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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
最終章 立ち向かう者
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193. 今は現実を忘れて

 始祖……とは名ばかりの女、レイアカーツ。

 彼女はいつもだらしなく、そして無気力。だけどそんな彼女にも一つの信念があったのだ。


「んんんんんん! イージア、右向け右!」


 とても恥ずかしくて人には言えないけれど、始祖としてリンヴァルスをさらに発展させたいという願いが。この国の唯一神……リンヴ=アルスをろくろのようにクルクル回し、彼女は型を取り続ける。

 国の守護神である鳴帝を商業的に利用しようというのだ。リンヴァルス神のぬいぐるみやモチーフの仮面を売りさばき、国をより潤わせるために。まずは資料集め。実物のアルスを使って細やかなところまでデザインを捉える。


「…………あの、レア」


「実は私ね、多少は絵画や彫刻の心得もあるんだよ。安心しておきたまえ。決して君を下手な芸術で再現したりはしないから」


 自分を経済的に利用するのは、アルスとしても賛成だった。

 しかしレアによる拘束は面倒だ。


「君の型を取ったら、次は観光地に作る等身大の彫像だ。仮面クッキーと鳴帝の槍チョコレート、ぬいぐるみは既に製作を始めている。まあ今のところ経済的な利益はそこまで出ない見積もりだけど……長期的に見れば国のマスコットを作っておくことは大いに利益を生む。偶像崇拝ってやつかな?」


「まあ、それはいいんだが。神代が終わったというのにリンヴァルス神の威光に縋るのはいかがなものか。私だっていつまでもリンヴァルス帝国を守れるわけじゃないし」


「概念だけでいいんだよ、神様なんてのは。実際、建国から五千年くらいはリンヴァルス神なんて生まれていなくても概念上で機能していたし。左向け左」


 この世界の神族は既に神としての力をほとんど失っている。別世界の神であるアルスは別だが。

 龍神もほか三神も、既に人々を助けることはなくなった。人々が神の喪失に気付くのがいつかは分からないが……それが憎悪に反転しないことを祈るのみだ。


「どちらにせよ私はリンヴァルス帝国の今後の方針には関わらない。レアがどんな未来を望んでいるのかは知らないが、好きにしてくれ」


「うんうん。まあ私も政治には干渉せず、こうして地味な活動を続けるだけさ。因果消滅と共に災厄の御子としての役目も消えたしね。あとは余生を謳歌するだけー」


 レアは幸せそうだ。アルスには彼女が幸福であるという事実だけが見えていれば満足。

 ただし、イージアがこの世を去っても彼女が幸福でいられるのかは分からない。災厄の御子という言葉に反応して、軽く本命の話題に誘導する。


「ただ、災厄はまだ全部消えていないな」


「ああ。邪剣の魔人だね? アレはあまりに力が強すぎて因果消滅でも消し切れなかったみたい。かなり力は減衰してると思うけど……依然として災厄として機能しているね。世界最後の災厄ってことさ」


「彼を倒さない限り、本当の因果に囚われない世界は訪れない。最後の災厄を払うことが私の責務だ」


「…………まあ、まだまだ時間はあるし。そんなに急がなくてもいいじゃない?」


 邪剣の魔人と対消滅し、この世を去る。

 最後に残された共鳴者としての使命。まだ時間的な猶予はあるからと、レアは現実から目を逸らすように笑った。その笑顔がアルスにとっては苦しい。


 だが果たさねばならないのだ。今や邪剣の魔人を倒せる存在は地上には彼しか存在しない。

 力を大きく失った神々も、創世主も、誰も倒せない。異世界の存在であり、未だに混沌の因果を持つ共鳴者だけが為し得る大願。


「頭の隅には置いておいてくれ。いつか私が邪剣の魔人を倒しにいくということを。……さて、こうして君の命令どおりに動くのも飽きてきた。おやつの時間にしよう」


「お、いいね! 始祖特権で用意した特上の茶葉で紅茶を淹れよう。なんなら私がケーキでも焼こうか?」


「ああ、チョコケーキでよろしく」


 ただし、今は現実を忘れて。

 穏やかな日々を過ごしていこう。


 ~・~・~


 レアは顔を上げ、ケーキの皿から向かいに座るアルスへ視線を移す。


「ところで。イージアの今後しばらくの予定は?」


「楽園の復興がほとんどだな。後はバトルパフォーマンスの布教活動に、破滅の型の指導とかを少々。……ああ、一か月後にはソレイユにも行く予定だな」


「……ソレイユ!? あの隔絶領域の!?」


 ガタリと音を立ててレアは仰け反る。

 ソレイユといえば因果消滅以来、結界に覆われて何者にも立ち入ることは許されない土地となった。何人かソレイユから外部へ移住してきた人がいるものの、誰も国内であったことは語りたがらず口をつぐむ。


 レアはアルスから大体のあらましは聞いていたが、実際に見てみなければ内部がどうなっているのか分からない。アルスとしてもソレイユへ入るのは厄滅以来、およそ二十年振りのことだった。


「私もいく」


「……どうだろうか。ソレイユの救世主である私はおそらく入れてもらえるが、レアは関係者じゃないからな。入国拒否されるかもしれない」


「君がどうにかしておくれ。ああ、そうだ。イージアの姉として入国しよう、そうしよう」


「はあ……まあ、可能な限り交渉はしてみるが。一か月後だ、寝坊しないように気を付けてくれ」


 ソレイユへ赴くまでの間、アルスのやるべきことは変わらない。

 百年にわたり荒廃した楽園は未だに回復していない。まずは復興を。


 彼はレアと約束し、楽園へ戻った。

レイアカーツ〔神代02-〕

リンヴァルス帝国始祖。その正体は長らく謎に包まれており, 後81年まで容姿や性別すら判明することはなかった。始祖は存在そのものが疑われていたが, 始祖の怒り(神代4911)によって存在が確認され, 他国からは大きな脅威と見做されていた。後81年, 玉音によってリンヴァルス神の消滅とリンヴァルス帝国の終了を宣言。以後はリンヴァルス国として始祖階級, および神階級は撤廃された。八重戦聖のグラネアも因果消滅と共に消滅したため, 現在の存命は確認できない。しかしながら, 時折リンヴァルス国で彼女に似た人物を見たとの報告がある。

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