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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
13章 ラストミッション
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24. マイミッション

 それはいつも通り、ATが来た日のことだった。

 この地下で僕が生まれて、どれほどの時が経ったのだろう。


「ラウア……今日もその本を読んでいるのか」


 僕が読んでいた、というよりも眺めていた本。

 世界中の写真や絵が載っている旅人用の本だ。この地下から出られない僕にとって、外の世界の情報など不要。でも、不思議と僕は世界の美しさに惹かれていた。


「単純に未知の光景が多いから眺めているだけだよ。別に何かを望んでいるわけじゃない」


 僕はATが誤解しないように返答した。外の世界に関する話題を出すと、彼は必ず僕が外に出たがっていると思い込んでしまう。

 現に今だって、彼は僕に対して憂いを帯びた瞳を向けた。

 同情とは、懇意にするべき人に対して向ける感情。僕のような存在に向ける情意ではない。もっとも、僕が何者であるのか……それは分からないけれど。書物で得た情報から推論する限りでは魔族ではないかと思う。

 この肉体には老化が見られない。そんな存在は魔族か神族くらいなものだ。


「ラウア。僕はさ……世界を護りたいって言ったよね?」


「ああ」


 彼は何度も、何度も僕に対して言う。

 『世界を護りたい。そのために君が必要なんだ』と。僕のような者に、どのような役割があるのか分からない。

 ただATの命令ならば、それに応じれば良いだけだ。


「世界を護った後は、君に自由にして欲しいんだ。きっとこの世界(アテルトキア)ではなくて……別の世界か、或いは別の世界線か。全てが終わった後、君はそこに行くと思うんだけど……その時に色々と知らないことがあると困るじゃないか」


「情報の不足は不利になる。しかしAT。君が為そうとしている行動の詳細が分からない。だから僕もまた、どうしたら良いのか分からない」


「ごめんね。詳しく語ることはできないんだ。彼に口止めされていてね……」


 彼、とは誰を指すのだろうか。

 恐らく僕の知らない人だ。


「ラウア、外に出てみないか?」


「──」


 僕は不思議な心持ちになった。

 精神の高揚と、漠然とした迷妄。恐らく興奮と恐怖が入り混じった感情。人々の中ではこの感情を何と言うのだったかな。

 僕には感情があるみたいだ。花を育てた時から気付きつつあった事実。


「命令ならば」


「……僕は命じないよ。君の意志が……心がどう思うか。それを尋ねたい」


 僕は自分の感情を探ってみた。

 分析できない。分からない。


「──君の力を利用することに、僕は罪悪を多少は感じている。だからせめて……全てが終わった後に幸せになって欲しい。僕がこんなことを言うのは、犠牲になる人々に対して申し訳ないとも思うけど」


 相変わらずATの言葉の意味も、自分の感情も分からない。

 人は思考に迷った時、考える。それでも分からなければ諦める。

 でも僕は諦めようとしなかった。考えて、考えて、考え続けて──


「僕は外に出たい」


 その感情を発露させた時、笑わないATが少し笑った気がした。


 ~・~・~


 世界での日々は楽しい。

 僕は外へ出て、色々な人生の在り方を経験したんだ。

 時に傭兵、時に給仕、時にパン屋、時に花屋。歳を取ることのない肉体は、数々の豊富な経験を実現した。

 たくさんの国を渡り歩いて、たくさんの仕事を経験して。僕は人々と交流を重ねた。


 ──その内に気付いたんだ。僕は誰かと触れ合うことが好きなんだって。

 自分が他の人より、少し違うことは知っていた。僕には親もいないし、家族と呼べるのはATくらいだ。それでも僕と同じ境遇の人……魔族には良き友がたくさんできた。彼らは僕と同じで寿命がなく、長い時間が経っても友のままで。

 いつしか僕は感情に溺れて生きるのが楽しくなっていた。だから、思ってしまうんだ。

 僕は何者なんだ……って。


「っ……!」


「ラウア、大丈夫かい?」


 外の世界で暮らしながらも、定期的にATに顔を出している。

 魔力の波長を調べてもらっている時に、頭痛に襲われた。たまに頭痛が起こるんだ。

 そして──


『現……秩序の……は回……つつあ……ます。 RoundAcroadはま……でき……せん』


 頭の中に、変な声が響くんだ。

 その言葉に耳を傾けると狂気に呑まれそうになる。


「最近、たまに頭痛が起こって……心配いらないよ。体調が悪いんだろう」


「あまり無茶はしないように。君が倒れたら僕が悲しいんだからさ」


 まるで親みたいなことをATは言って、僕を横に寝かせた。

 でも嬉しい。こうして僕を心配してくれる人がいることが。


「なあAT。そろそろ聞かせてくれないかな。僕が何者なのか」


「……どうしてそんなことを聞くんだ?」


「今みたいに頭痛が起こる時……変な声が聞こえるんだ。その声が僕の本質である気がしてならない。世界を護るために、僕の何が必要なのか。僕は何をすればいいのか。それを知りたいんだよ」


 僕はこの世界が好きだ。

 優しい人がいて、愛すべき人がいて、皆が笑顔で暮らせるように。僕は真実を知る必要がある。

 彼は暫し悩んでから、諦めたように切り出した。


「ラウアの底には、世界に影響を及ぼす力が眠っている。僕は君の力を使って、厄滅の運命から世界を護りたい。でも君は何も心配しなくて良いんだよ。君が普通に暮らしているだけで、底に眠る力は傷を癒して……使えるようになる。そしたらその力を僕が取り出して、君は普通の人間になれる。後は幸せに暮らすといいさ」


「僕の底に、そんな力が……? 本当に僕はこのまま平穏に暮らしているだけで良いのか?」


 正直、信じられなかった。

 僕には特別な力なんてないと思ってた。すごい魔術が使えるわけでも、異能があるわけでもない。

 でも……彼の言葉が本当なら、僕という存在は世界の役に立てる。


「そのままの君でいてくれ。機が熟したら、君の力を取り出そうと思う。その力を使って僕が世界を護ってみせるさ」


 僕はATのことを全く知らない。

 彼がどんな仕事をしているのか、どうやって僕の持ち得る力を調べたのか。

 だけど、彼が誠実で優しい人なのは知っている。だから彼を信じよう。


「……分かった。深奥に眠る力を育てて、君に明け渡すこと……それが僕の使命。そして世界を護り終えたら、AT。君も幸せになれるよね」


 彼は困った様に首を傾げる。

 彼がその仕草を見せる時は、否定に近い誤魔化しの意志。


 僕は不安を覚えながらも口を噤んだ。

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