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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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110. だれかの記憶

 一難は去った。しかし絶望は残った。

 アルスは戦場の惨禍を見て、どうしようもなく立ち尽くす。


 天魔の正体が兄だったことに呆然として動かないユリーチ。

 エムティングに貫かれ、一命は取り留めたものの未だ目覚めないクロイム。

 崩壊した壁と森林。アビスハイムは何としても神々を討つべく援軍に指令を出し、防壁の補修魔力を供給していた。


「いやあ、大変なことになりましたね。損害自体は少ないものの、今回で相手の強大さが浮き彫りになった。俺たちは眷属の相手でさえ苦労しているのに、あんな化け物が来たらそりゃ絶望しますよねえ?」


 ロンドはアルスの隣に立ち、誰にも聞こえないように愚痴をこぼした。

 狂人に近い性質の彼でも流石にまいっているらしい。


「特に神定法則が厄介だな。心神は攻撃が通らず、命神は不死。天魔は……得体が知れないが、魔導王の攻撃を逸らした時点で脅威度は大きいだろう」


「ええ、そうですね。基本的に二神を滅ぼせるのは魔導王陛下のみです。なので陛下の英霊であるアリキソンさん、マリーさんは直接陛下を呼ぶことができるんですよ」


 そういえばアルスは別世界線のマリーにまだ会っていない。いずれ会えるだろうが……


「三体のうち、一体でも敵を倒せれば良かったんですがね。誰も口には出しませんが、正直惨敗ですよ。とりあえず体制の立て直しから始めましょうか。しばらく忙しくなります。ウジンさんもしばらくは酒を飲んでいる余裕はないでしょう」


 アルスは隣に立つロンドが存外に頼りになることに驚いていた。敵であった頃は厄介な印象しかなかったが、味方になれば心強い。絶望的な状況でも常に前を見据える。彼の姿勢はアルスも見習わなければなるまい。


 敗北の余韻を引きずりながら、アルスたちはソレイユ王城へと戻るのだった。


 ~・~・~


 雪が視界の端で、ちらりと舞った。

 俺は……親父の前で駄々をこねている。


「クソ……俺も外に出たいっ!」


「うーん、ごめんね。いつか外に出られるようになるから。今は精神世界で満足していてくれ」


 錆び付いたような赤髪の間から、親父が困ったように笑って目を向ける。いつもこうだ。親父は笑ってごまかす。でも、それが親父なりの気遣いだということは俺も気が付いていた。


「親父はさ、いっつも『君が外に出れるのは僕が壊れてから』って言うよな? いつ壊れるんだよ? 自分で修理しろよ」


「はは……自分で修理できるならしたいけどねえ。残念ながら、壊れたものは元に戻らない。だから君に後始末をしてもらうんだ。それが君の存在意義」


「いーやーでーすー! 俺は悠々自適に農家でもやって暮らすのさ、争いなんてしたくない! なんなら男女変形可能の特性を使って、有名人になってやる!」


「農家って意外と大変だよ? 僕が雪の精霊だった頃も、農村にはできるだけ雪を降らせないように配慮してたくらいには。とにかく役目を放棄するのは僕が許さないからね。だって、君が役目を果たさなければ世界が酷いことになる」


 意地悪な言い方だ。世界を盾にされてしまうと、俺も反論の言葉が詰まる。

 親父はいつもずる賢い。俺にはない知能が少し羨ましくもある。


「でもプロセスがめんどすぎだろ。世界に神能をばらまいて、俺の記憶を消してから、また回収して……って。最初から俺に全部の神能を集めてくれれば、さくっと親父を止められると思うんだけどなあ。神能ぜんぶ集めた俺って、まさに完璧超人だし」


「それじゃ駄目なんだよ。心の重要性。記憶をなくしても、記憶を取り戻しても。君が君でいられるほどに……心が強くないと」


「少年漫画じゃないんだからさ。心とか絆とか、情熱とか? そんなんで大して戦力が変わるとは思えないな」


 俺は親父とダイリードと、ナリア以外と話したことがない。アイツらはいっつも無愛想だから、友情なんて芽生えた覚えもなし。心だの、絆だのの意義を理解していないんだ。


「心はね、すごいんだよ。力を数倍、数十倍に引き上げてくれる。あー、君が僕を救いたいと心から願ってくれればなあ……すごく、すごいことになるんだけどなあ」


「語彙力が死んでるぞ親父。いいからさっさと俺を出してくれー!」


「ははは……じゃあ、僕は現実世界に帰るから。また今度来るよ。おやすみ、ジークニンド」


 ~・~・~


「……んお」


 クロイムはうっすらと目を開け、数回瞬きした。見知らぬ天井だ。いつもクロイムが寝起きしているボロアパートや、シレーネ工房の天井ではない。


「なんか変な夢を見てた気がするけど……俺は何してたんだっけ? たしかナリア大師匠とシレーネとソレイユに侵入して、アリキソンもどきに捕まって、それで……白い化け物に殺されたんだった!?」


 彼は慌てて腹部を確認する。しかし、貫かれた箇所はきれいに塞がっていた。

 恐らくソレイユの魔導士が治癒魔術を施してくれたのだろう。あの後、どうなったのかはクロイムの知るところではない。心神が倒されてくれていればいいなあ……程度に考え、彼は寝台から降りる。


「あ、起きましたね。そのまま永眠していても良かったんですけど」


「死の淵から蘇った人にかける言葉かよ。この店長パワハラがひでえな」


 付近で奇妙な魔道具を組み立てていたシレーネが顔を上げる。

 どうやらここはソレイユ王城の内部のようだ。


「あの程度で死ぬわけないじゃないですか、現代医療なめんな。ふああ……」


「眠いのか?」


 大きな欠伸をするシレーネ。心なしか目の下のクマも大きい気がする。


「ええ、魔道具の研究をアビスハイム陛下から仰せつかっておりまして……寝るの忘れてました。クロイムさんも陛下にお話を聞いて、師匠の手伝いにでも行ったらどうですか」


「お前の手伝いは大丈夫なのか?」


「ノープロブレムですよ。もうすぐ終わるんで」


 ナリアとシレーネ、どっちを手伝うのがマシかと言われれば……何ともいいがたい。シレーネはパワハラ常習犯だし、ナリアは労基違反常習犯だ。

 しかし状況が状況なので、クロイムも自らの労働を拒んでいられない。大人しくナリアの手伝いに向かうことに。


「ちゃんと寝ろよ」


「ふぁい」


 一応シレーネの体調も心配しつつ、彼は部屋を後にした。

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