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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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177. 未来を夢む彼らの姿は

「クロイムっさぁぁぁぁーーーん!!!」


「うおおお!?」


 後頭部に衝撃。

 思わずジークニンドは前のめりになって倒れた。

 城に敷かれた絨毯の味は上品な苦みがある。苦々しい表情で舌を出して見上げた先には、金髪の少女が笑顔で立っていた。


「シレーネ……いきなり人をぶん殴るとか、俺が相手でなきゃ逮捕案件だぞ」


「クロイムさんが相手じゃなきゃ殴らないです。それにしても死んでなかったんですね!」


「いや、たしかに死亡フラグみたいなセリフ吐いて行ったけど……死ぬとは言ってないぞ」

 

 破壊神を破壊するという本懐を果たし、無事に舞い戻ったクロイム。しかし彼の望みはまだ叶えられていない。

 『大切な人を守ること』。この願いを叶えるには明日の作戦を成功させなければならない。


「しかしクロイムさん、雰囲気が変わりましたね? 私には分かりますよ。死地を乗り越えた顔をしています」


「どんな顔だよそれ。ま、俺もパワーアップして帰ってきたってことよ。壊世主の眷属相手にも救済の力で対抗できるしな。頼りにしていいぜ?」


「いやあ、さすがにクロイムさんみたいな阿保は頼りにできないですよ。役に立てばラッキー程度に考えておくです」


 相変わらずシレーネの信頼は薄い。彼女もまた危機を乗り越え、ソレイユで戦っていた身。互いに生き延びたことを今は喜ぶべきなのだろうが……いかんせん感動の再会と呼ぶには微妙な空気だ。

 いや、これでいい。喜ぶのは明日の戦場を乗り越えてから。


「明日、勝つぞ」


「もちろんです。壊世主だか何だか知りませんが、ぶっ飛ばしてやりましょう!」


 ~・~・~


 静寂に包まれた玉座の間。

 明日の計画を立て終えたアビスハイムは、瞑想して気を高めていた。


 静まりかえった空間の隅。現れた真っ白な男。


「……なんだ、T。ぬるりと現れおって」


「挨拶でもしておこうかと。一応、明日は作戦を共にする身だし」


「そうだな。まさかお前が今回も出てくるとは。安息世界でアルスに殺されて終わりかと思っていたが……相変わらずしぶとい奴よ」


「彼に英霊として召喚されてね。本来、僕は世界に存在しない魂だから……英霊として呼べないはずなんだけど」


 この世に再び生を受けたことが嬉しいのか、悲しいのか。

 ATは困ったように笑った。


「しかし、なんだな。我の『神核解放』といい、お前の英霊召喚といい……ずいぶんと人間に協力的な因果があるではないか?」


「……認めたくはないけどね。アレは心など持たぬ怪物だ。僕はずっとそのように認識してきた。だけど愚者の空でアルスと戦って……少し認識を改める必要があるとも感じた。僕らに対抗の因果を授け、不可能を可能としているのは……間違いなく創世主アテルトキアだろう」


 ソレイユを取り巻く奇跡は、創世主が手を加えることによって引き起こされている。かつては創世主を目の仇のように見ていたATだが、次第に認識が改められつつあった。

 壊世主の横暴にアテルも腹を据えかねているということだろうか。


「……今回が最後の輪廻となるであろう。我もこれ以上のXugeとの結合には耐えられぬ。力を貸してくれるならば創世主アテルトキアだろうが無能王ゲンペルトだろうが何でもよい」


「相変わらず君は軟弱者だね。僕はこの厄滅を乗り越えるまで何度でも輪廻する所存だとも」


「ハッ! お前も大口を叩くようになったではないか。その精神力だけは感服に値する。……時にお前、アルスに真実は伝えたのか?」


 ATは俯く。

 真実──アビスハイムは自らの正体を告げたのかと聞いているのだろう。


「いや。彼は何も知らなくていい。だって、彼を待つ少女と僕は……まったく別物だからね」


「……そうか。悔いのない道を進めよ」


「悔いたことなどありはしないさ。僕は世界を護るだけだ」


 ATとは盤上世界(アテルトキア)において普遍的に働く抑止の概念である。

 これまでも、これからも。どのような世界線でも。

 世界が救われるまで奔走し続けるのみ。


 ~・~・~


「最善策、最善策……黒化エムティングと黒化メロアの性質を勘案しつつ、残存の救済の力を考え……最善策を……」


 夜更け、城壁。

 明日が決戦だというのに、ぶつぶつと呟いて策を巡らす者がいた。

 彼の視線の先──白光の外に群がる黒化エムティング。明日はアレらの侵攻からノアを守りつつ、戦わなければならない。厳しい戦いになるだろう。


「……ロンド。まだ寝てないの?」


「おやユリーチさん。小生は英霊ですから、睡眠は特に必要ないかと。貴方こそ城壁で何を?」


「眠れなくて。明日は世界の命運が決まるのだから、眠れないのも無理もないことだと思うけど」


「そうですねえ。大きな決戦を前に、僕も策を練っているのです。最も被害が少なく済む戦術を……」


 いかに戦術に長けたロンドといえども、この戦いは規模が大きすぎて予測はできない。それでも彼に残されている役割は知恵を絞ることだけ。

 石畳に駒を配置して熟考する彼をよそに、ユリーチは城壁に凭れ掛かって空を見上げる。朝だろうが夜だろうが、今のソレイユの空は真っ黒。どこまでも深い闇に覆われていた。


「……魔導王陛下は悔いがないようにと仰せられた。ユリーチさんは悔いを残していませんか?」


「うーん……あるよ。でも、悔いを残さないためにはこの戦いに勝たなくちゃならない。ロンドは?」


「私は……もともと死んでいる身ですから。これからの未来を生きることもないし、後悔などしようもない。全力で戦って、勝つか負けるか。この戦いに勝っても俺は現世から去るし、負けても消えるだけのこと」


 目的のない、命令に従うだけの駒。

 彼の本懐は生前より変わっていない。捨てられた命を拾ってくれた黎触の王。現世に呼び戻してくれた魔導王。彼らに従って、戦って、死ぬ。

 その戦いが世界から見て善であろうと悪であろうと関係ない。


「……ああ、でも。生前にね……一つだけ約束を果たし忘れたんです。だけどその約束は果たせない。悔いと形容するにはちょっと違う、人生に挟まった異物のような記憶です」


「約束……」


「ま、そんなところですかね。貴方も早くお眠りなさい。明日は寝不足だなんて言い訳は通用しませんよ」


「うん。おやすみなさい」


 ユリーチは少し話しただけで満足したのか、城壁を去っていく。

 闇の中で靡く赤髪を眺めてロンドは手元の駒を転がす。


「……おやすみなさい、賢者様」


 囁いた声は誰にも届かず、闇の中へ消え去った。

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