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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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141. はじまり

 ウジン・サファイは戦後処理を終え、大森林の壁上で夜風を浴びていた。

 魔導王アビスハイム即位から今日に至るまで、怒涛の日々が続いてきた。彼もまた人理を守る六花の将、『聖王』ウジンとして戦い抜き……勝利を収めたのだ。


 たとえ神から人間へ転生しようとも、たとえ拠点が楽園からソレイユへ移ろうとも。胸中にある人類への愛は変わりはしない。


「指揮官、撤収作業が終わりました。戦力の大半は無事王都アビスまで撤収し、損害の計上も終了です。お疲れ様でした」


 兵士からの報告を受けてウジンは鷹揚に頷く。

 魔導王からスカウトされた彼の役目も終わった。再び放浪の身となり、世界を巡るか。或いはアルスに相談し、破壊神を救う手立てを模索するか。


「よっしゃ。俺はもう指揮官としては働くことはないだろう。お前さん方もお疲れ様。どうだ、戦勝祝いに酒でも飲んでくか?」


「はは……指揮官殿、いえ……ウジン殿は相変わらず酒がお好きで。私は下戸ですので……っと、失礼します」


 話している最中の兵士に通信が入った。彼は「緊急通信」と記された文字列を訝しみつつ、通信を起動。

 最初は誇張された「緊急」の通信だと思っていた。不備があった程度で緊急の通信を用いたのだろう……と。しかし、予想は悪い方向に覆される。


 たちまち青褪めていく兵士の表情を見て、ウジンの心にも陰が落ちる。


「……どうかしたのか?」


「せ、戦死者が……二十名。ソレイユ大森林の奥地にて……」


「……は?」


 二十人もの兵士が死んだ。

 敵がいないこの状況で、どうして人が死ぬ必要があろうか。意味が分からない。ウジンは兵士を落ち着かせ、冷静に状況を説明させる。


「敵は不明。突如として上空より降り注いだ攻撃に第一陣が崩されました。そして、続けざまに第二陣が崩壊……断片的な情報によると、敵影は白く……さながら、エムティングのようであったと……」


「っ! 下がれ!」


 刹那──何かが空を走った。

 咄嗟にウジンが引き寄せた兵士の首元に、白い鞭のような線。僅かに落ちた影……その真上にウジンは重魔術を行使。何かが重い音を立てて壁上に堕落した。


「コイツ、は……」


 刮目したウジンの視線の先。

 白き茨を身体中から生やした人型の兵器。其はたしかに心神の死によって地上から消え失せたはずの敵であった。


「エムティング……!?」


 気味の悪い粘着音を上げるエムティング。ウジンは星魔術が刻印された魔道具でエムティングを屠った。

 だが、これは異常事態だ。そもそもエムティングは飛ぶことができない。空など飛ぼうものなら、壁は意味を成さなくなる。瞬く間に王都へ迫り、人類を滅ぼしてしまうだろう。


「直ちに魔導王に報告を。まだ……戦いは終わっていない」


 ~・~・~


 結界に穴を開け、アルスとリリスはソレイユ離島に到着した。

 大勢の国民がここで窮屈な生活を強いられていたのだ。彼らの心労は察するに余りある。


「国民を順次飛空艇へ案内してください。予め交付していた整理番号順に整理し、決して混乱を招かないように」


 的確に指示を出すリリスを横目に、アルスは周囲の様子を眺める。

 人が溢れ返っているものの、彼らの中からは不平不満の声が聞こえてこない。これも魔導王の計画的な采配ゆえか。想定よりも戦いが早く終わり、食糧などの物資が枯渇しなかったことも一因だろう。


 彼は慌ただしく動き回る兵士たちに整理を任せ、ソレイユ離島の外縁部へ向かっていく。結界の影響で島の中心部には本国からの通信が入り辛いので、外縁部に赴いて通信を確認しなければならない。


「ん……緊急通信? 陛下からか」


 通信の内容を把握したアルス。内容は新たなる外敵の出現と思われる報告。

 彼はただちにリリスへ通信を入れ、ソレイユへの国民の輸送を中断するように連絡した。


『霓天殿。一体どういうことでしょうか? 陛下からの通信の内容は確かなのですか? 新たなる形態の外敵が現れた……と』


「ええ。エムティングの新個体らしきものが確認されたとか。まだ国民を結界内に入れるのは危険でしょう。速やかに国内へ戻り、結界の穴を塞がなくては……ん?」


 リリスとの通信中、彼は違和感を覚える。

 離島から見渡せる一面の大海。結界の外に広がる、無限の海原からの違和感だ。


 具体的に言葉では形容できない。

 嫌な気配……微小な魔力が海からさざ波のように押し寄せている。僅かな循環邪気の乱れかもしれないが、それにしては奇妙なうねりだ。


『……霓天殿? 急に黙ってどうかしましたか?』


 違和感の正体が分かった。

 神気が含まれている。波に神気が乗っている。


 方角はソレイユ南方、大往海。かつて楽園と呼ばれたアルスの第二の故郷がある場所。


「ああ……そうか」


 やがて一つの影を捕捉した時、アルスは全てを悟った。


「リリス殿。やはり国民は結界内に避難させた方が良いかもしれません」


『ふむ、意見が二転三転しますね。それなりの根拠はあるのでしょうが。説明している時間はありますか?』


「……なさそうだ。離島に迫る脅威は僕が防ぐ。あなたは急ぎ国民の避難を」


『承知しました。行動を終え次第、拙も加勢に向かいます』


 リリスは話が早くて助かる。彼は通信を切り、水平線の彼方より迫り来る巨大な影を見据える。

 山を思わせる巨大な体躯、純白の体毛に包まれた『光神』。


 獣の名をダイリード。かつて『光神』と呼ばれた創造神の右腕にして、今代は『邪神』と呼ばれる破壊神の右腕。

 明確な殺意を湛え、巨獣は海を裂いて離島へ迫り来る。


「『神転』」


 神の力を己に宿し、アルスは大海へと飛翔。

 新たに確認されたエムティングの亜種、そして迫り来るダイリード。常ならざる事態は、恐らくこれで終わりではない。


 守るべきものを守るべく、幻神は天へ。

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