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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第3部 12章 天の守り人
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17. 暗雲広がる過去

「これにて今日の訓練は終了ッ!」


「はい、ありがとうございました」


 ロキシアが頭を下げ、その日のルカとの修行は終了した。

 イージアはぼんやりと二人の剣戟を眺めていたが、随分ロキシアは成長したと思う。これ以上、人の身で強くなるのは無理があるのではないか……そう感じるほどに。


「ルカさん。ロキシアはそろそろいいのではないですか?」


 イージアの問いは抽象的だったが、ルカには彼の意図は把握できた。

 この龍島で学ぶ必要があるのかという疑問だ。


「ふむ……我も、ロキシアは十分に強くなったと考えているのだが……」


 ルカにしては珍しい、影のある表情。彼はしばし俯いてから言った。


「我の小屋へ来てくれ。話したいことがある」


 ~・~・~


 イージアは過去に一度、その小屋を訪れたことがあった。

 記憶とは内装がいくぶんか違い、木製の壁の色も変わっている。イージアがルカに師事するのは百五十年以上後の出来事。改装でもしたのだろう。


 彼は席に座り、部屋の全体を見回す。

 棚の上に写真がある。ルカと、小さな男の子と女の子が写っている。

 彼の視線に気が付いたのか、ルカは彼の向かい側に座って口を開いた。


「あの写真は……我の弟子のものだ。かなり昔の写真なので、粗いのが難点だ……」


 たしかに、彼らの表情が辛うじて分かる程度の粗さだ。しかし、三人は笑顔を浮かべていることは間違いなかった。


「女の子がフィリ、男の子がオハーツという。魔術と剣術の使い手だったのだ」


「過去の弟子ですか。彼らは立派に功績を残したのでしょうね」


「……そうだな」


 ルカは菓子の包みを解いて、口へ運ぶことなくイージアを見据えた。


「ロキシアはこれ以上強くならん。もう人間の限界に達している。しかし……我にはその事実を伝える度胸がない」


「──どういうことですか?」


 これで修行は終了だと、そう言ってやればいいだけ。

 イージアには彼が何を躊躇っているのかが理解できなかった。


「もっと強くなりたいと言われることが怖いのだろうな、俺は。人が限界の超越を望めば……待つのは破滅のみ。その破滅を恐れている。だから……お前から言ってやってくれないか」


 ルカは頭を下げた。

 この師が、そこまでプライドを捨てて頼み込むなど滅多にないことだった。

 イージアは動揺しながらも言葉を紡ぐ。


「ロキシアはそこまで弱い子ではないでしょう。事実を伝えられれば納得します。しかし、ルカさんの方に問題があるのならば……その頼みを引き受けましょう」


「ああ……俺の問題だ。俺はまだ、師匠として最後の役目を……終わりの瞬間を迎えることができない」


 ルカの背景は窺い知ることができない。

 弟子であったイージアでさえも、彼のペルソナは剥がせない。長らく仮面を被ってきたイージアよりも強固な、素面のペルソナを。


「ロキシアだけではない。もうすぐゼロとサーラも限界とは言いませんが……大きな壁にぶつかる。その時にルカさんはどうするつもりなのですか?」


「分からん。俺には分からない。だからイージアに任せたい……師匠失格だがな」


 ここまで弱気な姿を、今までルカは見せなかった。

 常にイージアに対しては師として接し、強くあろうと心掛けてきたのだろう。しかし今は同じ立場に立つ仲間。だからこその弱さの露呈だ。


「ロキシアはここまでだ。しかし、ゼロとサーラがこれ以上の強さを望む場合は……然るべき試練を課さねばならない」


 魔族であり、六花の将である二人の力を引き出すとなると、並の者では務まらない。

 イージアがかつて修行した場所に居るからだろうか。記憶に紐づけられた者が想起された。

 ──戦神。騎士アルスの修行の日々を考えれば、彼の神ならば適切に力を引き出してくれるに違いない。


「晴天の試練を知っていますか?」


「……! なぜ、その試練を……!?」


「ゼロとサーラに対して、私たちでも教えることが無くなった時……それでも彼らが強さを望むのならば。晴天の試練を受けさせようと思います」


「駄目だ!」


 ルカは突然立ち上がり、大声を上げた。


「駄目なんだ……あの試練は魔族であろうとも、命を奪われるかもしれない……」


 たしかに戦神の試練は厳しい。

 イージアも何度も足を運び、槍術と『不敗の王』を磨き上げたが……何度も死ぬような思いをした。無論、単純な訓練と晴天の試練では違いがあるだろうが。


「苦難なしに、成長することはできない。彼らには命を失う危険があることも伝える。決めるのは彼ら自身だ。それを邪魔する権利は私たちにないし、私に彼らの未来を任せると言ったのは貴方です。……私には分からないのです、貴方の意思が。話していただけませんか?」


 ルカが抱える懊悩を、イージアは分かち合いたいと思う。

 自らの師であり、尊敬する人物である彼の弱気な姿。これ以上見たくはない。

 ルカは彼の言葉に冷静さを少し取り戻し、席に座る。そして彼の過去を話し始めた。


 ~・~・~


「……晴天の試練に挑んだ末、フィリとオハーツは死んだ」


 イージアは全てを聞かされた。

 ルカが写真に写る二人を育て、死なせてしまった経緯を。

 残酷な運命だと思う。戦神は本当に試練でオハーツを殺す気があったのか。彼の性格を鑑みるに、イージアはどうしても腑に落ちない点があった。


「ルカさんは……二人と出会ったことを後悔していますか? 晴天の試練に送り出したことは後悔していても、二人に出会ったことには後悔していないでしょう」


「無論だ。俺はあの二人から……かけがえのない幸福を貰った」


「私だって、ゼロとサーラに何かあったら怖い。ロキシアがこれ以上無理をしてしまうことも怖い。しかし……運命には抗わねばならないと思う。私の甘い理想かもしれません。ただし、強さを求める運命に身を置いた以上は……死と隣り合わせになる。彼らも分かっているはずです」


 イージアとて例外ではない。

 不死を断つ手段も無数にある。もしかしたら、ほんの少し運命が違えば……彼は死していたかもしれない。死した《Xuge》が存在していたかもしれない。


「……俺の命も長くはない。たしかに、不死であろうと終わりは必ず来る。終わらぬモノなど存在しない……か。智龍がそう言っていたな」


 ──長くはない。

 その言葉に疑問を覚えたイージア。しかし彼が問う前にルカは口を開いた。


「分かった! 我も向き合おうではないか。イージアよ、先の話はナシだ。我からロキシアに、お前はもう強くなれないと伝えよう。……晴天の試練の話は、ナシとはしない。お前の口からゼロとサーラに伝えてやってくれ」


「承知した。ただし私たちが二人に教えることがなくなったら、の話です。まだまだ『守天』の二人には教えることが多いのですから」


「うむ! 我と、貴様と、フェルンネで! 教え導いて行こうではないか!」


 ルカから差し出された手を、イージアは固く握り返した。

ルカの弟子に関しては、2章28話に記載されています

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