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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
醒章 アルス≠ホワイト
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β-2

 夕刻、テントへと戻る。

 マリーとルチカは既に夕食の準備を始めていた。


「やっぱりキャンプといえば煮込みだよね。あとバーベキューは僕に任せろ」


 ぐつぐつと鍋の中で食材を煮ている。

 余った具材は僕の炎魔術でこんがり焼いてやろう。炎魔術によるバーベキューは、実はかなりの精度が必要なのだ。この為だけに練習した。


「うわ……トマト……」


 マリーが具材の袋から赤い植物のパックを取り出して、苦い顔をした。

 僕の苦手な食べ物であり、マリーの苦手な食べ物でもある。


「誰だ、トマトを入れたヤツは……僕が消し炭にしてやる」


「食べ物を粗末にしないの。トマトを入れたのは私だよ。アルス君とマリーちゃんの苦手を矯正してあげようと思ってね」


 そういうのをお節介というんだ。畜生レーシャ。

 でも、レーシャの厚意を蔑ろにする訳にも……


「ぬぬぬ……」


 僕が頭を抱え、マリーが目を背けていると、ルチカが助け舟を出してくれた。


「では、トマトも一緒に煮込んでしまうのはどうでしょう? たしかご主人様も、お嬢様もトマトスープならば大丈夫だったはずです」


「……! 流石ルチカさん、天才です!」


 マリーがここぞとばかりに顔を上げる。

 しかし、レーシャは納得いかないというように頬を膨らませた。


「でもさ……それじゃあ苦手の矯正にはならないよね」


「ぐ……分かった、レーシャ。僕はトマトをそのまま食べるぞ」


 犠牲になるのは僕だけでいいのだ。マリーをトマトの餌食にするわけにはいかない。

 トマトのヘイトをこちらに逸らしてみせる。


「おお……! アルス君、漢気あるね。よし、挑戦してみよう!」


 赤色の悪魔が近付いてくる。

 レーシャの手にぶら下がった悪魔が、僕の口に放り込まれた。味覚を遮断することもできるが、そんなことをしたらレーシャにばれる。


「くっ……!」


 すっぱい。びちゃびちゃして、食感が気持ち悪い。

 皮の固さが絶妙に気持ち悪い。


「ぐ……ああっ!」


「お兄ちゃん!?」


 ──耐え切った。

 災厄トマトを撃破したぞ!

 今頃ヤツは腹の中で溶かされつつある。


「ど、どうだ……」


「アルス君、やっぱり君はすごいね。そこまで魔力を暴発させながらトマトを飲み込むなんて……」


 流石にレーシャも僕のチャレンジ精神には度肝を抜かれたようだ。

 そして、苦難を乗り越えた僕を労わってくれた。


「……ところで、レーシャには嫌いな食べ物とかないの?」


「……!?」


 彼女は質問に答えず、そっぽ向いた。

 次なる目標はレーシャの嫌いな食べ物を探ることだな……


    ーーーーーーーーーー


 夜。テントからそっと抜け出して、空を見上げる。

 綺麗な夜闇だ。星々が煌々と煌めいて、僕を見下ろしていた。

 今は青孔雀星と、白桜花星が見える季節だ。一際強い光を放つ二星が、堂々と世界を照らし出している。


「綺麗だな……」


 この世界(アテルトキア)は、とても美しい。

 美しくも、時に儚い。災厄に一瞬で消されてしまったりするし、魔物が自然を消し去ってしまう時もある。

 ──災厄によって世界が消されたらどうなるのだろう?

 新しくアテルが世界を創るのか、それともそのまま無が広がったままなのか。

 僕らが紡いできた歴史が、一瞬にして消えてしまう。そう考えると、とても恐ろしくなる。


「お兄ちゃん……テントから消えたと思ったら、こんなところにいたんだ」


 後ろから声がかかった。

 マリーの瞳が暗闇の中で光っている。


「マリー。夜更かしはよくないよ」


「その言葉、そっくり返したいんですけど……」


「僕は君みたいに忙しくないからね。時々バトルパフォーマンスの仕事をするくらいで、後は暇だから……疲れてないんだよ」


 騎士は激務だ。地位が上がるほど、激務とは縁遠くなっていくらしいが。

 その点、バトルパフォーマーは良い。だらだらできるし。

 次の試合は……明後日だった。試合というか、次は人口ダンジョン攻略だったな。


「お兄ちゃんって、生きてて楽しそうですよね」


「まあ、レーシャという恋人がいるからね。マリーも恋人作ってみたら? 僕より強い人じゃないと彼氏として認めないけど」


「……それ、ほとんど該当する人いませんよね」


 まだマリーに色恋は早い。

 僕が絶対妨害する。毒兄になる覚悟はできている。


「生きるって、大変なことだよ。生きてるだけでも偉い。幸せに生きるのは至難の業だ。つまり僕は人生のプロフェッショナルなんだ」


「何言ってるんですか?」


「なんかさ、こうして生きてることが嘘みたいだって……たまにそう思うんだ。家族と、恋人と幸せに生きる権利が僕にあるんだろうかって。僕には他にやるべきことがあるんじゃないかって思うんだよ」


 自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。

 なんだか、今朝から僕の心はずっと変だ。靄がかかってるみたいに。


「そんなことないですよ。やるべきことがあったとしても……幸せになる権利は誰にでもあります。私も……お母さんとお父さんの仇を討つという目標があるけど。今はこうして、幸せですから。目的の過程で幸せになってもいいんです」


「そうだよね」


 当たり前のことを彼女は言っているのに、僕は不思議と彼女の言葉で気が楽になった。誰だって幸せになる権利はある……か。


「マリーはさ……僕と一緒にいて幸せ?」


「何メンヘラみたいなこと言ってるんですか……もちろん、幸せですよ。ずっと、こうして一緒に家族として過ごしたいです。でもタナンはうるさいので、たまに一緒にいるくらいがいいです」


 タナンかわいそう。今度一緒に修行してあげよう。

 でも、お兄ちゃんと一緒にいると不快になるとか言われなくてよかった。

 僕は……マリーを幸せにできていたんだな。


「できていた……ってなんだ?」


 ふと、自分の思考に疑問が生じる。まるで過去の話みたいじゃないか。

 僕はこれからもマリーと生きていく。幸せにしていかなくちゃならない。


「あと、お兄ちゃん。言い忘れてたんですけど……」


 視界を夜空からマリーに移す。

 僕と同じ色を持つ、彼女の瞳と目が合った。


 彼女は少し笑って、


「……いつもありがとう。私、お兄ちゃんのことが大好きです」


「────」


 突然の感謝に、思わず言葉がつっかえてしまった。

 そんな正直に言われても……いつもの反抗的なマリーはどこいった。


「たぶん、ここでしか伝えられないから……今の内に伝えておくね。それじゃあ、おやすみなさい」


 そう言って彼女はテントの中へ戻って行った。

 僕はただ、じっと彼女の姿が見えなくなるまで。そこに立ち尽くしていた。

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