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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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98. 収束開始

挿絵(By みてみん)



 ──果てしなき、憎悪。

 怨恨、執念、絶望。我が身を突き動かす、全ての原動力。


「許せ、──」


 許すものか。認めるものか。

 俺は全てを憎悪する。我らの幸福を奪ったお前らを、人間を許しはしない。

 必ず忌まわしき世界を破壊する。俺は破壊の神となる。


 ~・~・~


 楽園。黒き嵐に囲まれ、邪気が満ちる世界の果て。

 何人たりとも近付くこと能わず。血と邪悪の匂いだけが蔓延る。かつて破壊神の騒乱を巻き起こした破壊神が眠り、神々との争いで受けた傷を癒すための場所。


「……主よ。戻りました」


 崩壊した神殿の玉座の間に、一人の大男が現れた。

 彼の名はダイリード。かつて『光神』と呼ばれた偉大なる彼も、今は『邪神』と呼ばれ忌み嫌われている。だが人からどのように誹られようとも……彼は主のために尽くすのみ。

 玉座に座る破壊の神は口を開く。


『……ダイリード。間も無く……この身の、傷は癒える。故に……立たねば、ならない。この楽園と言う名の、牢獄を脱し……世界に破壊を齎さねばならない……』


「……ご命令を」


『任務を、授ける……俺は、棄てられし神々に与し……厄滅を起こす。六花の魔将が集めた、混沌を用いて……楽園の封印を破り……我が身を、解き放て……』


「承知しました」


 今の主は正気ではない。かつてのように温和な創造神は居ない。

 だから何だと言うのか。ダイリードにとっての主はただ一人。たとえ課せられた任務がどのようなものであれ、従うのみ。


 ~・~・~


 アントス大陸の南端に浮かぶ名もなき島。

 ひっそりと森の影に隠れるようにして、朽ち果てた飛空艇レヴィーは堕落していた。百年前に楽園を脱出し、逃げる内にこの島へ堕落したレヴィーは動くことなくひたすらに佇んでいる。


「…………」


 少年……ゼロは未だにレヴィーの内部に残り時間を過ごしている。彼が目を落としている書物は、専門性の高い精神病の学術書。

 百年間もの間、彼は苦手な学問と向き合い続けていた。救わねばならない大切な人が居るからだ。


 一区切り読み終えた彼は席を立ち、レヴィーの最深部へ向かう。

 部屋の扉を開け放つ。部屋の中央には巨大な生命維持装置が置かれており、中には桃色の髪の少女が眠っていた。


「……サーラ」


 破壊神の騒乱以来、片翼のサーラは目を覚まさない。百年間ずっとナリアが残した生命維持装置で眠ったまま。ゼロはあらゆる手を施してみたが無為に終わる。数々の医者や魔導士、はては呪術師にまで治療を依頼したが効果なし。

 共にレヴィーへ乗って逃げたウジンはいずこかへ消え、他の六花の将の行方も掴めない。八方塞がりの状況だった。


 しかし彼は諦めない。必ず自分の姉を目覚めさせ、かつての日々を取り戻すのだ。


「お困りですか、『守天』の片割れよ」


「……!? 何者だ!」


 突如として背後から響いた声に反応し、ゼロは即座に剣を構える。

 振り向いた先には……どこかの民族の物と思わしき仮面を被った人間が居た。見目や声から性別の判断はつかず、一切の気を感じられない。まるで幽霊のようだ。


「こんにちは『守天』さん。私の名はソウム。以後、お見知りおきを」


「どうやって此処に入った? 何者だ?」


「質問に答えましょう。結界を破り、レヴィーの内部に入りました。何者かと言う質問については、願いを叶える者……と答えておきましょう。さて、ゼロさん。私はサーラさんを目覚めさせる手段を持っています。目覚めさせますか?」


「なっ……!? できるのか!? 頼む、目覚めさせてくれ!」


 怪しげな人間だが、今のゼロには心的な余裕が無い。

 藁にも縋る思いで彼はソウムと名乗った者に懇願した。懇願を受けたソウムはサーラに手を翳す。


「我、大いなる天の魔。世界の因果よ、我が呼びかけに応え編纂されよ」


 奇跡と呼べる光景だった。

 ソウムの手から溢れ出した鈍色の光がサーラを包み込み、彼女の周囲を魔力で満たす。


 数秒後。サーラは目を覚ました。赤色の瞳を薄く開け、瞳を瞬かせる。


「サーラ! サーラ……分かるか、俺だ!」


「え……ゼ、ロ……? おはよ……」


「そこまで」


 だが、再会を喜ぶ暇もなく。

 再びサーラは瞳を閉じ力を失ってしまった。


「は……?」


 言葉を失うゼロにソウムは機械的に語り掛ける。


「ご覧に入れたように、私はサーラさんを目覚めさせることができます。しかし今は完全に目覚めさせるわけにはいきません。恒久的に眠りから覚ますには、代価を頂きます。何事も互いの欲求を満たし合った上で契約は成立するものですから」


「俺が……俺がアンタの頼みを聞けば、サーラを目覚めさせてくれるってことか!? だったら何でもするさ、頼む! サーラを目覚めさせてくれ!」


 ソウムはしかと頷き、ゼロの瞳を見つめた。

 ──狂気。邪気に呑まれることもなく、彼は既に狂気に染まっている。妄執が彼を殺している。

 愛ゆえに狂い、愛ゆえに盲目となるのだ。


「ありがとうございます。なに、難しいことではありません。かつて六花の将として名を馳せたあなたですから、戦いはお得意でしょう。世界の癌を取り除いていただきたいのです。大丈夫、あなたの為すことはいつでも正しい」


 ソウムの言うことを聞いてはいけない。

 ゼロは心の深奥で理解しながらも、己の理性を否定した。

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