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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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182. 世界が壊れ、果てに

 暗黒が世界を染め上げる。

 誰の目から見ても、その光景は終焉を意味したものであった。壊世主の宣言通り、世界は滅ぶのだと。

 無数のエムティングが飛翔して嗤い、メロアが勝鬨を上げる。


 絶望の光景を前に誰もが膝を折った。

 揺るがぬ信念を以て挑み続けた魔導王、封印の手段を失った調停者、最後まで厄滅に抗い続けた英雄たち。


「……ここまでか」


 ソレイユは滅び、アビスハイムの死と共に国を覆う対壊世防御術式も解除される。暗黒は世界へと波及し、全てを奈落の底へと突き落とすであろう。

 ──もう立ち上がることはできない。


 厄滅の果て、人々の瞳に宿った諦念。

 ああ、だけど。ただ一人だけ……毅然として立つ者があった。元から彼の瞳には光なんてない。全ての喪失を経験し、抗い続けた彼だからこそ。


共鳴(アンチスフィス)──解放」


 諦めるわけにはいかなかったのだ。

 彼は嫌というほどに世界を愛していた。もしかしたら、世界を創った主よりも。


 壊世主ゼーレルミナスクスフィスの重圧にも負けず、押し寄せる暗黒にも負けず。決して諦めない英雄の姿があった。立ち向かう者がいた。

 彼の傍には真っ白な男。ああ、彼も抗うのか。


「アルス。やはり君は変わらないね。僕もまた諦めてはいない。ならば……二人で奇跡を起こそうか」


「AT、もう一度(・・・・)……背中を預けるぞ」


「……! ははっ……君というやつは……いいだろう。アビスハイム、ノア、君たちも。へたり込んでいないで、立ち上がるんだ。僕たちはまだ負けていない」


 遠き世界線の果て、二人は再び絶望に抗う。

 残酷な運命がどれだけ彼らの前に立ち塞がったのだろう。それでも彼らは世界を護ろうと躍起になって……


 ならば、私も。

 アルス──立ち向かう者よ。


『…………あなたに祝福を。その意思が何者にも屈さぬように、共鳴を』


 ~・~・~


 魂に尋ねてみる。

 私はまだ戦えるのかと。


 言葉での返答はなかった。しかし、我が内にあるレーシャとの共鳴(アンチスフィス)が……高鳴っている。まだ私は高みを目指せる。

 ここで終わるなんて御免だ。


共鳴(アンチスフィス)──増大」


 まだ彼女は遠い世界で共鳴を繋いでくれている。力をさらに引き上げてくれる。

 そして、私の背後に立つATもまた……


「『地真実灰・開闢』」


 彼は再び安息世界を展開。

 灰色の大地が広がり、秩序の力を減衰させる。


 ようやくわかったよ。なぜ君がATと名乗ったのか、なぜ新たなる創世主として君臨することが許されたのか、なぜ存在しないはずの魂を持っていたのか。

 ……愚鈍な私を許してくれ。


「頼む!」


「任されたよ」


 一息で駆け出す。互いの思考は理解している。

 戦場を駆け抜け、押し寄せる黒化エムティングの波を一瞬で灰に変える。凄まじい力だが、まだまだ共鳴の力は引き上げられる。

 ATはこちらの殲滅具合を見て安息世界における創世主の力を行使。天より降り注いだ白茨がメロアを捻じ伏せていく。


『足掻くな、救世者? しかし無駄なこと。際限なく現れ続ける眷属に、お前はやがて疲弊し斃れるのだ』


「知った事か。ならば私の終わりが来るまで戦い続けてやろう」


『なぜ抗う? 我が身を滅ぼせば世界も同時に滅ぶ。もはやお前らに勝ち目はないのだよ』


 それでも。奇跡が起こるかもしれない。

 ……なんて、淡い期待だ。だが私は何度も奇跡を体験してきた。もう一度くらい、起こしてみせようじゃないか。


『もうよい。飽いたぞ。お前は我が身が直々に裂き殺してやろう』


 異形が動く。壊世主の本体を相手に、この力で太刀打ちできるだろうか。

 いや、まだだ。さらに共鳴を高める──!

 願うはかつての故郷、滅びし世界。灰の砂漠で眠り続ける共鳴を誓いし少女。


「レーシャ……!」


『させるものか、救世者!』

『抗う救世者を殺せ!』

『我らが主のお手を煩わせるまでもない!』


 ……駄目だ、周囲のエムティングが妨害を仕掛けてくる。

 より共鳴を高めるには隙を晒して瞑想をしなければ……だが時間がない。


『──悪しき者よ、去りなさい』


 瞬間、風が吹き抜けた。迫ったエムティングは神気に呑まれて動きを止める。

 どこか懐かしく、温かい。この声は……


 ふと、天を見上げる。

 暗黒を裂いて無数の光が駆けていた。夜空に翔る流星のように。


「ぶち抜き失礼仕るっ!!」


 白鳥に乗って飛び降りた少女は、思いきり壊世主へ槍を投げ飛ばした。

 こちらへ向かっていた壊世主は衝撃を受け、足が止まる。


『ほう……これは!? ク……クハハハハハッ! 嗚呼、面白いことになってきたな! くだらん駒供が!』


 巨龍が神炎を吐き、白狼が牙を突き立て、大魚が濁流を巻き起こす。

 盤上世界(アテルトキア)を守護する神々が舞い降りた。ソレイユを覆う対壊世防御術式すらも突破し、この暗黒満ちる世界へと。


「やあやあアルス君! ぼくたち参上さ! ルミナがまた悪さをしたらしいね?」


「セティア、これは一体……」


「うん? だって世界の危機だもん。そりゃ戦いに来るでしょ?」


 ……ああ、当たり前のことか。

 神々の誰もが世界を愛しているのだから。守りに来るのは当然だ。


 神々の裁きが次々と壊世主の眷属を消し飛ばしていく。追い風だ、このまま殲滅を続ける。

 アビスハイムは信じられない光景を呆然と眺めていたが、やがて意識を取り戻して立ち上がる。やはり彼の王は強い。


「……立て、皆の者! まだ我らは負けておらぬ! 見よ、神々までもが我らと共にある! ここまで戦い抜いたのだ、最後は勝利で飾ろうではないか!」


 彼の叱咤は彼方まで轟いた。

 その場で絶望して天を見上げていた誰もが瞳に光を宿し、決意を宿し。人類の勝利を願って立ち上がった。

 諦めるな、戦い抜けと。皆の想いが一つになって。


『無駄、無駄であるッ! 嗚呼、神々よ、愚かな駒供よ! 我が名は壊世主ゼーレルミナスクスフィス! 屠ること能わず、沈めること能わず……足掻けども無為である!』


 たしかに壊世主は殺せない。

 しかし、ここに集った意志を見よ。私を含め、誰一人として諦めてはいない。


 どうにかして勝機を見出して……!


『──救世者、お前は今こう思ったな? これほどの戦力があれば勝ち目はある、奇跡は起こるやもしれぬと。我が身を封印できるやもしれぬと。愚かな考えを巡らせたな?』


「……」


『では教えてやろう。絶対なる主の因果を。これこそ秩序を統べる主の御心であると……魂に焼き付けてやろう』


 ……何か来る、予感した。


 いや、予感した時にはもう遅いのだ。壊世主が喋り始めた段階で動いておくべきだった。

 無数の黒がひしめいた。地中より飛び出した数多の黒き茨。茨が戦場の全てを締め上げ、地上で抗う人間たちも、天を駆ける神々も、そして私もまた。


「っ……!」


 身動きを封じられる。

 壊世主は私たちの意志を嘲笑うように、弄ぶように茨で魂を締め付けていく。


 もう少し早く動けていれば。

 もっと共鳴を深く解放できていれば。


 後悔の念が募る。

 ……いや。今の私が行うべきは悔いることではなく、打開策を見つけること。何か手はないか、何か……


『無駄なことよ。もうよい、Xugeを重ねて輪廻すらできぬよう……根源すらも粉々に砕いてくれようぞ。哀れな駒供、もはや我が身に逆らおうなどと不遜な考えを抱いてくれるなよ?』


 時間がない。

 何か手を。


「…………」


 魂が悲鳴を上げる。

 まだ……私は負けられない。ATは、ノアは、セティアは……誰か。





「……?」


 もがき苦しむ中、一つの異変を感じ取った。

 世界が……止まっている?


 いや、世界が震えているのだ。泣いているのだ。

 私たちを締め上げる黒き茨がパラパラと崩れ、灰になって消えていく。


「何、だ……?」


『……?』


 私だけではない。壊世主すらも当惑していた。

 いったい自分の茨は何によって砕かれたのか、と。


 ……答えは天にあった。

 暗黒を払い、眩き灰色の切れ目から異形が降りてくる。


 だが、其は世界に顕現するはずのないもう一つの因果。

 壊世と対を成す大いなる主。





『──我が名は、創世主アテルトキア。この世の総てを創り、育み、守る者。因果に閉ざされし世界、重ね上げた罪過の数々。罪を払うは我が魂也』


 あり得ない。

 そう、アテルに宿っていた意志は──怒り。




『壊世主ゼーレルミナスクスフィス。汝に裁きを』

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