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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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137. あくなき世界

 アルスは王都アビスを離れ、ソレイユ大森林との境界に横たわる壁に赴いた。

 神々の眷属の侵攻に備えて急造された魔鋼の壁も、もはや無用の長物。じきに取り壊される予定らしい。


 壁の上で大の字に寝転がる中年の男……ウジン。アルスは彼を見下ろして不服そうに腕を組んだ。


「……指揮官殿。他の兵士が忙しなく働いているのに、君がこの様子では情けないな」


「おん? 別におっちゃんは臨時の指揮官だしなあ。戦いも終わったし、俺の役目はねえよ。よっこらせ……っと」


 ウジンは起き上がって青空の下で動き回る兵士たちを見た。壁の真下では戦に使った戦闘機などの撤収作業が進められている。損害は相当な額に昇るが、勝利できたのだから安いものだ。


 『聖王』ウジンの役割は目には見えないものの、今回の作戦ではかなりの戦果に繋がっている。混乱の状況下でも的確に指示を出し、被害を最小限に留めた。獅子奮迅たる彼の働きがなければ、壁はとっくに破られていたことだろう。


「昨日は飲みすぎてなあ……ちと動けん」


「仮にも神族が酒で動けないとは。君の代わりに私が撤収作業を手伝うか」


「俺はもうな、神族としての生は捨てたのさ。アテルに裁かれたその時、虚神デヴィルニエは死んで……今ここに立ってんのは人間のウジン・サファイだ。ま、本来の身体の持ち主も一回死んでるんだけどな」


 彼の言葉の中に気になるフレーズがあった。

 ──『アテルに裁かれた』。一定の基準から外れたり、摂理に反した神族は創世主の裁きを受ける。【棄てられし神々】もまた、かつてアテルに裁かれた死した神である。


「やはり棄てられし神々はアテルを憎んでいるのか? 創世主に裁かれた以上、自業自得の側面もあると思うのだが」


「まあ、そうさな。虚神デヴィルニエの場合は、人間に神の力を与えたことが処断された理由だ。神々は人間同士の争いには介入しないって原則があるんだが、神聖国王リートに神槍ホープを授けてお叱りを受けたのが俺だな。たしかにアレは自業自得だ」


 ウジンはアテルをそこまで恨んでいないと語る。かつてはディオネ解放で暴れ回ったが、世界を滅ぼすまで暴れるつもりはなかったらしい。

 彼はデヴィルニエであった時代の記憶を回想し、他の神々について語る。


「ただ、他の連中はどうだろうなあ。命神メアは……俺にも裁かれた理由は分からん。俺よりも後に死んだからな。で、心神クニコスラは……約定に反してはいないが、あまりに感情を支配し過ぎた」


「支配し過ぎた?」


「ああ。あいつは心神として、生命の情動を全て分析しようとしたんだな。人間の喜怒哀楽の均衡を保ち、完全に心を支配しようとしちまったんだ。ただ、心神は知らなかった。半分も『怒哀』が占めていると、人間の心は壊れちまうことを。人間に恐怖を与え、怒りと哀しみを強い過ぎた心神はアテルの不興を買った。クニコスラの奴も悪気はなかったんだろうよ。ただ己に理解できない心を理解しようと頑張っただけだ。心を支配する神として任命されなけりゃ、あいつはまともな神だっただろう」


 神事情は複雑だ。アルスは単に災厄を滅ぼすための機構として造られたが、他の神々はどうしようもない法則を支配する宿命を科せられてしまった者もいる。


「ウジン。アテルに心はないと思うか?」


「あ? なに当然のこと聞いてんだか。器のレーシャはまだしも、アテル本体には心は埋め込まれてないらしいぜ。だから心がないのは当然だろう。そもそも不完全な情意なんて持ってたら、創世主として公平に世界を見守れないだろうさ」


「……」


 因果の操作は情意を伴わなければ行えない。

 愚者の空で真実を知ったイージアは複雑な気持ちになってしまう。アテルにはたしかに心があるが、無いフリをしているだけ。人間に入れ込み過ぎた結果、人々に苦悶を強いた心神を裁いてしまったのかもしれない。


「まあ、こんな話はどうでもいいさ。もう戦は終わったんだからな。……っと、ロンドから通信が入った。作業の人手が足りてないらしい。行ってやってくれねえか」


「分かった。君も真面目に働くんだぞ」


「善処……する」


 返事するや否や地面に腰を下ろすウジンに呆れつつ、アルスはロンドの下へ向かった。


 ~・~・~


 辿り着いた壁の下方では、ロンドがせっせと働いていた。戦車が次々と壁の外側へ動き、兵士たちも汗水垂らして倒壊した建築物の除去を行っている。


「おや、アルスさん。お疲れ様です」


「人手が足りないと聞いて来たのだが」


「ああ、そうです。見なさい……この瓦礫の山を。エムティングに削られた魔鋼の残骸です。メロアの波動を受けて炭と化した木材です。やれやれ、英霊は掃除のために存在するものじゃないんですけどね」


 英霊召喚魔術の本質は、神族が祈りを聞き届けて降臨する事象に似る。

 人々からの畏敬の思念を受け、それが形となって死者の魂を復元させるのだ。故に、英霊は何かしらの危機的状況下で召喚されることが多く、戦闘などの役割を期待される。


 しかし今のロンドはどうか。まるで雑用だ。召喚者であるウジンの代わりに後始末ばかりさせられている。


「僕も手伝おう。……そうだ。君は後始末が終わったら消えるのか?」


「唐突に聞かれても困りますねえ。まあ、小生は別にこの世に未練なんざありやしない。なぜ英霊となったのかも分からないくらいの極悪人ですから、さっさとこの世を去るのが吉でしょう」


「極悪人……か。しかし君は心神を倒して人類を救った紛れもない英雄だ。生前の如何に拘わらず、今回の功績は誇っていい」


 ロンドの補助がなければ、アルスも心神は倒せなかった。敵に回ると厄介なことこの上ない存在であったが、味方となるとやはり心強かった男。

 アルスに直球の称賛を投げられたロンドはどうしていいか分からない。傍にある瓦礫を踏み潰して作業を黙々と続ける。


「それはね、アルスさん。俺が戦闘狂だから神を殺してみたかっただけ。俺が『黎触の王』ムロク様に仕えていた生前から、私の本質は変わっていない」


「そうだろうか。生前のロンド自体をほとんど知らないが、僕には君は変わったように見える。もしも心根が変わっていなかったとしても、利害の一致というやつだ。今回の助力は感謝している。君がいなければソレイユは滅んでいたのだから」


 悪という概念は立場によって流転する。正義もまた然り。

 アルスもまた、かつて災厄に堕ちた過去を持つ。故に彼は特に善悪については深い考えを持っていなかった。だからこそ、こうして無責任に言葉を放ってしまう。


「はあ、そうですか。やはり僕に自覚はありませんが。でもまあ……」


 ロンドはふと手を止める。

 視線の先は大空。未だに彼方には結界が広がっている。まもなく魔導王の手によって取り払われ、ソレイユは日常を取り戻すだろう。


「こうして正道の側に回ってみるのも、楽しいかもしれませんね。どの組織に居ようと……仲間の笑顔を見るのは悪い気分じゃない」


 最後に吐き出された彼の本音は、大空に消えていった。

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