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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
4章 蒼と永劫
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70. 首相ニーリ

 ルイム国の製薬会社の地下に位置するグットラック支部。

 そこで指揮を執る『神算鬼謀』エルムは、モニターで団員の配置を確認していた。首都なだけあり、夜中でも街中は通行人がそれなりに多い。ある者は通行人に扮し、ある者は陰に潜み指示を待っている。


 官邸に突入し、首相を暗殺する部隊が間もなく動き出す。

 街中に配置した団員の役割は二つ。グットラックの侵入を察知された場合、付近の警察署からの応援を阻害すること、そして住民の安全を確保することだ。

 最善は暗殺が誰にも勘づかれずに遂行されることだが、まず不可能だとエルムは視ている。


 手元には首相について調べたデータがある。ルイム国の支部が製薬会社だった事が功を奏した。首相のニーリの裏は極めて怪しく、危険人物の可能性がある。

 簡潔に言えば、リフォル教と手を結んでいる。リフォル教と共に首相が行っている人体実験……そこに製薬会社の一員がスパイとして潜り込んだ結果、明らかになったことがある。この国を災禍に陥れる芽は、首相の手によって既にこの首都全域に撒かれていたのだ。他国もまた、この事実を掴んだが故にグットラックの力を借りることになった。

 他の支部長にしかこの情報は伝えていない。団員の誰が間者か分からないからだ。


 これから起こるのは、戦争。世間的に見ればグットラックとリフォル教の喧嘩ということになるだろうが……構わない。嫌われながらも、踏み躙られる者を守る事がグットラックの役目なのだから。


「さて、読みあいといこうぜ……リフォル教」


 もはや首相の暗殺はエルムの眼中にない。

 この都市に潜む『闇』に目を凝らしていた。


                                     -----------


 首相官邸の陰に、僕達は三部隊に分けて隠れていた。


「おい変態、準備は良いか?」


 背中にギターを背負った団員……フリンが訪ねてくる。彼はあのギターが武器らしい。

 僕、『轟音』のフリン、『白舞台』のシトリーの三人で東側から突入することになる。あとは西から突入する部隊、そしてマスター率いる暗殺部隊だ。

 突入する、と言ってもマスターの部隊が警備に発見された場合、もしくは暗殺に失敗して逃げられた場合に動くだけだ。


「ああ……とはいえ、マスターが失敗するとは思えないが」


「変態さんに同意。そもそもこんなに人数必要なのかなあ?」


 シトリーが退屈そうに欠伸をする。彼女の表の顔はアイドルなのだが、いつもとは違って今は隠密に適した地味な衣装を着ている。


「まあ、エルムの計画だ、何か考えがあるのだろう。今は指示を待つしかない」



                                     ーーーーーーーーーー


 その頃、マスター率いる暗殺部隊は首相の元へと順調に進んでいた。警備の監視を巧みに潜り抜け、暗闇の中をマスターと他の二人の団員が疾走する。


「……ここか」


 標的が居ると思われる扉の前に辿り着く。


「俺が突入し、速攻を仕掛ける。仕留め損ねればフォローを頼む」


 マスターの言葉に両脇の団員が頷き──扉が開かれる。

 その部屋はベッドが備え付けられた執務室のようだった。しかし、深夜にも関わらず首相ニーリの姿はベッドには無く、彼は窓際に佇んでいたのだった。


 窓際に居た標的の姿を捉えたマスターは、躊躇わずに重力負荷の攻撃を叩き込んだ。

 しかし、


「これはこれは、グットラックの皆さん。ようやく来たのかね」


 ニーリは飄々と手を広げて見せたのだった。

 他の二人はすかさず追撃を叩き込もうとするも、他ならぬマスターの手によって遮られる。


「マ、マスター!?」


「……撤退し、『神算鬼謀』に連絡しろ。ここは俺が引き受ける」


 彼の言葉に団員達は困惑する。たしかに、マスターの重力負荷攻撃が効かなかったのは謎だが、魔道具で結界を張っていただけかもしれないのだ。

 そんな彼らの疑念は、一瞬で払拭されることになる。


「おや……まさか逃がすとでもお思いかね?」


 ニーリの身体の各所から、白い茨のようなモノが次々と生えてきたのだ。

 まるで彼の身体の一部であり、意思に従って動いているかのように蠢く触手が。


「なっ……!? 魔族、だったのか……!?」


「魔族? ……いいや、違うとも! 私は新たな生命体、君たち人間の上位種族だよ!」


 彼は高らかにそう宣言し、触手を忙しなく動かした。

 明らかに正気の沙汰ではない態度を前にマスターは指示を出す。


「……退却しろ」


「りょ、了解!」


 この異常事態を前にしても、なお冷静な指揮官の言葉に団員達は従い、出口を目指して駆けだした。


「ハハハ、逃がさないと言っただろうッ!」


 二本の触手が離脱しようとする彼らの背目掛けて迸る。


「『翻倒』、歪曲……!」


 マスターの異能が発動。触手の軌道を翻し、捻じ曲げようとする。数多の戦局を打開し、勝利に導いてきたこの異能……並の攻撃ならば容易く退けてしまうものだった。

 しかし、触手はあまりにも強力かつ強靭であった。受け流しきるには即席の技では至らなかったのだ。


 ──不味い。団員の背が貫かれるかと思われた、その時。


 銀閃が走った。


「ぐッ……!」


 苦悶の声上げたのはニーリ。

 見ると、伸びていた触手に銀の短刀が突き刺さり、壁に貼り付けられていた。この妨害のおかげで、団員達は無事に離脱できたようだ。


 暗闇に溶け込んだ紺の髪、この場には似つかぬ使用人の服。

 彼女が短刀を放った張本人だ。


「君はたしか、ホワイト家の使用人……助かった」


「『翻倒』のバーマスター様。お久しぶりでございます」


 ここでマスターはアルスが助力に来ていたことを思い出す。彼がどこの部隊に配属されたのかは不明だが……ルチカを暗殺に遣わしていたようだ。彼女に戦闘能力があること自体、マスターは初めて知ったのだが、この展開は僥倖だった。


「ふん……新手か。まあ良い、感謝するぞグットラックよ……貴様らのお陰で大規模な実験が出来るのだからな。もはやこの都市に逃げ場など、どこにも無いのだよ!」


「この都市全域に実験個体が配置されていることを知って、我らが参謀は策を練った。お前がリフォル教と結託している事も予測してな」


「それは結構。だが、君らの見えているものが全てだとは思わないことだ!」


 マスターは彼我の力量差を分析する。先程のように突発的な攻撃を食らわない限り、遅れを取る事はなさそうだ。

 状況を静観していたルチカから声がかかる。


「バーマスター様。お一人で首相の相手は十分だと判断した為、私は別件の対処に当たります」


「ああ、頼む」


 そう告げると、ルチカは闇夜の中に溶けて消えていった。

 

「……舐められたものだな。この首都を災禍に落とし、住民を全員兵器に改造する。そして私はリフォル教の大司教となる……まずは君を殺し、栄光への第一歩とさせてもらおうッ!」


                                      ーーーーーーーーーー


「……ここまでは大体予想通り、だな。後はリフォル教の規模次第、か。マスターを助けたヤツが唯一のイレギュラーだが、味方みたいだし問題はない。……さて、ボクもそろそろ指令を出し始めないと、な」



 

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