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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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179. 再びの星見を願い

 これより幕を開けるは終焉の戦。

 盤上世界(アテルトキア)開闢以来、五千年にわたり積み重なった歴史の収束点。因果の終着点。



「──これより我らは壊世主に抗う戦を始める! 目標は『ノアの塔』の建造、耐久時間はおよそ十五分! その間、我らは全力でノアを死守し、壊世主の眷属供に抗わねばならん!」


 アビスハイムの怒号が響き渡る。

 聖戦を前に、誰もが緊迫していた。これは人類の意地を賭けた戦いである。敗北は即ち、世界の滅びを意味する。


「簡潔に言う。戦う者は死を覚悟せよ。覚悟できぬ者は王城内に残れ」


 作戦に臨む者はごく少数。

 黒化エムティングと黒化メロアは尋常ならざる力を持つ。生半可な力を持つ兵が戦っても、いたずらに命を落とすだけ。


 まず、塔を建てるノアを守護する戦闘班。

 AT、ユリーチ、ロンド、デルフィ、ダイリード、サーラ。


 救済の力を以て暗黒を切り拓く領域確立班。

 ジークニンド、アルス、アビスハイム。


 王城から放出砲によって敵を消し飛ばす援護班。

 ナリア、シレーネ、リリス、ソレイユ魔導士団。


「以上! 我らが持ち得る全霊を以て厄滅を退ける!」


 臆する者など存在しない。

 ただ一縷の希望を胸に抗うだけだ。アビスハイムは面々の決意の表情を見回し、鷹揚に頷いた。


「それでは……我らの世界を取り戻す!」


 ~・~・~


 王城の外壁で、ATはノアの隣に立って合図を待っていた。白光の外では無数の眷属がひしめいている。

 作戦上においては、まず彼が動くことになっている。暗黒の中に『安息世界』を創立し、秩序の力を減衰させるのだ。

 小さな島くらいの領域しか創れないが、戦場を確保するには十分だ。


「すーっ……」


 隣で深呼吸が聞こえる。

 さしものノアも緊張しているのだろう。自分が世界の運命を左右するのだから無理もない。


 彼は声をかけるべきか躊躇った。安息世界の顕現計画と共に、ATとノアは絶縁関係に陥ってしまった。こうして再び肩を並べても……蟠りは消えていない。


「あの、T」


「……うん」


「もう私は……自分がどうあるべきなのか分からなくなりました」


「どうあるべきか?」


 ノアらしくない悩みだ。自己の存在意義に悩むなど、強靭な心を持つ彼女らしくもない。


「昨日、アルスさんと話をしました。私はたぶん……彼から見たら間違った生き方をしているのです」


「そうか」


「……」


 どうしたらいいのですか、と彼女は尋ねなかった。

 ただ心中を吐露したかっただけなのだろう。しかし述懐の対象にATが選ばれたということが、彼自身にとっても実に意外なことだった。

 しばし黙して口を開く。


「君の好きにすればいいさ。とは言っても、君を縛る因果がある限り適当な助言はできないけれど。今の君の生き方は……うん、きっとアルスの言う通り。君に合っていないと思う」


「では調停者を辞めろと? そうなれば今回みたくルミナの思いどおりに世界が壊れますよ」


「……答えはないね。駄目だ、正直なところ僕も助言のしようがない。でも、予感がするんだ。もうすぐ君は救われると。永き時にわたって因果に囚われていた君の人生に変化が訪れるのではないだろうか」


 根拠はない。無責任な言だとATは自嘲する。

 ノアは自分の発言をどのように捉えているのだろうか……などと考える暇もなく。彼の鼓膜を鐘の音が叩いた。聖戦、開始の合図。


「とにかく、この戦いを乗り越えることだけを今は考えよう」


「そうですね。……ええ、明日を迎えましょう」


 一歩、踏み出す。

 これは救済を冀い続けた者の全霊。数多の自我を漂白し、果てに辿り着いた守護者の信念。世界すらも書き換え、安息を願った主の力。


「創立せよ──【安息世界】!」


 王城を覆う白光を貫き、混沌の力が爆ぜる。同時に天より灰が降り始めた。

 王城の正面に白き円が出来上がり、一時的な異次元が確立。この領域(アンソク)内において、秩序の力は弾劾される。壊世の力も弱まり、眷属にも抗うことができるようになるだろう。


「さあ行け、ノア!」


 救済の少女が駆け出す。

 同時、彼女を護るために控えていた勇士たちが飛び出した。


 ~・~・~


「シレーネ、発射!」


「はいっ!!」


 ナリアは安息世界の出現を確認し、隣の弟子に指令を出す。

 ソレイユ到着以来、ずっと作成を続けてきた救済の放出砲。本領を発揮する。


 周囲の気温が急上昇、眩い光が満ちる。巨大な大砲より放たれた白光がまっすぐに王城の外部へ伸びた。救済の力による光線は黒化エムティングを次々と撃ち落とし、数をある程度減らしていく。無限に闇から現れる眷属を相手にしては焼石に水だが、戦闘班の援護にはなるだろう。


「ナリア殿! アーティファクトの起動準備、整いました」


 リリスの合図が出る。

 プログラムを起動。急造した小型飛行アーティファクトが一斉に飛翔した。小鳥のようなアーティファクト群は一斉に暗黒の中へと飛び込んでいく。

 眷属の妨害を目的とした陽動だ。持久戦である以上、こうした些細な攪乱も有効だろう。


 ナリアは統括、シレーネはアーティファクト制御、リリスが状況確認。ソレイユの兵士たちは指示に従って動き回っている。

 隙のない構成。しかし完璧を以てしても戦況は厳しく、覆ることはない。


「この戦を乗り越えて、私は……」


 ナリアは決意と共に放出砲を撃つ。

 全身から魔力がごっそりと抜け落ちる感覚があった。自分が扱うために作成した、超高火力の魔道具だ。光線が天空のメロアを穿ち、戦場から退ける。


「私は、楽園へと帰る……!」


 郷愁こそが彼女の本心。

 失われた時間は取り戻せない。それでも彼女は過去の面影を追い続ける。

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