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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第3部 12章 天の守り人
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3. 無垢は竜の頸を撥ねる

 結局、ゼロはルカに師事することになったそうだ。

 イージアは創造神からその旨を聞き、複雑な心境になった。二人が誰かに師事する経験を得るのは良い事だが、一方でルカに預けるのは不安がある。

 というのも、彼が幼少期に散々ルカから酷い扱いを受けたからだ。


「そもそも、ゼロはルカの特殊な言語を理解できるのか……?」


「イージアさん、ここにいらしたのですね」


「アリスか。どうした?」


 物思いに耽る彼に、アリスが声をかけた。どうやら彼女はイージアを探していたようだ。


「お客様が来ていますよ」


「客……?」


 ~・~・~


 一月後。

 私、サーラは『龍島』に行くことになっていた。

 いま私はレヴィーに乗って島へ向かっている。そして島へ降りる時が近付いてきた。


「荷物は……これでいいのかな? よし、準備オッケー……」


 ──緊張する!

 師匠なんて持ったことないし、大丈夫なのかな……?

 レヴィーを出て、深呼吸する。そして歩き出す。


 砂浜を少し歩いた先には、すごく深い森林が広がっていた。

 方向感覚がすごく狂いそう……!

 しかもすごく土地が広いし、複雑だし……


「おいサーラ、こっち!」


 顔を上げると、視線の先にはレヴィーから降りた私の弟。

 彼が事の発端である。いや、元凶というべきか。楽園からは出たくなかったけど、流石に弟が心配だし……。

 森の奥から、一人の男がすごい勢いで飛び出して来た。

 彼がゼロの師匠となるルカ師匠だ。魔導の師匠ではないらしいけど、身体捌きとかは参考になるだろう。魔術は……まあ、独学で高めるしかない。


「おお、貴様らか! ようこそ、我が島へッ! 我が貴様らに武術を教えるルカだ。まずは我が拠点へと行くぞ! ついて来い!」


 師匠、声がでかい。




「さて、まずは我が弟子について説明しようではないか」


 私たちはルカ師匠に広場のような場所まで連れて来られる。

 広場には一つの小屋のようなものがあった。その前で師匠から話を聞く。


「実は、我が現在指導しているのは貴様らだけではない。他にも一名、指導している者がいる。この島のどこかに居るはずだ」


「えっ! でも一人って少ねえな!」


 ゼロはそう言うけど、人数は少ない方がいいかも。

 あんまり人が多いと緊張しちゃうし。


「まずは奴を見つけ、我からの指導ルールを聞くが良い! 貴様らはこの家には立ち入り禁止だ! では行けっ!」


 それだけ告げて、師匠は小屋の中へ入って行ってしまった。

 なんかすごい突飛な人だなあ。ゼロとは波長が合いそうだけど。

 まずはもう一人の弟子さんを見つけないと。私たちの先輩に当たる。


「ゼロ、アタシは西側探すから。アンタは東ね」


「りょーかい! 見つけ次第ここに戻るってことで!」


 怖くない人だといいなあ……


 ~・~・~


 私は森林の中を進む。

 熱帯雨林ってやつだ。任務で訪れることがあったけど、あまりこの暑さは好きじゃない。べとべとしてて、なんだか気持ち悪い。

 熱帯雨林は生命体が最も進化に適している気候だと言われている。しかし、この龍島は少し特殊みたいだ。

 魔力を探りつつ周囲を観察してみる。邪気の濃度がかなり高く、生半可な生命ではすぐに命を侵食されてしまう。私たちは魔族だから、むしろ調子が良くなるんだけど……


「……っと、危ない」


 飛び出した魔物の攻撃を躱し、水刃で倒す。そこまで魔物は強くない……っていうか、一般的にはかなり強い分類に入るんだけど、私やゼロの敵ではない。ソレイユ大森林に匹敵する魔物の強さだ。


 ──『無垢は竜の頸を撥ねる』。古くから伝わる諺だ。好奇心に釣られて深く事を進めすぎると、小さなものに足を掬われて大変な目に遭うという意。

 好奇心に任せて先に進み過ぎないように。何があるのか分からないんだから。


 私の歩みが森の中腹……小高い丘のような地点に差し掛かった時、変化が訪れた。

 ガサリ、と茂みが動いた。私は咄嗟に反応し、その場から身をよじる。

 私がいた場所に、黒い刃が舞っていた。あと一瞬でも反応が遅れたら死んでいた。まあ死んでも生き返れるけど。


「え……?」


 艶やかな黒髪と、灰色の瞳。

 その斬撃を放った少女と目が合った。彼女は私を見るや否や、素っ頓狂な声を上げた。

 驚愕、困惑、焦燥。様々な感情が入り混じった声だ。

 人は時に、自らの感情を失うという。その現象を三十六世紀の思想哲学者、エイビージはこう例えている。


「『エスカルゴの混迷』」


 彼女は手を止めて、刃を下げた。

 そして私のフィロソフィーにこう答える。


「ええっと……その言葉の意味はたしか……あらゆる事象に紐付けられる、人間の感情。それは時として暴風雨に晒されては殻に籠り、世の中の世知辛さに晒されては融解する。けれど、その困難と思想混濁を乗り越えてこそ、エスカルゴのように甘美な感情が生まれるのだ。……今、私は魔物だと思って気配を斬ろうとしたけど、人だった。だから、まさに『エスカルゴの混迷』の途中の状態」


「うんうん。分かるよ、その気持ち。アタシはサーラ。あなたがルカ師匠のお弟子さん?」


「あ……うん。私はロキシア。その……ごめんなさい……この島に人がいるなんて思わなくて……」


 彼女は一気に内気になってしまった。

 私よりも臆病かも。ゼロとは相性が悪いタイプだよねー……。


「えっとね……アタシと弟は、ルカ師匠に師事することになったんだ。それで師匠に、まずはもう一人の弟子を見つけて、指導ルールを聞くように言われたの」


「そ、そうなんだ……でも、私は師匠の言ってること、よく理解してないから。何を説明すればいいのか分からないよ? 新しく弟子が来ることも説明されてなかったし……」


 あー……やっぱり、そんなことだろうと思った。

 あの人を師匠に選んだことを早々に後悔する。ゼロ置いて帰って、楽園に戻ろうかな。


「とりあえず、小屋のある広場まで行こう。そこで弟と待ち合わせしてるから」


「う、うん……」


 私たちは踵を返し、森の中を戻った。


「……あ、そうそう。言い忘れてた」


「……?」


 一番大事なこと。

 伝えないとね。


「よろしくね、ロキシア」


「う、うん……よろしく。サーラ……」

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