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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
3章 壊れたココロ
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異伝5. Bifurcation

 夜空に浮かぶ月をぼんやりと眺めていた。

 今日、私の家を満たした光は月明かりだけ。友人の叙勲式を見てから、動く気も起きずに中空を見つめて……気が付けば夜になっていた。


 起き上がり、動こうとした時。

 リーン、と家の中に無機質な音が響いた。こんな夜更けに誰だろう?

 下階に降り、玄関の扉を開く。冷たい風が隙間から吹き込んだ。


「……ごめん、寝てた?」


「あ……」


 水色の瞳が、夜闇の中で綺麗な輝きを放っていた。


 私が一番、会ってはいけない人。……でも、


「ううん、大丈夫。外じゃ寒いし、入って」


 自然と笑みが零れて、彼を受けいれてしまった。もう、彼に私は必要ないのに。

 電気を点けて、居間で彼にお茶を出す。


「ありがとう」


 今日の彼はどこか憔悴しているように見える。叙勲式の疲れかな。

 心配だな……


「……ロール、なんか疲れてる?」


「えっ!? ……そ、そういうアルスこそ疲れてるみたいだよ」


 お互い、隠そうとしても隠せないんだなあ。


「ははは……」


 力なく彼は笑った。両親を亡くした直後のような、誤魔化す笑い方だ。

 マリーちゃんが家から離れて以来、よくこんな笑い方をするようになった。


「何か悩んでるの?」


「色々あるよ。たとえば、騎士のこととか」


「選抜戦と叙勲式、見たよ。かっこよかった」


 素人の私には何をしているのかよく分からなかったけど、聖騎士と戦っている彼は凄かった。動き自体は見えても、技量が高すぎて何をしているか分からなかったんだ。


「そうかな? 感想の殆どで、早すぎて動きが見えないって言われたけど」


「動きはちゃんと見てたよ。あれ……ええっと、ハメツのカタだっけ? 三回戦と五回戦で使ってたよね」


「え……すごいね。たしかあの試合は普通の動体視力じゃ追えない動きをしてたんだよ」


 多分、私が強い人たちの動きを追えるのは、『秩序の加護』のせい。

 目の前の親友にも話せない問題。それが私を生まれてからずっと、苦しめている。今こうして彼と居る時も……いや、彼と居るほどに苦しくなる。


「これ、何か分かる?」


 彼は腰に下げていた剣を外し、私に見せた。

 よくよく見てみると、見慣れた霓天の家系の紋章に、ディオネの国章。


「父さんの形見だよ」


 ヘクサムさんの騎士剣。

 アルスは騎士になった。だとしたら、彼にはこの剣を扱う資格がある筈だ。


「この剣、使うの?」


 彼は困ったように苦笑いして、


「どう思う?」


 そう聞いてきた。多分、答えを言ってほしいのではない。

 ──でも、私なりに考えるなら。


「ヘクサムさんは、アルスにこの剣、使ってほしいと思ってたんじゃないかな」


「……どうしてそう思うの?」


「アルスが留学中、マリーちゃんと遊びにホワイト家にお邪魔することが何回かあったけど……ヘクサムさん、たまに剣を磨いてたんだ。この剣なのかは分からないけどね。でも、その後にアルスの部屋を掃除してたし……騎士剣を磨いて、将来アルスが騎士になった姿を思い浮かべてたのかも。なんだかんだ、将来は一緒に騎士としてお仕事したかったのかなって」


 ヘクサムさんも、ナニラさんも、アルスが帰って来るのをずっと待っていた。

 もしもアルスが帰って来て、すぐに私とエイリア共和国に行かなかったら。彼も狂刃の手にかかって死んでしまっていたのか、それとも彼が親と共に狂刃を倒していたのか。

 過去に『もしも』は無い。私の両親も、彼の両親も亡くなった事実は変えられない。だから、ヘクサムさんの気持ちを知ることなんてできないけど……私が考えるなら、こうだ。


「……そう、か」


 どこかホッとしたように彼は笑って、それから剣の紋章を指でなぞった。

 それから腕時計を見て、


「ごめん、もう眠いだろう。そろそろ帰らないと……」


「まだ、悩んでることあるんじゃないの?」


 彼のしがらみが少し取り払われた様子を見ると、もっと一緒に居たくなる。


「そう言う君にだって、悩みはあるだろう。最近、ずっと浮かない顔してるからね」


「あはは……私の悩みは話せないんだ。すごく深刻な悩みだとか、そういうのじゃないから大丈夫。人付き合いで、ちょっとね」


 まさか、あなたとこれ以上関わる訳にはいかないんです……なんて本人に面と向かって言うことはできないし。

 それに、まだ……あなたが『共鳴者』だって決まったわけじゃない。


「明日、休みだから遅くなっても大丈夫。私で良かったら、もっと話聞くよ。……そうだ、屋上でキャンプしようよ! 今日は白鳳星が見えるらしいよ」


 白鳳星は大昔に戦いの神様が武器を投げて、とある星に突き刺さった星だっていう神話がある。白く輝いているのは神様の武器の光で、探査機が実際に謎の形状の道具が刺さっているのを確認している。


「キャンプかあ……懐かしいね。子供の頃はよくしてたっけ。ロールが迷惑じゃないなら、しようか」


「うん。望遠鏡とかいろいろ、取って来るね」


 年甲斐もなくワクワクしてしまう私がいた。

 特別な星が見れる夜。そんな空気に酔ったみたいに、足取りが軽くなる。心の奥底では、現実から目を背けている事に気づいていた。


                            * * * * * * * * * *


 紫紺の夜空に白光が瞬く。

 かつて戦神が災厄との戦いで残した爪痕、白鳳星。晴天の試練で相対した神の姿がフラッシュバックする。

 僕もやがて共鳴者として災厄と戦う日が来るのだ。そう思うと、漠然とした不安が心を呑み込んでいく。


 隣ではロールが星々の瞬く夜空を見上げていた。彼女の瞳に光が映り、美しく輝いていた。


「……騎士の先輩がさ、こう言ってたんだ」


 彼女と居ると、心から懊悩が淀みなく流れ出ていく。


「騎士の仕事は、誰かを守ることなんだって」


「へえ……アルスだったら守れるんじゃないかな。ディオネの人達はみんな活躍に期待してると思うよ。霓天として、英雄として、国を守る……私にはそんなアルスの将来が見える」


 面白い事を言うなあ。英雄の器なんて、僕にはないよ。

 でも彼女を失望させるのも悪いから黙っておこう。


「国とか、人々みたいな曖昧なものじゃなくて。一番守りたい人、分かったんだ」


 ロールは夜空から視線を逸らし、僕を見た。その瞳は、どこか憂いを帯びている。



「……誰?」



「ロールだよ」



 僅かな沈黙が流れた。

 彼女の表情は、暗くてよく見えない。



「そ……っか。……でも、ごめんね。その力は『他の人たち』を助けるために使ってあげて。私は別に……どうなっても良いから」



「……どうして、そんなこと言うんだ」



 分からない。彼女のそれは拒絶じゃない。

 僕だったら言われて嬉しい言葉で……彼女にとってもそうだと思っていた。

 お互い、全て分かっている気でいた。でも、彼女の心を僕はまだ分かっていなかった。


「……焔の凶星が迫ってる。あの白鳳星すらも焼き焦がしてしまうような、恐ろしいモノが。天は穿たれ、地は焼ける。あなたは其から人々を守らなきゃいけない」


「何を……?」


「なんでもない。……あ、あの星は何?」


 これ以上は、彼女が嫌がっている気がした。

 複雑な想いを胸中に抱えて、他愛もない言葉を僕は紡ぎだした。


 もしもこの時から、彼女の抱えているものに気付いていたのなら。

 僕らはきっと──

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