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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
醒章 アルス≠ホワイト
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β-4

 起床して一階に降りると、そこにはレーシャとルチカ。そして緑髪の男。


「おお、かわいそうな男タナン……」


「あん? ルス兄、どうかしたか? おはよ!」


「おはよう」


 今日は平日だから、マリーはとっくに仕事に行ってる。

 タナンはというと……


「えっ!? タナンが本を読んでる!?」


 彼の手に握られていたのは、一冊の本。

 文字が大きめに印刷された児童書だが、彼が本を読むなんて……


「おう、驚いたか! 俺もそろそろ理知的に行こうと思ってな?」


「タナンが理知的とか無理があるよね……」


「おいレシャ姉! それはねえだろ? 俺だって賢くなりたいんだ!」


 たしかに、タナンは頭の切れはいい。

 戦闘時には思わぬ機転を見せる。しかし、知識はすっからかんなのである。


「しかしまた、どうして教養を身に付けようと?」


「いや、ほら……一応俺って、龍神の息子だし。親父は嫌いだけど……育ててもらったのも事実だからよ。多少は神族としての威厳みたいな? 賢さみたいな? そういうので親孝行してやろうかなって」


 なるほど、そういえば彼は龍神の息子だったな。

 息子といっても、実際の血縁関係ではなくて、龍神が竜だったタナンに神族の魂を与えたのだ。


「それは感心だ。何か分からないことがあったら、僕やレーシャに聞いてくれ」


「おう! 頼らせてもらうぜ!」


 そして彼は再び本とにらめっこを再開した。いやあ、違和感がすごい。

 僕は朝食を食べながら、今日の予定を思案した。


「今日の予定は……ありません。レーシャは?」


「私は年中休みだよ。……また出かけるの?」


「そうだね……なんか、無性に行きたいところがあるんだけど」


 彼女はめんどくさそうに悩む……かと思いきや、意外と乗り気で。


「おお、じゃあそこに私も一緒に行こう」


「なんだか、今日のレーシャはアクティブだね」


「そうだね……うん。そうしないと……間に合わないからね……」


 彼女が何と言ったのかよく聞こえなかった。

 まあいいや。午後は出かけるとしよう。


    ーーーーーーーーーー


 霓天の丘。夏花のアキャリーとミエーネルが咲き誇る、無人の丘だ。

 そして……僕とレーシャが恋人になった場所。


 僕たちは花道を歩きながら、ゆったりと歩いていた。

 そよ風がレーシャの髪を揺らして、白銀の風のように見えた。


「懐かしいね……」


 彼女はそっと呟いた。

 ここは一生忘れられない、思い出の地になるのだろう。


「……一生って、いつまでだろう」


 僕はいつか死ぬのだろうか。

 何によって死ぬのか。レーシャを置いて行ってしまうのか。

 それはひどく怖い。


「ねえ、アルス君。明日は何をする予定?」


 ふと、レーシャが立ち止まって尋ねた。

 彼女は僕が捧げた首飾りを触りながら、揺れる花を見ている。


「明日か……明日は何をしようかな。レーシャは何をしたい?」


「私の予定は聞いてないよ。アルス君の予定を聞いているんだ」


「うーん……僕の存在は君ありきだからね。君がしたいことを言ってくれればいい」


 どうせ、僕は暇なんだし。

 役目なんてないし、守るものもレーシャだけ。



「私は……一緒に行けないからね。君が一人で、行かないと」


「……どういう意味?」


「ねえ、アルス君。孤独と一人は違うんだよ」


 花に向けられていた彼女の視線が、真っ直ぐ僕の瞳を捉えた。

 孤独と一人。何が違うのか、なぜそんな話題が出てくるのか。

 僕には分からない。


 だって、僕は孤独じゃない。一人でもない。

 今こうして愛すべき人が、そして友や家族がいてくれる。だから寂しくないし、不幸でもない。

 ずっとこうして、みんなで生きて……


「……このままで良いの?」


 彼女の瞳が潤む。

 どうして泣いているの?

 レーシャの瞳からとめどなく溢れ出す涙が花畑に落ちる。彼女の瞳に誘われるように、僕もあたたかい水を瞳から流してしまいそうだ。


「このまま……終わっちゃったらさ。私との約束も果たせないんだよ?」


「君との……約束」


 何を約束した?

 僕とレーシャは何を交わした?

 分からない。思い出せない。


 交わした約束はただ一つ。彼女を愛するということだけ。

 それだけ覚えていれば良い。


 だって、僕らはいつまでも共に── 



「必ず帰って来てくれるって……約束したでしょ!?」


「──!!」


 灰の砂漠がフラッシュバックする。

 これは、何だ?

 何なんだ?


 誰の記憶だ?

 いや、僕の記憶なのか?

 いつ、どこでこんな約束を交わした?



『レーシャ……愛している。いつまでも、ずっと……!』



 ──これは、僕の声なのか?

 記憶にない。ありえない。その在るはずもない記憶の中では、全てが滅んでいる。白き灰の中で、僕とレーシャだけが佇んでいて。

 まるで全てが滅んでしまったかのようで。

 記憶に、ないはずなのに……

 



「……やめろ」


 何も思い出すな。

 夢から醒めるな。

 このままでいい。このままでいいんだ。



『ラウンアクロード……お前を殺す』



 どうしようもなく昏い記憶が、呼び覚まされてしまう。

 ついぞ忘れることのできぬ、あの時の罪過が。背負った使命が。僕を縛り付けて離さない、因果の宿運が。

 辛く、苦しい日々がずっと続いていた。時には全ての使命を忘れて、逃げ出したくなる時があった。

 それでも立ち向かい続けた者がいる。アルスじゃない。彼は。

 僕は……




「……イージア」



 ──ああ、思い出してしまった。

 そうだ。これは……晴天の試練のように、存在しない過去に閉じ込められているんだ。幻想の世界。


「思い出してくれたんだね」


 目の前には、僕が約束を交わした少女がいる。

 愛おしくて、残酷な光景だ。



「僕は……約束した。仇を討って、君の下へ帰ると」


「うん。そうだよ。ずっと……ずっと、待ってるから」


 彼女はきっと、永遠に待ってくれている。

 二度と帰らない私を待って。


「レーシャ。私の今までの旅路を……君に話したいんだが。生憎、そんな暇はないみたいだ」


 現実では、私の魂に潜んでいた……《Xuge》が暴れている。

 晴天の試練では、災厄アルスは世界を滅ぼしてしまっていた。

 だが、今ならまだ間に合う。


「ふふ……お話なら、また会った時にたくさんしよう? 大丈夫だよ、君は強い子だから。私がいなくて、寂しくても。きっと、いっぱいの友達に囲まれてるでしょ?」


「ああ、そうだな。友達ができたんだ。無口な大男、サーラライト族の姫と従者、酒のみの中年、魔族の二人の子、そして……少し生意気な……」


 レア。君も苦しんでいるみたいだ。

 私が今、助けに行く。


「よかった。それじゃあ、行ってらっしゃいをしないと」


「……この世界はきっと、私が勝手に作ったものなのだろう。それでも、楽しかった。嬉しかった。皆の言葉が、心の支えになった。だから……さようならだ」




 もう振り返れない。振り返らない。

 アルスの過去は、これでおしまいだ。

 これからは……イージアとして、未来を生きよう。



「行ってきます……いや。さようなら」



 このレーシャは、私が帰ると約束したレーシャではない。幻想だ。

 だから、もう会わない。



「うん、さようなら……!」



 ──世界が、崩壊してゆく。

 最後まで私は、彼女の姿を目に焼き付けた。





 私は、アルス・ホワイトであった。

 そして、今を生きるのはイージア。




「アルス……私の未来を、返してもらおう」

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