ナーシサス家の魔道具 その2
ボイラーと言っても前世の知識の中に正しいボイラーの構造など持っていない。
だが、やることはわかっている。
どう効率よく熱を水に伝えるかでしかないわけで、我が家にあるようなヒートシンクに直接電熱線が付いているタイプでは故障した時誰も直せないだろうと思うのだ。
「配管を細くして直接熱源を張り付けたほうがいいかもなぁ……ただ、配管の中に水が満たされていない状態だとロウ付けがやられちゃうし」
ポンプの圧力を高めにして常に配管内に水を満たすようにするしかないかもしれない。
圧延が出来れば銅管も簡単に作れるが、当然そんな技術も設備もないので銅板を丸めるしかない。
いっそ電縫管のほうが可能性があるかもしれない。
魔力によって電子を自在に操れるのであれば、アーク溶接的なことは魔法で出来るはずだ。
たぶん、私しか使えない魔法なうえに、魔道具に落とし込むのは大変だろう。
手ごろな魔石でやろうと思うと一発で魔石が壊れる気がする。
「ともかく、板材を丸める設備も作らないとダメか……旋盤があるからまだローラーは作れると思うし、おいおいかな」
とにかく何かを作るためには設備が足らない。
全部手作業で行う事になるから、ものすごい高コストになる。
それでもナーシサス家は購入してくれるというのだから、まずは設計を終わらせてしまおう。
「お嬢様、そろそろ領主様とのお時間ですよ」
「わかったわ。今行きます」
ようやく概略図ができたあたりで、メイドのセシルが部屋に訪れた。
もう領主教育の時間らしい。
服装を整えて母の執務室へ向かう。
「アデル、ここ数日机に向って何かを書いているそうね」
「侯爵家から依頼の給湯器の設計です。そろそろ大枠が完了しますよ」
「そう、そのナーシサス侯爵から手紙よ。夜会のご招待みたい」
「私にですか?」
私の問いに母は頷きで答える。
手紙を受け取れば確かに招待状は私宛だ。
普通は領主たるお母さまあてなのだが。
「侯爵から、私の代理としてアデル嬢をといわれているわ。しっかり頼むわよ」
これはたぶん、給湯器の件もあってのようだ。
夜会の日の前日から来るようにと書いてあり、そのまま侯爵家に連泊することが許可されている。
「しっかりお勤め果たしてまいります」
「今年は収穫量が良かったけれど、来年がどうなるかはわからないのだし、貴方の工場とやらの計画もあるんだから、資材だとか材料だとかで必要なものがあれば各家と交渉するのよ」
「はい、お母様」
私の社交デビュー後、初めての正式な夜会だものね。
侯爵領内の各貴族家との取引についても話し合ったりしないといけない。
夜会はただのパーティーではなく政治の場なのだから、気を引き締めないといけないわね。




