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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
17章 真実審判剣グニーキュ
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38. 英雄の最後

 剣閃が舞い、周囲の魔鋼を斬り刻む。

 アリキソンとローダンの剣戟は長い間続いていた。ローダンは相手の剣を受け止め、異様さに気が付いていた。


(重い……いや、重すぎる。前回の剣とは大きく異なる、力任せで粗野な剣技。騎士剣術を捨て、本来の自分が表出した……? いや、これは……)


「嵐よ、さらに狂え」


 ──死にに来ている。

 彼の嵐の剣は迷いをたしかに捨てている。そう、捨て身の剣だ。


 捨て身の覚悟をローダンは求めていない。影魔族が広げる無駄な戦火を防ぐために、彼は英雄と謳われる碧天に別種の覚悟を求めたのだが。


「アリキソン・ミトロン。哀れだな」


「ああ……そうか。俺の名を呼んだか、ローダンよ。ただ一人の剣士として俺を」


「…………」


 ローダンは首肯しかねる。

 彼は人間界の世情になど興味はない。しかしそれはそれとして、一人の武人としての矜持を兼ね備えていた。


 ここでアリキソンを単独の剣士と認めれば、即ち英雄【碧天】の否定となろう。彼が望むのは魔王を討つ英雄の誕生。狂気に呑まれた友人……ルカミアを救う人材の発見である。

 だが、眼前の少年の心は脆いと知った。彼に英雄の衣を着させてしまうのは酷かもしれない。


「そう、だね……ああ。終わりだよ、剣士アリキソン。きみはここで……」


 このニンゲンは期待外れだ。

 故に……魔王ルカミアを討ち、彼の狂気を払うのは別のニンゲンで良い。或いは神でもいい。

 今。ローダンの視界に映る少年は英雄から只人となった。つまり、魔王軍に蹂躙され死するニンゲンに他ならない。


「アリキソンよ、ここで死ね。魔王副官、ローダン……仇敵の人類を斬る。双魔剣起動」


 ローダンを覆う邪気が爆発的に増幅する。

 アリキソンは彼の様子を双眸で捉え、相手が全力を出したのだと認識。


 とうに覚悟は決まっていた。アリキソンの胸中に横たわるのは、英雄の覚悟ではなく武人の覚悟。

 生きるか、死ぬか。次の一手で決まるだろう。


「嵐纏──全てを我が身へ。この一閃に全霊を宿す」


 彼はまさしく台風であった。

 彼が発した嵐は、生涯において最大規模の力。身体に残る全魔力を巡らせ、天をも穿つ風刃と雷糸を呼び出した。

 ローダンの放つ邪気を呑み込み、周囲の魔王軍を薙ぎ払っていく。


 だが、歴戦の魔族は動じることなく嵐舞う前方へ。


「さあ、終わらせようか。それが君の全力。そしてこれが……僕の全力だ! 魔装双刃!」


「嵐絶、奥義──『袖之羽風』」


 白雷。刹那に地上の全てを焼き焦がさんばかりの雷が駆け抜けた。

 邪気を二刀に宿したローダンは、雷を裂いて踏み出す。【嵐纏】の奥義は既に知っていたのだ。後方へ剣を振り抜き、前方へ包み込むようにドーム状に雷を展開する妙技。


 両側面から迫る雷を刃でこじ開けるように、ローダンは剣身の邪気を操作。

 最終局面では、確実にアリキソンはこの『袖之羽風』を使ってくるとローダンは踏んでいた。彼の技が一年前のディオネ政変から進化していない限りは。


「きみの覚悟、見事。そして……」


「っ……!?」


 白雷を裂いて現れた男の姿に、アリキソンは手元を狂わせる。

 追撃の手段は用意していた。魔族の不死性を断つための刃を。しかし、ローダンは一切の隙を晒さずに眼前に現れた。

 奥義が破られたのは、これが彼にとって最初であり──最後であった。


「ここで終わりだ、英雄になれなかった若者よ」


 紫色の一閃が迸った。


 ~・~・~


 天廊の上から飛び降りたアルスは、周囲の黒狐を薙ぎ払う。

 どうやら魔王軍に従軍している魔族はほとんど居ないらしい。前回のカラクバラのように、配下に強制的に人間への憎悪を植え付けているということはないようだ。


「ひとつ、ふたつ……七つ。おそらく二つはルトとソニアのものなので、影魔族の数は五つか。あちらの強力な邪気がおそらく魔王で……魔王はルトに任せようか。こちらの役目はカラクバラ複製体と魔力人形の掃討、そして魔族の排除」


 刹那、都市の黄昏を穿つ閃光が奔った。

 周囲の電光が一斉に消え、停電したようだ。


「凄まじい規模の……嵐か。アリキソンもやはり来ていたんだな。向こうは彼に任せても問題……ない、のか?」


 彼はどこか曇った表情を浮かべる。

 アリキソンは迷っている、それはアルスも知っている。自分の友は困難を自らの力で乗り越えられるほど、強い人だっただろうか。


 なにぶん相当昔の記憶であるので思い出せない。思い出そうと思えば可能だが、あいにく記憶を引き出している時間はない。


「友を信じることは時に残酷な結末を呼ぶ。それでも……君なら大丈夫と思ってしまうのは、僕の記憶が君を美化しすぎているせいなのだろうか」


 もはやアルスに人間の心は理解できない。

 二百年という過去の紀行の中で、脆い人間の情なぞは捨て去った。しかし、古き記憶を頼りに人間の模倣をすることはできる。


 彼は英雄としての資質をアリキソンに求めていない。ただ一人の人間として、己の心に正直に生きて欲しいだけだ。


「…………分からない」


 アルスにできるのは真実を伝えることのみ。

 真実の宣告が正しい選択なのかどうか、彼には分からないのだ。


 迷いを振り切り、彼は闇の中で魔物を斬り続けた。

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