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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第3部 12章 天の守り人
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7. 救いへの進化

 フェルンネ師匠の部屋に招かれて、私は講義を受けている。


「別に適正属性じゃなくても、初歩的な魔術は習得できるの。あなたは水属性が適正みたいだけど、別の属性も使えるでしょう?」


「はい。明かりを点けるための炎とか、涼むための風とか」


 日常生活で使う魔術……というよりも魔法かな。それくらいなら適正外の属性でも使える。


「適正外魔術を行使する際の限界はどの程度だと思う?」


「え……うーん……攻撃魔術まで高めるのは無理じゃないですか?」


「私は多くの属性で攻撃魔術を使えるのだけど」


 そうでした。

 でも、フェルンネ師匠が特別なだけでは?


「限界はまだ未観測。でも複数の属性を掛け合わせることによって、個人の魔術領域は適正属性に縛られなくなる」


「……それ、何気に世紀の発明では?」


「こんなことは数百年前から発見してるわ。まあ、公表はしていないけどね。そもそも公表しても、複数属性を使いこなすには、血の滲むような努力が必要だし」


 もしかして、その『血の滲むような努力』を私にさせるつもりで?

 ご冗談を。


「『属性進化論』について説明しなさい」


「あー……つい最近提唱された論でしたよね? ほとんどの人は信じてないみたいですけど。世代が進む毎に魔術・魔法の属性は細分化していくとか」


「そう。実は、適正属性っていうのはDNAに刻まれているの。新属性の誕生は人類の進化。『属性進化論』は正しいわ」


「なんでそんなこと知ってるんですか?」


「うるさい。正しいの」


 怒られた。こわい。

 でも、衝撃的な事実なのは間違いない。どうしてこんな理論を正しいと言い切れるのか、私には皆目見当もつかない。


「じゃあ、適正外の魔術はどうやって行使していると思う? どうやって魔力を適正外の属性に変化させたらいいと思う?」


「……分かりません」


 フェルンネ師匠はゆるりと動いて、私の後ろへ回り込んだ。

 そして──


「ひゃっ!?」


 私を抱きしめた。


「な、なん……」


「何でもいいから魔術を使ってみて」


「ひゃい……」


 なんで抱きつかれたの? 意味が分からない。

 言われるがまま、魔力を通す。

 あれ……? 魔術が発動しない。


「魔族の魔術の素養は、魂に由来するの。私は今あなたに接触して魂の動きを封じているから、あなたは魔術を行使できない」


「な、なるほど……魂ですかそうですか」


「それで、サーラの魂は何色なのかしら。もう少し詳しく観測してみたいのだけれど……」


 魂……そんな概念は気にしたこともない。魔族は不死だから、蘇生の際に魂というものが作用するって言うけど……それが何なのかは科学的に解明されていない。

 ちょっと……かなり思考が乱れている。私はどうしたらいいの?


 ふと、部屋の扉が開いた。


「今戻っ……すまない。邪魔をした」


 イージアが扉を開けて、すぐに閉めた。

 違う……そういうのじゃないから!


 ~・~・~


 割り込んではいけない空間に割り込んでしまったイージアは、己の罪を恥じながら部屋を出る。

 外でゼロとロキシアの稽古をつけていた彼。今は休憩中だ。

 剣術の腕はロキシアの方が高いが、総合的な武力はゼロの方が上。一長一短といったところだ。


「イージア師匠、お尋ねしたいことが」


「何だ?」


 ロキシアは【救いの刃】をイージアに見せた。

 吸い込まれるように真っ黒な剣。彼女の黎の力によって生み出されたものだ。


「師匠はこの力を知っているのですか?」


「まあ、多少は」


「では……この力は、人を殺す為に使われたことがありますか?」


 彼女の問いにイージアは眉を顰める。


「どうしてそんな質問を?」


「一子相伝のこの力は……【救いの刃】と言われていて、決して人を傷付ける為に使ってはならないと伝承されています。もちろん……私だって誰かを傷付ける為に使いません。でも……時々、怖くなるんです。誰も斬ったことがないはずなのに、誰かを斬った記憶がフラッシュバックするんです。とても生々しくて、嫌な記憶が」


「…………」



 彼女の記憶は、おそらく黎の力に刻まれたもの。

 先祖が【黎触の刃】を使って人を斬ってきた光景を見せられているのだろう。原因は分からない。しかし、黎の力が血脈で受け継がれるのなら、あり得る話ではある。

 人を斬った記憶そのものが異能となって遺伝しているのかもしれない。


「気にするな、と言いたいところだが……無理な話だろうな。たしかに、君のご先祖たちは人を斬ってきた」


「……!」


「だが、君が斬ったわけじゃない。君の親も、祖父母も人を斬ってはいないだろう。平和を願い続ける限り、いずれその忌まわしい記憶は消えるはずだ」


 彼女は灰色の瞳を揺らして、俯いてしまった。

 イージアの言葉ではまだ納得できていないようだ。


「生命は進化する。何かを願い、何かを夢む心……それが進化への鍵となる」


「進化……」


「君の血筋は、もう長いこと平和を願い続けている。私はそれを知っている。故に、必ず戦乱の記憶は消え去り、君の刃も【救いの刃】の名に相応しい輝きを得るだろう。心がある限り、力は答えてくれる。だから信じ続けるんだ」


 ロキシアは手元の刃を見た。

 同時にイージアも過去の記憶を思い出す。ラーヤが握っていた当時よりも、清らかな黒……美しさが増している。


「力は使い方が全てだ。人を殺す力も、誰かを守る力に変えられる。偽善と力を振りかざし、誰かを傷付ける……そんな人間にはなってくれるなよ。君のことだから心配はいらないと思うが」


「はい……ありがとうございます」


 彼女は静かに笑い、救いの名を冠する刃を握りしめた。

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