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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
3章 壊れたココロ
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異伝4. 騎士アルス・ホワイト

 金雀枝の花が散った。

 黄色の花が蝶のように舞い、地に落ちる。街の人々は新たな季節に忙しなく動き回り、花を踏んだことにも気づかなかった。


 ──私も一緒に散ってしまいたかった。

 何かの拍子に、誰にも気づかれることなく、静かに。


 私が、あの人から離れられなくなる前に。


                                       



 伝統あるディオネ神聖王国の叙勲式、その様子が生中継されていた。

 士官学校から研修騎士を卒業して騎士となる者、試験を突破して騎士となる者の二種類が居る。

 私の最初の友人……アルス。ホワイトは後者である。


「アルス・ホワイト!」


「はっ!」


 他の騎士の名が呼ばれ、最後に首席である彼の名が呼ばれた。

 首席と言っても、アルスは他の年の首席とは違う。試験終了後に成績優良者十位以内が受けることとなる聖騎士選抜戦で勝ち上がり、騎士就任とともに上位騎士となった。

 世間は彼を天才と讃え、これまでの評価は覆された。

 ……なんだか複雑な気持ちだ。


 十五歳まで傭兵として惰性で仕事を続けていた彼だったが、ようやく公職に就いて、安心している私がいる。両親を喪い、マリーちゃんが離れて以来、彼からはまったく生気を感じなかった。


「……おめでとう」


 そっと、画面の前で呟いた。


 もう彼について心配する事は何もない。

 そう、何もないんだ。朝起こさなくても良いだろう。ごはんをたまに作ってあげることもなくなる。私はもう邪魔なだけ。


 だから、彼から離れないと。

 私が苦しくなってしまうから。


                               * * * * * * * * * *


 叙勲式が終わり、晴れて僕は騎士となった。

 霓天として、聖騎士ヘクサムの息子として、栄誉あることの筈だ。


「よおアルス、お疲れさん」


「あ、ヤコウさん」


「しかし、あっさり俺にも勝つなんてな。見上げたもんだ」


「はは……ありがとうございます。でも、まだこれからですよ」


 笑みを張り付けて謙遜する。

 ……本当に、これからも僕は上を目指そうとするのだろうか。自分でも分からない。騎士になった理由も特にやりたい事が無かったからだし。


『まあ、今すぐに答えは出さなくて良い。いずれ聞かせてくれ。父さんはどんな選択でも尊重するし、なんなら義務感に縛られずに騎士にはなって欲しくないとも思っている』


 ふと、父のかつての言葉が頭に過った。

 僕の選んだ道は、どうだろう。何も悪いことなんてない。期待、憧憬、希望、全てを一身に背負ってここに立っている。それらにもきっと応えられる。


 でも、どうしてだろう。何かが抜け落ちてしまったような。


「……お前さ、幸せか?」


 ────?


「え……?」


 ヤコウさんが、じっと僕を見つめてそう尋ねてきた。


「悪い、なんでもない。忘れてくれ」


 彼は背を向け、立ち去っていく。


 幸せ。

 誰でも手に入れられるものじゃない。最後に幸せだと感じたのはいつだろう。騎士になった時も、傭兵の仕事で大成功した時も、ゲームで勝った時も、幸せなんて……


 辺りでは騎士になった人たちが嬉々として歓談している。

 ……周りに合わせて僕も友人作りでもした方がいいだろうか。


「騎士として、この国と大切な人を守る。それが俺の仕事だ!」


 自身に満ちた先輩の騎士が、僕の同期に騎士の志とやらを喧伝している。後輩は目を輝かせて聞き入り、将来への期待を膨らませているのだろう。


 大切な人を守る、か。

 僕は──誰を守りたいのだろう。もしかしたら、その『守りたい人』を見つけることが幸せへのカギなのかもしれない。




「……アルスさん」


「マリーか、どうした?」


 耳に馴染まない呼ばれ方だ。彼女は人前だと僕のことをお兄ちゃんと呼んでくれない。

 それにしても、彼女から話しかけてくるなんて珍しいな。まともに話したことなんてここ数年で数える程もない。


「騎士就任、おめでとうございます。選抜戦の活躍、お見事でした。私もあなたに追いつけるよう、精進します。それでは」


 ……随分と他人行儀だな。彼女も変わった、ということか。

 僕が守りたいのは彼女?

 うん、それは間違いない。彼女はいつまで経っても、どれだけ心の距離が離れてしまったとしても……大切な家族なのだから。


 マリーを呼び止めようとしたが、同期から話しかけられてしまう。

 愛想笑いを浮かべているうちに、彼女の背はずっと遠のいてしまっていた。


                              * * * * * * * * * *


 結局、あの後マリーと話すことは無く、新歓で帰るのは遅くなってしまった。

 もうすっかり暗い時間だ。無人のホワイト家の電気を点け、まっすぐに自室へと向かう。


「……あ」


 いつもならこのまま風呂に入って寝るんだけど……今日は行かなくちゃいけない所がある。自室を出て、廊下を渡った先……一番奥の部屋の扉を開けた。


 電灯を点けると、埃を被った本棚と机が視界に映る。父の書斎だ。


「……父さん、僕は騎士になったよ」


 壁に立てかけられた父の騎士剣を手に取る。霓天の紋章を刻んだ金飾が煌めいた。

 僕に……この剣を継ぐ資格はあるのかな。


 ロールと一緒にエイリア共和国に訪れる前、父と手合せの約束をしたけれど……その直後に狂刃の襲撃に遭い、約束は果たされなかった。師匠の元で僕がどれだけ父に近づけたのか……それを確かめることも出来なかった僕が、父と同じ剣を振るうことは許されるのか?


 頭の中で問い続ける。

 僕以外に霓天の剣を振るう者は居ない。マリーは弓を扱うことにしたのだから。


 堂々巡りの最中、思考を断ち切るように。

 ふと、思い立ったのだ。僕を一番知っている人に聞けば答えに近づけるかもしれない。

 僕のことを一番知っているのは誰だろうか……それを考えたとき、真っ先に頭に浮かんできたのは、最初の友達。


「起きてるかな」


 窓から隣家を窺うと、明かりは点いていない。いつもの彼女ならまだ起きてる時間だけど……寝ているかもしれないし、流石に迷惑だろう。

 ロールに聞いたって困るかもしれない。戦いに興味なんてない彼女のことだ。父の騎士剣を継ぐべきかどうかなんて、勝手にしろと思う事だろう。


 ──いや、ごめん。彼女は勝手にしろ、なんて思わない。

 きっと自分の事のように考えてくれる。


「……どうしても、今聞きたいんだ」


 僕は、騎士になるのが正しい道だったのかな。

 妹と距離を縮めるにはどうしたらいいかな。

 騎士剣を継げるくらい立派な人間になれたのかな。



 ずっと感じている寂しさはどうしたら消えるのかな。



 幸せになるには、どうしたらいいかな。




 答えは要らない。

 ただ、今、彼女に逢いたかった。

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