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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第3部 12章 天の守り人
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13. Next:Player

「僕と共に世界を護ってくれないか」


 ATは揺るがぬ信念を籠めた瞳で、イージアに手を伸ばした。

 彼の白い手は天から降り注ぐ光に照らされている。流れ落ちる滝の音がやけに煩わしい。

 イージアは彼の手を見つめ、異様な感覚に包まれていた。


 ──ここで手を取れば世界は護られる。

 確信がイージアの中に渦巻いていたのだ。世界を知悉するATの手を取れば、混沌の因果も、秩序の因果も跳ね除けて……素晴らしい世界が実現するのではないか。

 イージアはATのことを何も知らない。彼がいかにして世界を護るのか、最終的な目的は何なのか──何も知らないのだ。しかしながら、あらゆる不可解を押し退けて……ATの信念はイージアの心に突き刺さった。


 その数秒、世界は彼らを置き去りにした。視界が灰色に染まる。

 逡巡の中に無限の時が流れ落ちる。滝の水飛沫、一滴毎が無限の迷いを孕んでいたのだ。

 ここが世界の因果を左右するbifurcation──分岐点となるだろう。


 世界に色が戻る。

 彼らは置き去りにされた時を取り戻した。


「私は……君の手を取らない」


「……どうしてかな」


 その時、イージアは初めてATの顔に感情らしき感情を見た。

 怒り、或いは悲哀。


「君は犠牲を厭わない。リフォル教は魔神を崇拝する宗教とされているが……君は名目として魔神を崇拝させているだけで、本当の狙いは違う。AT、君は世界を護るためにリフォル教を使っているのだろう。しかし、彼らが生み出す犠牲を顧みたことはあったか? 私は全てを救う。世界を救うのは……共鳴者(わたし)の役目だ」


 ATはイージアの虚ろな瞳を再び見つめた。

 其処にはATの信念と相克する、強き意志が……『心』が宿っていたのだ。


「……これ以上は、無駄な話になるね。イージア……今一度、宣告しよう。」


「…………」


「僕は世界を護る。ラウンアクロードの居場所も教えない。混沌も、秩序も打ち破り……この盤上世界(アテルトキア)を救済する。それだけは伝えておこう」


 イージアは静かに戦意を滾らせた。

 対するATは、止水のように穏やかに佇む。


「素直に君を逃がすとでも?」


「僕は逃げるさ。この身は真実であり虚構。本質であり実存。故に──」


 ATの姿は霧のように霞む。

 もはや攻撃は無為。イージアは瞬時に悟った。


「──次は盤上の駒としてではなく……プレイヤーとして会おう。真なる救済がどちらかを決めるために……」


 後に残ったのは、ただ一人。

 イージアは滝を見上げて瞳を閉じた。


 ~・~・~


 全方位を黎の矢に包囲された。

 これほど大規模な展開は即座にできない。私たちと戦っている間にも、ギリーマはこの包囲の準備をしていたということだ。


「この勝負……我の勝ちだ」


 一方的に勝敗を決めつけて、ギリーマは宣告する。

 相手が一枚か……いや、二枚くらい上手だったのは事実だけど。


「では……穿たれよ」


 矢が迫る。この黒い矢は単純な結界じゃ防げないことを確認済み。

 受けて死ぬしかない……? 痛覚を一部遮断。

 矢に不死殺しの仕掛けが仕込まれていないことを願いたいけど……ギリーマのことだ。きっと何か仕掛けがある。できれば貫かれたくない。


「サーラ!」


「あい!」


 ──諦めない。

 私たちは【六花の将】なんだ。敗北は許されない。

 『守天』は唯一神能に覚醒してないのは情けないんだけど。とにかく、敗北は矜持が許さない。


 黒の矢が射出されると同時、私たちは連続で『相互転移』を使う。

 上のゼロの方へ転移し、ゼロはさらに私の上へ転移。繰り返すことで位相をずらしつつ、天へと昇り詰めていく。飛来する矢が私の身体を貫かんと掠め、ギリギリのところで回避する。


「なるほど、良い連携だ。しかし……」


 さらに上方に蓋をするように、暗黒の矢が出現。

 予めギリーマが仕掛けていたものではない。たった今創造したものだ。アイツが動かずに呑気に戦いを見守っているなんて、都合の良い話なのは分かってたけど……まずい。

 躱せな……


「飛雪の撃──『堕落』」


 無数の透明な魔力が迸った。

 斬撃だ。矢の数を上回る斬撃が雨のように降り注ぐ。斬撃は一つ残らず矢を叩き落とし、ついでに私たちも地面に叩き落した。


「いってえ! ……って、師匠!」


「フッ……窮地にて、我が剣が降り注ぐ。其は破滅の足音か、救済の福音か……汝が眼で確かめるが良い!」


「なんだ、この男は……」


 ギリーマが困惑したように呟く。なんだろうね、変な人だよね。

 でも今は助かった。


「二人とも、無事!?」


 少し遅れてロキシアがやって来た。

 どうやら魔物は片付け終えたらしい。ギリーマは彼女が手にする黒い刃を見て目を細めた。


「その刃は……もしや……」


「な、なに……?」


「なるほど、ラーヤの忘れ形見か。既に『黎触の団』は潰えた以上、お主に興味など無いが……なおも黎の刃は血を吸い続けておったようだ」


 ギリーマの言葉に彼女は表情を強張らせる。

 刃を握りしめた手が少し震えている。ぐっと更に強く握る力を強めると、彼女は決然として言い切った。


「私の刃は人を殺めたことはない。力をどう扱うのかは、その人の自由だから。あなたに決められる筋合いはない」


「ふん……如何に取り繕おうと、お主の血筋がホーウィドットで無数の人間を殺めてきたのは事実。我らの宿運は決まっておるのだよ」


 こうやって人の運命を決めつけるのが、私の一番嫌いなタイプだ。

 私だったら、きっと怒っている。

 でもロキシアはギリーマの言葉に揺さぶられなかった。


「あなたと話しても無駄だね。師匠、どうしますか?」


「…………」


 師匠は瞳を閉じて黙り込んでいた。

 ロキシアの言葉に感心していたのか、集中を高めていたのか。


「……師匠?」


「…………スピー……」


 寝てるー!?


「僥倖か。我でもその男には敵わぬ……今はまだ、な。故にここで退かせてもらおう」


「あ、待て!」


 ギリーマは身を翻して高地の山肌を駆け下りて行った。

 私とゼロで飛翔して追ってもいいけど……捕まえられないよね。


「し、師匠……」


 ロキシアが若干涙目になってる。

 仕方ないから叩き起こしてあげよう。


 後から寝てた理由を聞くと、話を聞くのが退屈だったからだとか。

 ほんとに、人間性は見習えない師匠だよね。

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