異伝6. 相克する因果
信じたくなかった。
目を背けたかった。
運命は、因果は、残酷だ。
いつもいつも、私達の幸せを崩してしまう。
「ロール、おはよう」
「ロール、大丈夫?」
「ロール、最近元気ないね」
私はロール・ライマ。その名を、私の最初の友達が何度も何度も呼ぶ。その度に、心行かぬ猜疑と狂気が私の心を押しつぶした。
どうして、よりにもよって彼を友達にしてしまったのだろう。
──もう、関わらないで。
その一言が、どうしても紡げなかった。
「……方舟が堕ちた」
その時、悟った。
二人の道は交わらない、交わってはいけない。
彼が永劫の焔を消し去った瞬間、我らの道は分かたれなければならなかった。
災厄の御子と、共鳴者。
秩序の駒と、混沌の駒。
私が彼を殺すか、彼が私を殺すか。
定められた未来は、一つだけ。
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力。
力。
力。
民を守る為に、世界を守る為に、必要なモノだ。
僕にはそれが欠落している。
魔物との交戦で傷を負う度、剣豪に敗北を重ねる度、悲しむ民を見る度、僕はそれを自覚して拳を握りしめた。
僕は偉大なる霓天の末裔であり、聖騎士ヘクサムの息子だ。
敗北は一度たりとも許されない。
民の信頼を裏切ることは許されない。
弱き者であることは許されない。
力。
力。
力。
騎士として、霓天として。
力への渇望が止まない。聖騎士を破れど、竜を殺せど、止まない。
呼吸、凶手、願望、慟哭。
──だって、僕は『他の人たち』を守らないといけないから。
「アルス、おはよう」
「アルス、大丈夫?」
「アルス、その……今日は忙しいから」
僕はアルス・ホワイト。僕の最初の友達と距離が離れていくのが如実に分かった。その度に、僕の中で力への渇望は増大し続けた。
どうして、僕は弱いのだろう。
──ごめんね、僕を許して。
その一言が、どうしても紡げなかった。
『その力は『他の人たち』を助ける為に使ってあげて。私は別に……どうなっても良いから』
彼女の言葉を聞いたその時、悟った。
二人の道は交わらない、交わってはいけない。
彼女が白鳳星を見上げながら僕を拒絶した瞬間、我らの道は分かたれなければならなかった。
ただの少女と、共鳴者。
ひとりの人間と、混沌の駒。
あの日、僕の理想は死んだ。
定められた未来は、一つだけ。




