エピローグ
灰が舞う砂漠で、一人の少女が歩いていた。
「~♪」
鼻歌を奏でながら途方もない道を。
行く場所なんてない。ずっと広がる地平線、どこにも辿り着けない。
では、なぜ歩くのか。
それはきっと……
「心が止まらないように」
誰に話しかけるともなく、彼女は呟いた。
誰もいない。何もない。寂寞に包まれた空の下、ただ愛しい人を想って。
時計の針が止まれば人は迷ってしまう。
同じように、彼女の心が止まれば迷ってしまう人がいるから。
「~♪」
朝も夜も、晴れの日も雨の日も、光の中でも闇の中でも。
彼女が奏で、紡ぎ続けた運命の糸。
──人はそれを共鳴と呼んだ。
瞳を閉じて思い出してみる。昔、ここにはたくさんの命があった。
鳥のさえずり、虫のさざめき、清水の流れ。
人の笑い、都会の喧騒、魔導車の駆動音。
海際の潮騒、深海のブループ、吹き抜ける風。
すぐに思い出せる。今はもう、ぜんぶ灰になってしまったけれど。
愛しい世界と共に刻んだ記憶が滔々とあふれ出す。
「……元気かなあ」
空を見上げる。雲ひとつない無限の青。
あの天の果て、今も彼女の愛しい人は戦い続けている。苦しんで、藻掻いて、後悔して……まっくらな感情が彼女の魂に届くのだ。
重すぎる運命を背負わせてしまったかな、幸せになっているといいな……なんて想像しながら。
「…………」
彼女は歩き続ける。
ときどき立ち止まり、休み休み。
あの人が生きて戦っている限り、彼女もまた生き続ける。
──ふと、足を止める。
何かを感じ取ったけれど、何もない。当たり前のことだ。
周囲をぐるりと見渡しても一面の灰。
「…………さみしいな」
もう一度歩みを再開しようかと思った、その時。
いきなり空が光った。
まぶしくて思わず目を閉じてしまう。
暗闇の中で、どさり。……と何かが落ちた音が。
違和感を抱いて、おそるおそる瞳を開く。
目の前には──
「……え?」
信じられない光景があった。
もう誰も帰らない、何も存在するはずのない世界に立っていた少年。
「──レーシャ」
水色の髪と瞳を持つ、かつて少女が愛した人。
幻じゃない。夢でもない。
「……どうして?」
少女は問うた。
少年は当たり前のように答える。
「だって、帰ってくるって約束したから。
……ただいま」
「──うん。
うん……お帰り、アルス君!」
少女は笑顔で彼を受け入れた。
もう離れることはないだろう。
二人がただ愛し合い、離れ、めぐりあうだけの物語。
共鳴アヴェンジホワイト──完結




