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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
18章 地獄死闘舞台バロメ
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56. エキシビションマッチ

 タナンに魔法陣の起動妨害を任せ、アルスは血相を変えて駆け出す。

 地上へ続くエレベーターは作動しておらず、階段を使うしかない。彼の速度であれば決勝戦が終わるまでに地上へ辿り着ける……はずだった。


「……!」


 周囲から無数の魔力反応。同時に彼の行く手を阻むように現れた、無数の狼型の魔力体。これがルチカの話していた存在だろう。


「邪魔だ!」


 一瞬で蹴散らせる相手とはいえ、障害に他ならない。潰せども潰せども壁から、地面から、狼が湧いてくる。

 恐らく死帝の妨害だろう。

 屍霊を操る術といい、この事件を引き起こしそうな存在は死帝以外に考えられない。そしてコロシアムを世界から隔絶させるという狂奔の目的も、死帝に問い質せば分かること。


「早く、行かねば……」


 焦燥の中、アルスはひた走る。


 ~・~・~


 闘技大会の優勝者は【刹那の竜闘士】エニマ・ノイセ。彼女が優勝したのは必然とも言えよう。他の選手が魔力を無意識に奪われている中、彼女は竜属性の形態によって魔力の簒奪を防ぐことができていたのだから。


 表彰式の前に、本大会にはもう一つイベントが残っている。

 エキシビションマッチ。毎年特別ゲストを招き、優勝者とゲストが闘う催し。ゲストが何者であるのか、エキシビションマッチが始まる瞬間まで知らされることはない。

 アナウンスが闘技場に響き渡る。


『それでは、これよりエキシビションマッチを開催します! 東側、今大会の優勝者エニマ・ノイセ! そして西側──!』


 エニマは西側の門より来たる対戦相手を待っている。熱気に包まれるコロシアムの客席では、マリーやルチカ、ヤコウなども期待して相手が何者なのか注目していた。


『ええと……西側、謎の剣士! どうやら試合が終了するまで、剣士の正体は明かされないようです!』


 西門からは黒いローブを纏った、謎の男がやって来た。顔は見えず、気配も捉えられない。

 しかし男は隙のない歩みでコロシアムの中央に立ち、エニマを見据えた。


「いったい何者なんだ……?」

「『世界刃』とかじゃないか? エキシビションマッチって、毎回かなり有名な人が来るんだろ?」

「たしか前回はディオネの剣豪イベン・ラルドだったよな」


 観客たちは口々に男の正体を予測している。これまでの大会では、試合前にゲストの正体が明かされないことなどなかった。


「こんにちは、エニマ・ノイセです。リンヴァルスでバトルパフォーマーやってまーす。対戦よろしくお願いします!」


「……」


 エニマの挨拶に言葉を返すことなく、男は黒い大剣を構える。客席のルチカはそれを見た瞬間、即座に警戒姿勢を取った。

 あれは死帝の剣だ。先日見たばかり、見間違えようがない。死帝の目的が不明な以上、今は静観すべきだろうか。とにかく最優先事項はマリーの身を守ること。幸いマリーはまだ男の正体に気が付いていないようだ。


『両者、準備が整ったようです! それでは──試合開始!』


 闘いが始まると同時、エニマは飛び退いて相手から距離を取る。一般的には、試合開始と共に後退するか、もしくは前進して初撃を見舞うかのどちらか。

 しかし相手の剣士は動かず、その場に立ち尽くしていた。


(強者の余裕……?)


 エニマは訝しむ。もしかしたら相手は八重戦聖並みの強者かもしれない。だとすれば不動の姿勢を取っていることも頷ける。

 しかし相手が積極的に動いて来ないのは僥倖だ。エニマの持つ竜魔術は内燃機関で魔力を蓄積し、一気に放出する。この間に魔力を練ることができる。


 そしてしばらく沈黙の時間が続き、エニマに十分な魔力が溜まった頃。


「そろそろ仕掛けます。……『竜豪波動』!」


 魔力の槌を生み出し、駆ける。

 爆発的な疾走。目にも止まらぬ速さで振り抜かれた槌は波動を拡散させ、剣士の周囲一帯を抉り取る。


「……ほう」


「っ!」


 しかし、剣士は片手でエニマの渾身を受け止めた。結界を展開している様子もないのだが、剣士には傷一つ付いていない。

 彼女はすかさず回り込み、二撃目を叩き込む。


「『竜豪波動』!」


「その技、神髄を見たり」


 エニマの渾身は再び弾かれる。此度は剣士が動くことすらなく、不可思議な靄に阻まれる。


「これはっ……!?」


 反撃と言わんばかりに、振るわれた狂刃をエニマは寸前で回避する。

 彼女は熟達した戦士である。バトルパフォーマーは日頃から鍛え、そして数手先の展開を読む。場慣れした彼女ですら、あと一瞬でも反応が遅れれば回避できていなかった。


 ──強い。そして得体が知れない。

 一度目の攻撃を剣で防がれたのは分かるが、二度目の攻撃を防いだ紫色の靄は一体なんなのか。恐らく異能だろう。


「エニマと言ったか。お前は強い、優勝も頷ける腕前だ。しかし……俺はより強いかもしれん。一度見せた技は通用しないと思え」


「……」


 相手への助言、格上のみに許された行為。

 勝敗に拘る必要のないエキシビションマッチであるからこそ、剣士は助言を行ったのだろう。相手は此方の勝利を望んでいる……エニマは本能的に悟った。

 ならば、彼の期待に応えねばならない。


「はっ!」


 純粋な攻撃を試みる。彼女の打撃は剣で防がれ、再度叩き込んだ打撃はやはり靄によって無効化される。

 一度受けた攻撃を無効化する異能……そんな馬鹿げた能力ではないと思うが、それに類する何か。エニマは即座に分析し、持ち得る未公開の技で相手を倒す目算をつける。

 大した判断力であった。死帝もまた彼女の実力を認め、彼女であれば己を屠れるかもしれないと……希望を持つ。


「受けてみよ、狂刃ルナルーア」


 一つ、試練を課す。

 この一撃を乗り越えられぬようでは死帝を屠れない。死帝は自らの大剣を振りかざし、力任せに前方へ薙いだ。邪悪な一閃、地を滑り。エニマの身体を両断せんと迫った。


「『竜牢』」


 邪気が迸ったことに彼女は動揺したが、行動に狂いはなし。

 相手の一閃を阻むため、自らの周囲に魔力障壁を展開。しかし完全に防ぎ切れるとは思っていない。威力と速度の減衰が目的である。

 勢いを弱めた剣士の斬撃を回避し、地を蹴って前へ。


 跳躍、着地後に槌を振り被る。打撃の対象は剣士ではなく地面。

 波動が地に伝播し、衝撃を巻き起こす。竜の唸りのような轟音が鳴り響き、剣士の足元が割れる。


「ぬ……!?」


 どれだけ熟達した戦士であろうと、地割れに呑まれた体勢から復帰するには跳躍するだけの隙が生じる。エニマの望み通り、剣士は体勢を立て直すべく魔力を足に宿して地を蹴った。


「全身全霊、この咆哮、破竹の如し。秘奥の鉄槌──『堕竜』」


 エニマの奥義、竜魔術の衣鉢。

 彼女の奥義は空を飛ぶ竜を堕とし、果ては天空に座する流れ星すら撃ち落としたと言う。最強の一撃を命中させるべく、彼女は二重の伏線を張った。

 一つは先の地割れ。そしてもう一つは……


「圧……!」


 剣士に凄まじい圧力が掛かっていた。重力ではなく、まさに竜が放つような覇気。

 コロシアムの全域から剣士へ吸い寄せられるように、魔力と戦意の枷が彼を縛り付けていた。


「はぁあああっ!」


 咆哮を上げ、エニマは振り下ろす。

 問答無用の地砕き。情け無用の鉄槌。全力を出したとて、セーフティ装置が作動して相手が死ぬことはない……それがエニマと観客たちの認識であった。

 しかし、死帝はセーフティ装置を装着していない。故に……彼女の一撃が決まれば死帝は屠られる。


「威力、速度、戦略。申し分ない。しかし……まだ、至らぬようだ。至らぬ、至らぬ……嗚呼、不可能なのだな。俺を殺すことはできぬのだな! ならば一切合切、今度はこちらが刃を振り下ろす番だ! やはり呪われし我が身、そう易々と終焉は訪れぬ。いざいざ、今宵は血の雨が降る……」


 砂礫より姿を現した剣士。

 彼のローブは破け、顔が露になっている。彼の姿に、誰もが息を呑んだ。


「うそ……その顔って……」


 エニマは驚愕に目を瞠る。

 恐ろしき人類の仇敵の顔は世界全土に知れ渡っている。そして、剣士の正体は。


「俺は六花の魔将が一、【死帝】。うら若き闘士よ、お前が俺を屠れていれば、殺戮は起こらなんだ。だが両者の望みはここに絶えた。さあ、俺も一人の闘士ではなく、一人の魔将として本業へ戻るとしよう」


 殺意、解放。

 剣気、収斂。

 怨恨、暴発。


 暴虐の刃、これより踊る。

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