天界への入り口へと案内されたことで神と会うという目的を果たした。そこで神に、自分が魔法を使えず肉体も強くなりにくかった原因が両親殺害にあると聞かされる。無事原因となる魂と肉体の不調和を修正し、今まで蓄積してきた努力が開花、そして適性の開眼をされることで著しくその強さを増加させた。


 その後、魔族と人間との友好を結ぶ上で貢献した。

 魔族のみならずエルフ、魚人、幻とさえ言われた機械族マシンナーズなどとも友好があるということで、歴代の勇者の中でもかなり顔が広い方だっただろうと言われている。

 祖国の南で自治区を国として立ち上げ、僅か十年も経たぬうちに貿易の主要地点として開発していった。

 邪神の復活をいち早く察知し、各地に人を送り込んだり情報を届けたりなどと邪神大戦において表裏に渡っての最大の功労者とも。決戦においてその場にいた全ての者を庇って邪神と共に消息不明に。しばらくして邪神を討伐して帰還したと言われる。


 勇者候補と呼ばれる当時の冒険者たちは、賞賛を受ける者から民衆や貴族の心証の悪い者まで幅広くいたが、最も賛否両論分かれる勇者であったとされる。

 非力な自らを言い訳にすることなく、得体の知れない方法を使って目的を達成する彼は、結果だけ見れば善行であるのに過程が卑怯であったり、逆に正しいことをしているはずなのにいつしか悲惨な結果を生んだりとちぐはぐで掴み所のない勇者であったとも。



 とこんな風にレイルは語り継がれることになる。

 かなり美化されてはいるが、レイルというのは決して感性がおかしいわけでもなければ、悪いことをすることを目的としているわけでもない。


 能力としては、序盤は魔法は使えず、剣は振れるという程度であった。しかし機転が利くことでそれを補おうとしてきた。

 基本的に戦いたいから戦うということは少ない。目的もなく魔物の乱獲に走ったり、面倒ごとは戦闘でねじ伏せて解決などをしない。

 おそらくは序盤は戦闘面が弱かったことで、正面からは勝てないという戦力の見通しからくる戦闘の回避に重点を置いた旅をしていたから。そしてそれでもやってこれたのが、中盤からも正面戦闘をあまりしない理由でもあったのだろう。

 すごく強いわけではなくとも、やり方次第で強者は倒せる。ならば能力が上がったぐらいで調子にのってはダメだ、と。バジリスクとの戦いで敗北したことがそれに拍車をかけている。どんな状況でもより安全に、より楽に利益になる結果を出す方法を考えていたら作中のような戦い方になったというところか。


 適性は波と空間の二種類のみ。三属性、または一種類でも術を使えれば適性としてはある方とされ、そういう意味では恵まれてはいる。

 とはいえ、冒険者、その中でも勇者候補にまでなる者は三属性などは珍しくない。魔法を主体に戦う勇者だと無属性や術式一種類に四属性などという者もいたり、波しか使えないが剣を主体であったりと人によりけりではあるが、器用や万能とは思われにくい。

 むしろこの適性を聞くと、一点特化の初見殺しだと思われがちというのが常識である。空間転移は魔法抵抗がある相手には効かず、剣技をしていれば背後からの剣戟も防げるのであまり実力差をひっくり返すほどのものだという認識がない。波魔法に至っては、科学理解が遅れているために強さと方向を操れる程度であることが多く、そのため最も扱いづらいとされる。

 レイルは科学知識があったことにより、波魔法を光化学迷彩から音の伝達など様々な運用法を思いつくのと、神の場所でのおまけが功を奏し、空間把握を使えるようになったことで著しい戦闘技能の上達につながった。


 擬神の核や邪神の核など核を飲み込むたびにその適性が引き上げられ、伸び代が増えるというのを活かしてパワーレベリングのようなことをしている。




 行動理念と性格、行動について。

 一般的に人質をとることや嘘をついて毒を盛ることが好まれない、卑怯だと言われることは理解しているし、事実そうだと思っている。

 彼は理解していないのではなく、自分が間違うことを恐れないだけである。

 間違ったことをした時、取り返しのつかないことになるならばそれは直した方が良いがそうでないならそれを個人の価値観や考え方、個性程度のものであるとさえ考えている。だから彼は決して敵が間違っているなどとは微塵も思ってはいない。敵が正しく、綺麗で、自分より強い。それでいいと思っているし、それについて正そうとか止めようなどという気持ちもない。


 彼にあるとすれば、「それをどうすれば自分の利益にできるか」である。

 盗賊が人を殺して物を盗ったとすれば、そいつらを殺してものを奪うことは合法的に私腹を肥やすチャンスであると。それが自分の気に食わない相手か盗んでいればなお良い。

 味方は何もせずとも、頼めば聞いてあげるし聞いてくれる。だから敵こそがお膳立てして自分の利益になるように動かす努力をするべきである。

 そういった思考回路で目の前の敵をいかに利用できればよいかと考えることが多い。

 とはいえ戦いにおいては、敵を殺すことよりもいかにして屈辱を与えて心を折れるかを楽しむ趣味の悪い部分もある。

 相手は自分にとって価値のないものか、道具でしかないのだとその身に思い知らせてやりたいと思っている。

 自分が楽しいことは自分にとっての利益である。感情は利益に入るので感情論で動いても問題ない、というのも信条。


 とはいえ、彼にとっての目的というのはさほど邪悪でも複雑でもない。

 世界を見て回って楽しみたい、種族に関係無く仲の良い友人ができればよい。その程度のことである。

 そのために、種族ごと仲良くできる機会があるなら恩を売ろうとするし、そのための力をつけるために勇者候補としての名声を高めることを面倒くさがることもない。



 彼は実りもしない努力をしている描写があるが、それは別に努力が尊いとか、いつか実るかもしれないからなどという理由からではない。

 自分が弱い時に「努力をしていないから弱い」という状態を避けるためである。

 確かに努力をしなくて能力が発揮できなければ自分の中では言い訳ができるが、結局のところそちらの方が他者に対して言い訳できないと考えてのことである。

 弱いことを罪だと言われた時に、努力をしていないからだと糾弾されないように、つまり他者に対して「自分は努力をしたのに弱いんだ。だから悪くない」と言い訳できる下地を作っているにすぎない。

 彼にとっては努力とは実るかどうかではなく、したという結果があるかどうかというパフォーマンスの一つでしかない。



 それらを統合した結果として、彼の性格を特に表すとすれば

「情けは人の為ならず」

 であろうか。

 どんな結果を出すのも、巡り巡って自分のためであるという信念で動いている。

 人を助けるのは恩を売るためであり、信用されるためである。

 仲間を守るのは、仲間がいなくなった時の自分の感情的な不利益を被るのを防ぐため。



 彼に欠落しているのは、間違うことへの恐怖と悪意への心からの自覚。

 人に否定されることを、蔑まれることを前提として動いている。自分の積み上げてきたものを正しいといえるだけの自信などが足りない。彼が曲がりなりにも英雄としての結果を出すならば、そのあたりを誇りにできることが救ってきた人への償いであり、責任であろう。

 悪意を頭で理解していても、あまり真剣にとらない。それは現代におけるネットなどで人の敵意のない悪意に触れていたが故の弊害か。一見、精神力が強いとか、前向きだとかポジティブに言い換えることができそうではあるが、それもまた一つの欠点。

 全てを理解しながらなに一つ正しくあろうとしない彼は確かに間違っていて、弱い。過ちを直せないことが本当の過ちであると昔の偉い人が言ったように、彼は決して褒められた人間ではなかった。

 自己中心的で、相手の人生の価値を論じることがない。

 彼を人として強いとするのは随分間違っているのではないだろうか。


 そんな彼の作中での役割は様々である。

 彼の中には矛盾するものを詰め込みたかった。


 とりあえず思いつくかぎりあげるとすれば、善悪、感情と合理などか。

 そして主人公というものに対するアンチテーゼもあった。


 主人公は何かをするともっともらしい理由をつけて正当化される。

 いや、正しいことをしたら評価されるのは当たり前であるし、それをどうこういうつもりはない。ただ、正しいだけが主人公ではないだろうと。

 周りから凄い、規格外だ、力を他人のために使うことのできる人だ……と言われ続けるのではなく、「間違っている」と言われて「ああそうだよ。お前が正しい」と言いながら自分のために戦える人間であってほしかった。というのが一つ。


 ただ巻き込まれることや、自分が騒動を作るのではなく、騒動の中で騒動を誘導するように思考を放棄しないようにというのも。


 努力はしてほしい。だが努力で描写を埋めるのは馬鹿らしい。そん信条でさらりと流した努力描写。毎日訓練してますとしか書いていないし、事実神の覚醒イベントがなければ人並程度にしか空間術も使えなかったのだろうなんて。


 魔法の才能が最初からあるなら、スキルがもらえるならば、別に転生主人公じゃなくってもいいよね。などと転生物に喧嘩を売っているような主人公でもある。

 数字でステータス表示は嫌いじゃないが、転生物でやると幼少期が訓練描写で埋まるのが……嫌いじゃないけど自分で書くのは苦手というか。そういうのもあって、ゲームステータスやスキルなどを極力省いた作品ともなっている。とはいえ、アイラのアイテムボックスと転移門ゲートだけはゲーム臭がすると言われればそれまでだが。

 結局のところあれらは、主人公の技能や強さに関係のないところであれこれと説明描写や時間をかけすぎて冗長になるのを防ぐご都合主義的なものの一つだし、さらりと流していただければと。どれだけ作り込んでも、「おお、大陸間の移動時間についてのリアリティーが凄い!」とか「道具の用意のシーンが面白い」って楽しんでもらえるのってよほど文章力のある方だけだろう。ランタンの方とか。と、いうわけで世界観を壊さない程度に術を導入することで、どこか軽い感じでも読めるようにというのが作中での腕輪や門に関する作者の都合の説明になるだろうか。


 主人公がとにかく器用である、ということはよくある。とりあえずやめてみた。自分が不器用で、異世界にいってもそんなそつなくこなせる気がしないからである。感情移入ができない、つまりは自分が絶対にできないことを異世界でこちらの世界の基本技能みたいに披露して大活躍!みたいなことは書く側としてはちょっと辛かったというのが本音。


 彼は料理も、工作も、銃器の扱いもできない。

 サバイバル知識があるわけでもないので、幼少期はかろうじて生き残ったが、それ以降を物量で押し切ってみたり、銃器があまり使えないから至近距離以外ではアイラに銃撃戦を任せてみたりと仲間頼りな不器用さん。だから途中でろくに料理方面では活躍しない。


 彼を異常者として書きたかったのではないが、没個性に終わらせたくはなかった。

 何かを選択する時に、そのように選択できればいい、またはそのように選択するだろう、という理解か共感のどちらかを得られるようにしたかった。

 かといって、同じ出来事が起こったときに同じように反応するのではあまりに芸がないし、じゃああり得ない反応をさせるのかと聞かれればそれも違う。


 それに関して、今まで述べてきたように「正当化しない」しかし「正しくなろうとはしない」という部分で人間の誰にでもありそうな欠点や嫌な部分をコミカルに笑い飛ばせるような人格であるようにと彼を見てきたつもりである。


 誰もが自分の好きな人にだけ優しくありたいと思っているし、好きな相手と嫌いな相手では態度も変わるだろう。楽して勝ちたいと思うし、仲良くなりたくって打算の上でよく見られようとしてみたり、甘えてくる相手を甘やかしたかったり、暴力衝動もあるかもしれない。

 そんな諸々の部分を綺麗事で塗り固めて、自分はしないような方向で行動させて、主人公を正しくするのではなく、あえて悪い部分そのままに押し出したのがレイルというキャラになろうか。


 とりあえず、彼を書くのは楽であった。

 眩しいほど性格の良い人を主役にする方が難しい。他には常時ハイテンションにするのもなかなか難しいか。

 私自身がイタい、中二病のケがあったのもあるからだと思う。性格はお世辞にも良いとは言えないし。暗いわけではないけれど。


 主人公は感情移入と憧れ、そのどちらかこそが魅力であるというのが私の考えである。

 だからこそ、転生という感情移入のしやすい形をとった。現代の普通の人の感覚とどれほど差異があるかどうかはわからないが、その両方が少しでも伝わっていたのだろうか。

 あの作品を読んでくれた人には彼がどのように見えたのだろうか。おそらく人によってもかなり変わるのだろう。自意識過剰、優しい、賢い、現実主義者、中二病、外道邪道、鬼畜、普通の人間……おそらくぱっと思いつくだけでも結構ある。

 私がこの作品を楽しんだように、レイルは世界を愛せていただろうかと。


 そんなわけで、彼はこの作品の主人公である。

 他にも主人公になりうる人物はいただろう。

 それでもやはり私は彼を主人公に押そう。

 自分を間違ったまま認めてもいい。

 ダメな自分をダメなまま好きになればいい。

 そんな後ろ向きなメッセージと共に。



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