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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
5章 英雄──神断ち、のち、愛
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85. ルカ語会話

挿絵(By みてみん)


「ご主人様、お客様がいらっしゃいました」


「……んあ?」


 僕の安眠は、ルチカによって断ち切られた。

 ……まだ昼間だぞ。


 神転してから、また人間の身体に戻る。こうすることで設定しておいた人間の姿を形成できるのだ。

 寝ぐせも服装も早変わりという便利機能。


「それにしても、誰が来たんだ? 予定は入ってなかったと思うんだけど」


「……ご覧に、ふっ……なればお分かりになるかと」


 ん、何か今ルチカが笑った気がする……気のせいかな。


 階下に降りて応接間へ行くと、そこには──


「……!? こ、皇女殿下? お、お待たせいたしました……」


 リンヴァルス帝国第二皇女、リーシス・フェン・リンヴァルス。

 薄紫の中に雅趣のある藤紫の髪を束ねており、皇女らしく落ち着きのある姿勢で座っていた。以前、祝帝祭で僕に話しかけてきた剣士の皇女様だ。


 彼女は立ち上がり、僕に視線を向け……と、眼帯を左目にしているな。まさか怪我でもしたのかな?


「皇女? はて、なんのことでしょう……? はじめまして、私はベロニカといいます。今回はアルス様に折り入ってお頼みしたいことがあり、お邪魔しました」


「なるほど。それで皇女殿下、ご用件は?」


「ですから皇女殿下ではありません。それから敬語を使うのは辞めてください」


 そうは言われてもな……相手は皇女殿下だし。


「そもそも貴方も敬語使ってるじゃないですか。流石に気が引けますね」


「私は後輩だから良いのです。……そして用件なのですが、我が師匠の闇の力が覚醒しそうになり、これ以上の稽古はつけられないとの事です。そこで一番弟子たる貴方から深淵たる破滅を学ぶように仰せつかったのです。もちろん、運命の廻り合せの歯車が噛み合わなければ、引き受けてくださらなくても結構です」


 僕が師匠と仰ぐのはルカ師匠のみだから、彼女の言う師匠はその人だろう。

 ふむ。ルカ師匠のいつもの癖が発症したのを真に受けて……というよりも師匠が稽古をつけるのを面倒臭くなって、僕に丸投げしてきた。そこで僕から破滅の型を教わるように言われたと。もちろん、時間の都合が合わなければ引き受けなくても良いらしい。


 ……しかし、皇女殿下が師匠に師事していたとは初めて知った。彼女が破滅の型を使っている場面は見たことがないし。


「いえ、運命の歯車は重なっています。ただ、貴方のお父上がこの定めを受け入れているのかどうか……その返答によりますね」


「はい、お父様は定めを受け入れております。彼はこの運命に抗いましたが……最終的に我が言霊によりこの運命に囚われたのです」


 陛下も了承済みか。リンヴァルス宮殿で皇女殿下に剣術を教える事はあったものの、ここディオネで教えるとなると……ちょっと不味い。もし皇女殿下の身に何かあった場合、僕は責任を負えないからな。


「私は未だ破滅の力をその身に宿していません。師匠からは今のお前はまだ未熟で、教えるのに値しないと言われました。破滅の神髄をご教授いただきたく……」


 彼女は師匠から破滅の型を微塵も教えてもらっていないらしい。僕が教えてもらい始めた頃よりも、今の彼女は強い筈だから、教えるに値しないわけがないんだけど……。

 僕も彼女に剣術を教える時は破滅の型は使っていないし、教えていなかった。破滅の型は戦い方が独特過ぎるし、会得するにはかなりの量の鍛錬が必要となるからだ。


「僕以外に師匠に師事してる人が居るなんて初めて知りましたよ」


「はい、私もつい最近まで先達が居るとは知りませんでした。……それで、引き受けていただけますか?」


「……少々お待ちください」


 僕は立ち上がると、ルチカにもてなしておくように言いつけ二階に向かった。

 さて、確認させてもらおうか。



 電話を掛けるのは皇帝陛下だ。普段ならば宮内処務を通して連絡するのだが、今は緊急で個人用の携帯に電話させてもらう。


「もしもし、アルスです。お忙しいところ恐れ入ります」


『おや、アルスさんですか。どうかしましたか?」


「リーシス皇女殿下の件について、ご存じですか? 何やら奇妙な恰好をして尋ねて来たのですが……」


 多分あの眼帯は怪我して着けたものではない。師匠の影響だ、間違いなく師匠の悪影響だ。


『奇妙な格好、ですか? あの子が師匠からアルスさんの元に師事しろと言われたそうで……たしかに許可を出しました。ご迷惑でしたらぜひとも断って下さい』


「いえ、陛下に確認を取りたかっただけです。ただ、皇女殿下の身に何かあれば責任を負えませんので……もちろん最善を尽くしてお守りしますが」


『なるほど、そこまで気が回りませんでしたね……すみません。では、全責任は私が負うという契約書をお送りいたします。ホワイト家に迷惑は掛けさせませんので、ご安心ください。まあ、有事の際には防壁の指輪が守ってくれるでしょう』


「はい、分かりました。それでは」


『はい、よろしくお願いします』


 ……それにしても、陛下は本当に寛容な人だ。普通は皇族の娘が家を出るなんて言ったら全力で反対するだろうに……考え方が柔軟というか、先進的というか。

 さて、この一件にどうやって対処したものか。


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