15. 魂の振動音
「歪曲!」
簡易的な空魔術を行使する。
空魔術は風魔術と少し違う。世代的には風よりもずっと後に出現した属性。
風はこう……バーッと衝撃を起こす感じで、空はじわりと現象を起こす感じ?
でも、現象は発生しない。私の適正属性は水なんだから当然だけど。
後ろで見守っているフェルンネ師匠は命令を飛ばしてくる。
「意識を集中させて、あるべきものだけを視ようとすること。魔力は何にも変換できるけれど、基本的には適正属性以外への変換を許さない。創世法則を無視できるとすれば、それこそ魂の力のみ」
最初は何を言っているのかよく分からなかった。
魂とか言われても、掴めないし触れないから。でも、実際魔族は邪気のみで構成されているから、その核となるものがある筈だし……。
最近は少し感覚を掴めてきた気がする。便宜上『魂』と呼ばれてるけど、これはきっと──
「あ、れ……?」
視界が一瞬セピア色になって、すぐに戻る。
その一瞬の間、あらゆる気の流れを見れた気がする。僅かな時間だったので確証はないけど。
もう一回やってみよう。
「歪曲」
魔力行使と同時に自分の内側へ意識を向ける。
あるべきものだけを視ようとする……
「……!」
今度は視界がセピア色になる現象がずっと続く。
見えるのは魔力の流れ、邪気の流れ……魔術を行使するには私が繰っている魔力をこうやって動かして……発動形式自体は他の属性も同じだから……
「えいっ!」
──何かが嵌まるような感覚。
同時に中空に歪みが生じた。これってもしかして、成功?
「……それはあなたの魂の力、『魔眼』。やっぱり私と同じ……【真理】の魂だったみたいね」
「真理……」
真理?
うーん……真理?
私、別にそこまで研究者肌じゃないんだけど。
「まあいっか。とにかく、これで魔力をどう動かせば良いのか見えるようになりました! ありがとうございます!」
「大変なのはここからなんだけどね……」
たしかに。ここから色々な魔術を練習しないといけないし、精度も上げないと。
流石に全属性を使えるとは思えないけど、初歩的な魔術なら色々な属性を扱えるかも?
初歩でも複合することで効果を発揮できるだろうし。
なんだか楽しみになってきたな。
~・~・~
「はっ!」
鋭利な剣先がルカに迫る。
「甘いッ!」
素手で剣先を受け流したルカは、ゼロに蹴りを叩き込む。
大きく後退したゼロは踵で土を削り、その場に踏みとどまった。そして呼吸を整える。
「ほう……以前の貴様であれば、すかさず特攻を続けていたが。冷静さを得たか?」
「おう。フェルンネ師匠から、あなたはもう何も考えるなって言われたんです! そしたら逆に考えられるようになった! 今までの俺は、とにかく攻撃することばっかり考えてたから……思考に余裕ができたんです!」
「無為が有為を生むか……光と闇は表裏一体! 意志なき力があればこそ、意志ありき!」
再びゼロは駆け出す。
十分に身体強化を調整し、今後の作戦を立てながら。
大上段の振り下ろし。ルカは回避。
そのままの勢いで突き立てた剣を軸として、背後へ回り込んだルカへ回し蹴りを放つ。
即座に剣を引き抜いて横一文字に斬撃を飛ばす。
「無駄だ!」
ルカは斬撃を拳で打ち砕き、更にゼロへ追撃。
再び彼は地面を転がってしまう。
「へへっ……」
「ぬ? それはどういう感情の笑いだ?」
地に伏しながらも笑うゼロを訝しむルカ。
彼は再び立ち上がって歯を光らせる。
「なんか最近さ……ルカ師匠みたいな強い人に立ち向かう時、ゾクゾクするんです! 俺はこんなもんじゃないって、その人たちを超えてやりたいって……そう思うと楽しくなる!」
「我にも昔、そのような時期があったものだ。その頃から自己肯定感が高まりつつも、強者に畏敬の念を払うようになり……やがて今代の強さまで至ったのだ。心境の変化は大きな兆し。その心、ゆめゆめ忘れるでないぞ!」
「はいっ!」
ゼロは返事しながら再び斬り込む。
彼の速度と反応は一層向上し、戦えば戦うほどに高まっていく。苦戦が、苦悶が、苦境が彼を奮い立たせる。
斬り込みの隙を突いて、ルカの拳が彼の目前に迫る。刹那、
「しいっ!」
ゼロの全身を冷ややかな快感が包み込む。
昂っていた高揚が頂点に達し、糸が途切れたかのように身体が軽くなる。五感全てが研ぎ澄まされ……彼の世界は一段上へと昇り詰める。
爆発的な加速。拳を躱し、研ぎ澄まされた一閃が孤を描く。
「ぬうっ!?」
動きが格段に強化されたゼロの攻撃。
ルカは思わず飛び退くが、腹部に斬撃が走った。
彼我の距離が開くと共に、ゼロを包み込んでいた高揚はクールダウンしていく。
「フハハッ! 貴様の『挑戦』はそこまで至ったか! これは我もうかうかしていられんな!」
「今、なんか……すごい気分でした。一体何が……」
「貴様の魂が【不敵】であるからこその力の発現だ。その感覚、決して忘れるなよ。深淵より生み出されし万能たる感覚は、常に強者という壁があってこその代物。常に己が才覚を深化させ続けるのだ!」
「は、はい!」
実力、思考、勇気。
全てのピースが揃ったからこその力の発現。
ゼロは今しがた自分の身に起こった変化を決して忘れないよう、心に刻み付けた。
~・~・~
その夜、イージアの携帯に連絡が入った。
『やあイージア。良い朝だね』
「こちらは夜だ。おはよう」
レアの間延びした声が電話越しに響く。
寝起きの声だ。
『君から頼まれていたリフォル教について……知ってそうな人を見つけたよ』
「そうか。誰だ?」
『あー……ルフィアレムで孤児院を経営してるらしい。今度会いに行きたまえ……私は二度寝する』
「おい……」
一方的に通話を切られる。
イージアは溜息を吐きながら電話をしまった。




