18. 守る為の力
ある日の夜。
イージアはロキシアに呼び出され、彼女の話を聞いていた。どうやら日中にルカは真実を彼女に伝えたらしい。
彼はロキシアとルカの話を直接聞いたわけではない。
しかし、ルカは正しく『お前はこれ以上強くなれない』と伝えたそうだ。そしてロキシアは納得し、表情一つ変えることなく頷いたと言う。
やはり彼女は自分自身のことをよく分かっていた。
「……考えました。自分がどうして強くなりたかったのか」
黙して彼女の言葉を聞くイージア。
ルカに事実を告げられた後、彼女はイージアの下を訪れた。
「世界は平和に向かっています。しかし、再び魔神の復活が近付いていると……私は生まれた時から聞かされていました」
「そうだな。間も無く魔神は受肉し、世界に顕現するだろう。そして龍神も人間に神能を授け、立ち向かうべく導き出した」
残り半年ほど。魔神リグト・リフォルは降臨し、四英雄に打ち倒される筈だ。
「私は──守りたかったのだと思います。故郷には大切な家族や友人がたくさん居ました。でも、彼らを守れるほど強い人は居なくて……私が『その人』になりたかった」
イージアはどこか近しいものを彼女に感じた。
英雄でなくとも、愚者であろうとも、大切な人を守りたいという意志は変わらない。誰もが抱える心だ。
彼女は人を傷付けたくないが、力を持っている。だからこそ自分にしか選べない道を歩んだのだ。
「……立派だよ、君は。私よりもずっと。君のような弟子を持てたことを誇りに思いたい」
ラーヤの意志は正しく受け継がれている。
こうして『守る意志』を持つ者を……少しずつでも良い。大切に育てていくことが、いずれ魔神の脅威と、災厄の脅威に晒される世界を護ることに繋がるのではないだろうか。
「ありがとうございます。私は……あなたに出会えてよかった」
~・~・~
「水鞭!」
水魔術で生み出した水流が撓る。
イージアに迫った水の鞭は受け流され、彼方へと飛ばされる。
私はゼロと一緒に、二人の師匠と戦っていた。相手はイージア師匠とフェルンネ師匠。ルカ師匠とロキシアは向こうから戦いを眺めている。
「『暴風』、『暗黒』」
フェルンネが同時に二つの魔術を行使。
風と闇の複合魔術。暗黒の刃を纏った竜巻が吹き荒れ、天を覆い尽くす。
ゼロにハンドサインを送る。防御の合図だ。
「『相互転移』──」
一瞬で転移した私は、魔結界を展開。
私たちの強みは異能にある。転移することでゼロも一緒に防御用の魔結界に入る。暴風を防ぎ切り、再び攻勢に出る。
結界を飛び出すと同時、ゼロの剣に水刃を付与。今、ゼロは『気』を纏っていた。
イージアが使うような戦意ではないけど、強者に立ち向かう時に発生するオーラのようなもの。普通は視認できないけど、私は『魔眼』によって気の流れを捉えられる。アレが出ている間、ゼロの能力は大幅に強化される。
「水流剣──」
前方に立つイージアにゼロが迫る。
イージアの気と、フェルンネの気はまるで動いていない。イージアは【不敗の王】を使っていないし、フェルンネは理外魔術を使っていない。本気じゃないのだろう。
でも、全力でやってやる。
「魔眼」
完全に魔眼の力を解放する。戦場を俯瞰して見ること、それが最重要。
ゼロの剣閃の軌道は速く、きわめて鋭い。命中すれば相当なダメージが入る。しかし、イージアに攻撃を命中させることは難しい。
──でも、私たちには長年のコンビネーションがある。それが師匠たちに勝っている点。私が正しく誘導すれば攻撃を命中させてやれる。
魔力を練り始める。ゼロの攻撃が当たらなかった時も想定して、第二の武器を用意し始めた。
ゼロの斬撃を受けようとイージアが構える。
『青雪の構え』。時間の概念を無効化する霧を纏い、特殊な攻撃を受け流す構え。
以前の私ならば、どうしようもなく攻撃を無効化されていただろう。でも、今の私には『魔眼』がある。気の流れを捉えて……霧が解除された瞬間に攻撃を合わせる!
「水霧……歪曲!」
水の霧で幻影を作り出す魔術と、空間を歪曲させる簡易魔術を複合。
イージアの青霧は常に展開されているワケじゃない。隙を突けば攻撃は当たる。
ゼロの姿がブレる。イージア視点では、水霧でゼロが数人に見えているはずだけど……看破されているのは明白。だから二重に魔術を付与した。
「分身剣ッ!」
「……!」
ゼロの幻影がさらに歪み、収束しては分裂する。
イージアの動きが停滞した。僅かに青霧が消失し──
「『破幻』」
魔眼が異様な術式を捉える。
フェルンネが理外魔術を使ったのだ。幻影が破られると同時に、ゼロが振り向く。
そう、斬撃を当てることが目的ではない。今までの私たちはゼロが攻撃で、私が補助の役割だったけど──
「「『相互転移』!」」
ゼロが後方へ、私は前方へ。
イージアの至近距離に近付く。
「受け止めてね。『根源波濤』」
魔眼が使える今の私なら、この魔術を完成させられる。
私を中心にして巨大な波が巻き起こり、天を覆い尽くす。身体の底から湧き上がる魔力の奔流は、行使成功の合図。
この島、沈んじゃったらごめんね。
「なるほど、これは……」
間近でイージアが感心したように天を見上げている。
前々から思ってたけど、すごく呑気な性格だよね。感心してる場合じゃないと思うんだけど。
魔力の欠乏で視界が明滅し、赤く染まる。
──限界が近い。
「ちょっと、イージア! 何やってるの!?」
フェルンネ師匠の声が聞こえた。
聴覚も劣化して、かなり声が聞き取りづらい。
「ああ……すまない。魔術も出来に見惚れていた。これは防ぎ切れないな……」
意識を手放すと同時に聞いたのは、イージアのそんな言葉だった。




