11. 不穏なる再会
高地に次々と現れる魔物。
魔物は意志を持たないはずなのに、妙に統率が取れていて気味が悪い。しかもナバ高地には見られない種が次第に多くなってきている。
「流水!」
水の鞭を滑らせて魔物を一掃。
ロキシアも素早い動きで殲滅力は高い。ゼロはいい感じに魔物の注意を惹き付けてくれている。
「数には限りがあるはずなんだけど……多いね。先行してリフォル教を追いたいけど、魔物を放置するわけにいかない。どうしよう?」
「サーラちゃん、私が魔物を引き受けるよ。ゼロ君と一緒なら飛べるんだったよね? それなら先に行って、リフォル教を何とかして」
ロキシアはそう提案する。
いくらルカ師匠が付いているとは言え、彼女一人で対処は難しい。きっと無茶をしてしまうだろう。
師匠が戦ってくれればなあ……
「ふむ、サーラよ。ロキシアのことは問題ない。我が力の抑制と均衡を伝道しようではないか!」
……信用できないなあ。
まあ仕方ない。
「ゼロ、行くよ!」
「おう!」
弟の手を取って、翼を展開する。
こうして危機の中で飛ぶのは久しぶりかな。最近は水魔術を応用して一人で飛ぶことも多かったし。
飛翔すると、高知の一部に黒服の集団が居た。数は十人くらい。斜面にできた洞窟に身を寄せて、中で何かをしているようだ。となると、奥にもリフォル教がまだ居るかもしれない。
「このまま突っ込むぜ!」
「りょーかい!」
ゼロの剣身に水流を宿し、そのまま急降下。
「絶対渦巻必殺剣!」
意味不明な技名を叫びながら、ゼロの剣が地表を撫でる。
濁流がリフォル教徒たちを飲み込み、一気に奴らは流されていく。たぶん死んでないけど、動く事もできないのでアイツらは後回し。
「……って、洞窟の中にも水流しちゃダメでしょ!? 一般人が中にいたらどうすんの!?」
「あ、そっか! わりい!」
ゼロの斬撃で飛ばされた波は、激しく洞窟の中へ入り込む。
水責めは魔物相手には悪くない戦法だが、人間相手に使うのはちょっと……やだよね。しかも、リフォル教は一般人を誘拐したりするから、無辜の人を巻き込んでしまったかもしれない。
「安心せい。只人を巻き込んではおらぬ。洞窟に入っていた我が同胞はみな死しているだろうがな……」
その時、洞窟の奥から声が響いた。
聞き覚えのある声が反響して、私の身体はゾクリと震える。
この声は──
「ギリーマ……! いや、ムスカ!」
サーラライト族で占術師として紹介された男。
その正体は『黎触の団』だった。『黎触の団』の幹部の中で、唯一コイツだけを逃がしてしまったのだ。
「我が名はギリーマ……リフォル教の大司教である。またの名を『黎触の矢』ムスカ。しかし、既に【黎触の王】は潰えた。今の我が座するは、大司教という席のみよ」
「つまり……どういうこと? アンタはどっちに与してるの?」
「我は元々、教皇様に仕える身。『黎触の団』に潜り込み、然るべき時に王を潰すつもりでいた。もっとも、貴様ら六花の将がその役目を代行してくれたでな」
だから『黎触の団』との決戦でも、私たちを深追いしないで逃げたのか。
ここでギリーマと交戦すべきだろうか。コイツは強い。でも、私たちだって少しは成長している……それにゼロは退こうとしないだろう。
「おいギリーマ! ここで何してたんだ! あの魔物どもはお前の仕業か?」
「うむ。教皇様から賜った『混沌』……その応用を研究しておった。未だ形にはなっておらぬが……エムティター以上の、心神に迫るエムティング並の研究成果を出さねば……百六十年後の魔導王復活と厄滅までには間に合わせる」
「何言ってんのか分かんねえが、とにかくお前を倒せば良いってことだな! あの時のリベンジだぜ!」
「まあ、そうなるよね……」
後方の魔物とリフォル教は、とりあえずロキシアと師匠に任せよう。
リフォル教が何を企んでるのか知らないけど、止めてみせる。
~・~・~
イージアは察知する、歪な『何か』を。
それは龍島が夜の帳に包まれた頃合いだった。
「今、ルカと弟子の三人は外へ出ているはずだ。彼らではないな。気配はたった一つ、か……」
彼は宵闇を縫って駆け出した。
もはや龍島は彼の故郷のようなもの。生い茂る木々、深き谷、全ては障害となり得ない。
謎の気配はルカの小屋から東に向かった先の洞窟……『セムノー』という四足歩行の魔物が出没する洞窟から感じる。フェルンネは今、アパートの自室に居る。この気配の正体は彼女ではない。
しかし、フェルンネは気配を察知した素振りがなかった。八重戦聖の彼女でさえも読み取れなかった気配。おそらくイージアが察知できたのは、この龍島の魔物や竜種の気配を網羅していたからだろう。
洞窟の奥へと入り込み、骨のような四足歩行の魔物……セムノーの横を通過する。
幼少期は苦戦したものだが、今では相手にするべくもない。
深奥部には、見上げるほど巨大なセムノーがひっそりと佇んでいる。洞窟の壁面をじっと見つめ、動くことはない。殺気を殆ど感じなかったイージアは、巨大なセムノーを迂回せずに足元を通り過ぎた。
この先には滅龍の遺骨が見下せる滝壺があったはず。
月の光が降り注ぐ滝、静かに瀑布が水音を立てる領域にて。
彼は一人の男の姿を捉えた。
男は滝の前に静かに佇んでいる。
「AT……」
「こんにちは、イージア。良い夜だね」
リフォル教、教皇。
髪も瞳も純白に包まれた男は、柔らかく微笑んだ。




