25. 連合軍結成
ルフィア王城は、どこか緊迫した空気に包まれていた。
空港に降り立った諸外国からの使節を迎え入れ、厳重な警備が敷かれている。ニュースによれば、国家間の安全を再確認……というぼかした表現であったが、様々な噂が囁かれている。
曰く、挑発的な行動が目立つグラン帝国に対する牽制。曰く、未だ開拓していないゼーレフロンティアや、宇宙のフロンティア資源についての取り決め。
まことしやかに噂が囁かれているが、真実は……
「では、これより対魔王同盟の議事を開く」
現ルフィア国王、ゴニウム・ヘカテム・ルフィアが宣言する。
円卓を囲むは北ロク王国の国王、南ロク国の首相、ソレイユ王国の導師、ルダン連合の大統領。魔王の本拠地がある地王山付近に位置する大国の重鎮たちが集っていた。
アリキソンはルフィア国王の後ろで、固唾を呑んで議事の様子を眺めていた。
~・~・~
「ふう……」
控室に戻り、ようやくアリキソンは一息つく。
流石にあれほど重鎮が集まると緊張するものだ。幸い襲撃はなかった。魔王軍も強固な警備体制を突破するほどの知恵は回らないのだろう。
「しかし、大変なことになったな」
彼の肩を叩いて、体格のいい壮年の男性が隣に座った。
ルフィア王国騎士団長、トネリコ・ワーナーだ。
「団長……碧天を背負う俺が言うのも何ですが、今回の決議はやや強引では? 連合軍を組んで地王山に攻め入るなど……」
議事の末、各国は団結して魔王軍の本格的な掃討に乗り出すこととなった。今までの襲撃は十年に一度程度だったので災害のように捉えられていたが、近年は襲撃の頻発により、明確な「敵」であると認識が改められつつある。
「ああ……決してそのような弱気な態度は民に見せられんがな。俺も心配だ。魔王を討伐するための戦力には申し分ない、との判断だったが……」
アリキソンは国王が出した論に懐疑的であった。
先の魔王軍の襲撃の際、魔力人形や謎の妖狐など、今までに見ない新たな敵の存在を確認した。まだまだ魔王軍は新手の投入が可能なはず。容易に連合軍と魔王軍の軍事力の差を推し量ることはできない。
おまけに、今回の戦場は山。戦略兵器を使えば大きな山崩れが起きるため、白兵戦が主な戦法となる。国防の大部分を戦略兵器魔術に頼る現状では、不安が大きく残る。
「ともかく、俺が為すべきは魔王軍と戦うことだけ。これは間違いありません。団長は国防担当でしたね。戦線の指揮は俺に任せて下さい」
「無論だ。しかしアリキソン……あまり気張るなよ。人命が最優先だ。お前の命も含めてな」
「心得ております」
アリキソンとて死にたい訳ではない。危険だと判断すれば、即座に戦線から軍を撤退させる。
問題は同盟諸国の軍事力がいかほどのものであるか……大まかには把握しているが、連携が取れていないのだ。
国民を守るためにも、この戦で魔王との戦争に終止符を打たねばならない。
~・~・~
同刻、ナージェント家にて。
スターチは執務室にユリーチを呼び出し、王城で行われた議事について説明する。
「……以上が事の仔細の報告となる。今回の作戦ではユリーチ、君に向かってもらう。魔物が相手の戦だから、当然のことだがね」
光魔術を扱えるユリーチが向かえば、勝利は大きく近付くに違いない。
軍人らはそう判断し、彼女を連合軍の一員として任命した。
「承知しました。しかし、地王山に攻め入るのですか……もう少し作戦の詳細を聞きたいのですが」
「残念ながら、作戦の具体的方針はまだ決まっていない。いや、正しくは連携が取れていないと言うべきかな。あまりに国家間の基本方針が違い過ぎてね……連合軍と銘打っているが、実際は同時に攻め入るだけだ。君はルフィア軍の一員として動いてくれればいい」
「……なるほど」
たしかに騎士を中心とするルフィア、機械武道を中心とする北ロク、重火器を中心とする南ロク、魔導を中心とするソレイユ。いずれも反りは合わない。
それでも連携できる箇所を見つけ出し、作戦を立てるのが軍部の役目だとユリーチは思うのだが。しかしいくら輝天の家系とはいえ、国家間の取り決めに意見できるほどの権限はない。彼女はただ命令に従うだけだ。
「……アルスにも同行を頼んでみてはどうかな。彼の助力があれば戦況も改善するだろう。今はたしかルフィアに滞在していただろう?」
「そうですね。霓天の力を借りると言うことは、ディオネの権力を使うことになりますが、そこまで目くじらを立てて批判する者もいないでしょう。元より四英雄の力は魔に対抗するためのものですから」
常日頃から暇そうにしているアルスだが、事情を聞くとクロイムを監視しているようだ。彼がいつジークニンドとしての記憶を取り戻すのか、アルスは期待している。そして彼が記憶を取り戻した時こそ、破壊神を救う時でもある。
「君の活躍はナージェント師団の名声につながる。誉れ高き輝天として期待しているよ」
「……はい」
スターチには過剰にナージェント家の評判を気にするきらいがある。
彼の境遇によるものか、或いは別の要因があるのか。
薄々ユリーチはスターチの異常に勘付いていたが、理解することはできなかった。彼女は瞳を伏せ、兄の命に従った。




