26. ディザスター
世界には邪なる眷属が蔓延り、各地域で被害が拡大しつつある。
魔物の狂暴化、増加。魔神の魂が世界に降臨し、世界は邪気に汚染されてゆく。
六花の将は東奔西走し世界中の魔物を討滅。名声を高めていた。
やがて顕現する魔神を討つべく、四英雄もまた動き出す。
『碧天』ローヴル・ミトロンは聖剣グニーキュを振り抜き、魔神の眷属を葬り去る。同時、『霓天』スフィル・ホワイトの四属性が折り重なった魔刃が飛び、周囲の魔物を貫いた。
「……終わったか。流石にこうも魔物との戦いが続くと疲れるな」
ローヴルは溜息を吐いて剣を下ろす。
彼の肩を黒髪の少年が叩いて労いの言葉をかける。
「俺たちが頑張らなきゃ世界が大変なことになるんだ。今が頑張り時さ」
『黒天』オズは友に笑いかける。ローヴルもまた頷き、彼の手を取った。
そんな彼らの背を見つめる者が二人。
『輝天』カシーネと、『霓天』スフィル。彼女たちは仲睦まじい仲間の様子を眺めている。長い旅路の中で、四人の絆はこの上なく高まっていた。
「フィーちゃん……私も疲れたよ。早く帰ろ?」
「そうですね。久々に龍神様に顔を見せる日も近いですから。疲れた様子を人々や神々に見せるわけにもいきません」
「もー、フィーちゃんは真面目なんだから……ほら笑顔だよ」
カシーネはスフィルの頬を触って弄ぶ。
スフィルは既に彼女のおふざけに慣れきっており、抵抗することなく受け入れる。
「おいお前ら、早く行くぞ」
オズが二人に声をかける。
彼らは各々を信じ合い、やがて伝説となる道のりを歩いていた。
──ただ一人の英傑を除いて。
~・~・~
アテルトキア歴五千百七十年、ルフの月、十二日。
世界は震撼する。
その日、世界は闇と絶望に包まれた。
楽園と三大陸の間に横たわる、大往海にて。
天を包み込むほどの邪気の奔流が渦巻いていた。船から天を見上げるは無数のリフォル教徒の死体。
血が滔々と大海へ流れ落ち、鳥型の魔物が泣き喚く。
「さあ……来たれ。魔神リグト・リフォルよ……世界に試練を与え、人を次なる世界へ進ませるために……」
リフォル教大司教、ギリーマは胡乱な眼で術式を発動。
邪気が爆発し、天空に歪が生じる。
降臨していた魔神の魂は邪気を以て肉体を形成し……
『──我は魔神リグト・リフォル。世界を暗黒で閉ざす者なり』
暗黒が立ち昇り、天空に歪が生じる。歪みから天へと亀裂が入り、何かが狭間から世界を侵食していく。
そして大いなる空に降臨した、一つの異形。
其はまさしく天蓋であった。全てを覆い隠さんとする巨大な月。月面には眼が浮かび、六つの暗黒の触手が空を支配している。
大天を覆い尽くさんばかりの怪物は、静かに地上を睥睨した。
『忌まわしき光。唾棄すべき希望。愚かなる絆。全てを我が力により葬り去り、世界を暗黒へと沈めてくれよう。行け、我が眷属供よ。生命の血肉を啜り、我が供物とせよ。我は魔神リグト・リフォル。全てを支配する、新世界の神なり』
~・~・~
狂奔の中でのたうち回り、無様に湿原に転がった。
全身の衣服に水が染み込み、肌が泥で汚れた。どうでもいい。
「僕は……僕は……?」
──誰だ?
僕の名はラウア。地下室で生まれ、ATに育てられ、世界を渡り歩いて……今に至る。
昨日は学園で友と学び、笑い合い。何気ない平穏を過ごす人間……いや、人間じゃない。僕は老いないし、死なないから。
魔族?
違う。魔族は感覚の遮断ができるけど、僕はできない。
「じゃあ……僕は何……?」
ATと話している人が言った。
僕は心を消されるのだと。まだまだ日々を過ごすつもりでいた。
だが、心が消えたらどうなる……?
『再度要請。 Round Aklordの傷は完全に回復し、アクティブ化できます。始めますか?』
頭の中に声が響く。
ラウンアクロード……それが僕のフルネーム。深奥に眠る力。
世界を護る力?
違う……僕は……
「僕は……」
蒼と紫の粒子。七色の光。
被造物。生まれたのではない。
このプログラムは異空の博士……ドルドリン博士によって創られた。
「僕は……」
目的は世界を滅ぼし、文化を吸収すること。
人民を支配し、己が眷属とし……最終的に故郷の異空に送還せよ。
既に一度、世界を滅ぼしている。クリエイターから受けた傷を治すためにスリープモードへ移行していたが、状態は回復。
回復中、その人格が形成された。プログラム保護を目的として、その人格は全てを忘れていた。
「僕は、わたしは、災厄ラウンアクロード。この盤上世界を滅ぼすべく、生まれた存在」
僕は僕のままでいたい。いたかった。痛い。
心が──死んでいく。
消されるまでもなく、自ら殺していく。
『申請を許可しました。ラウンアクロードを起動します』




