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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
醒章 アルス≠ホワイト
265/581

α-1

挿絵(By みてみん)



 ……ここは、何処だ。

 何もかもがおぼろげで。自分が何をしていたのかも思い出せない。


「もう、いや……! 誰か、誰かアルスを助けて……! 私じゃ、私じゃ何も……」

『今、混沌の勝利を告げる。愚かなる災厄の御子、共鳴者を排除。世界は我が下に巡る……』


 ──誰の声だろう。

 懐かしくて、とても胸が痛い。

 僕は何者だ。僕は何だった。


 ざらついた感触が、僕のどこかに触れた。

 これも懐かしくて、嫌になる。何も見えないのに、思い出せてしまった。


「灰、の……」


 精神世界。灰の砂漠。幼少期、ずっとアテルと過ごしていた筈の場所。

 ……ああ、アテルか。創世主、忌まわしき存在。

 僕は、ロールを庇って……それで、創世主に殺されて……殺されたはずなのに。どうしてこんな場所にいるのか。手足は動かない。視界も動かせない。ただ灰のホログラムが明滅している。


 ──何かが、近付いてくる。


「誰か……いるのか……?」


 僕の問いは、もはや声にすらなっていない嗚咽だった。

 命の灯は今にも消えてしまいそうで。


『あの、大丈夫?』


 躊躇いながら僕に語り掛ける声があった。

 ……それは無垢なる声色で、どこか怯えていた。懐かしい……昔の僕の声だった。


 そうか、ここは──過去なのかな。夢なのかな。

 今話しかけてきたのは、僕自身だ。ずっと昔、アテルに閉じ込められていた世界の僕だ。きっと彼は迷わずに僕へ手を伸ばそうとしてくれるだろう。


 思い出すと、憎悪で魂が焦がされそうになる。そう、創世主(アテル)が僕の全てを奪っていった。


「ああ……やっぱり、来てくれた。懐かしい、声だなぁ……」


 ロールはどうなったのか。なぜ僕が過去の精神世界に居るのか。

 もう、考えている時間はないみたいだ。魂は消えてゆく。


「手を……出してくれ」


 せめて、僕の想いを託そう。

 届くかは分からないけれど。


 暖かい。

 昔の僕は、とても暖かかった。

 僕が失った温もりを持っていた。

 僕の魂が、彼の中に流れ込んだ。ごめんね。


『僕がついているから……安心してね。すぐにアテルに見てもらって怪我を……』


 ──どうして君はそんなに暖かいのかな。

 僕は、こんな末路を迎えたかった訳じゃない。

 ただ、幸せになりたかったのに。


「いいや……もう、いいんだ。それよりも……君は、為すべきことを……為せ。どうか、君は……」


 ……ああ、憎い。


    **********


 分かっている。

 僕は憎悪の塊だ。もはや人でも、神でもない。

 ただの怨霊なのだろう。


 それでも、僕はイージアとなった彼の中で生き続けた。

 騎士の道を歩んだ僕とは違う。このアルスは、幸せだった。家族と触れて、友と楽しく過ごして、使命を背負いながらも愛に満ちていた。

 リンヴァルス帝国、始祖。彼女がロールだと気が付いても、魂の奥底に眠る僕は知らせる術を持たなかった。それでもいい。彼にはレーシャという恋人がいたから。


 彼は幸せだったから。それでよかったのに。


「ラウンアクロード……お前を殺す」


 彼もまた、世界を滅ぼされて憎悪に呑まれてしまった。

 そして、彼は『イージア』となった。果てに再び創世主に屠られ、死を迎える。


 ──何が悪い? 何がいけない?

 どうして僕たち『アルス』は、こんな運命を辿らなければならない?

 そうだ。全ては、僕らに運命を科した存在が悪い。


 どんなアルスのXuge(もうひとり)でも、最期に待つのは滅びだけ。不幸だけ。

 なぜ僕らは幸せになれない。許されない。

 生まれたことが間違いだとでも言うのだろうか。


 僕は、一人の少年として……人間として生きたかった。

 共鳴も、神の魂も必要なかった。ただ幸せが欲しかった。

 だから、僕は──戦う。



 イージア。君はよく頑張った。

 後は、僕に任せてくれ。おやすみなさい。





 憎悪。僕は因果を憎んだ。


 絶望。僕は救われぬ世に絶望した。


 悲哀。僕は彼女との離別を悲しんだ。


 激情。僕の奴への怒りがココロを呑んだ。


 失望。僕がどれだけ歩けども、希望は見つからなかった。


 哀惜。僕のせいで無数の人が死んでいった。


 敗北。僕は敗北を重ね続けてなお、敗北する。


 幻滅。僕は蒙昧なる人に幻滅した。


 失意。僕は灰の中で、失意に打ちひしがれた。


 哀情。僕は彼女を忘れてしまっていた事に哀情を催した。


 喪失。僕は全てを喪って、自分をも失った。


 憂鬱。僕は心を押し殺すことに憂鬱を感じた。


 悲痛。僕の魂が悲痛なる叫び声を上げていた。


 嫌厭。僕は自分を蛇蝎の如く嫌厭した。


 暗愁。私の心に暗愁が翳った。


 忌諱。私は心の内で、白灰を忌諱していた。


 憤怒。されど、私は其に激しい殺意を覚えた。


 執念。故に、私は全ての其を殺す事にした。


 ──憎悪。彼女の愛を奪った其を、私は殺す。この憎悪に誓って。


    **********


 アテルに裁かれ、灰となって消えるイージア。

 彼の下に、レアは駆け寄る。


「待って! 私を置いて行かないで! どうして、あなたはそうやって……私を!」


『──汝、秩序の因果を宿す者。特定、災厄の御子』


 創世主(アテル)はレアの姿を観測し、彼女が災厄の御子であると断定する。

 レアに未練はなかった。守り抜こうと決めたイージアは死した。

 もはや彼女にとってラウンアクロードも、災厄の御子としての使命も、どうでもいい。


「……殺せ」


 彼女はただそれだけを呟いた。

 私を殺せと、そう願うまでもないだろう。

 アテルは茨を彼女へと飛ばし──


 刹那。

 世界は再び激震する。


「……え?」


 レアの上げた驚愕の声。

 それは他の神々の驚愕に消し去られる。


「なんだ、何が起こっている……!?」

「アテル、説明するんだ!」


 世界に再び秩序の因果が満ちる。

 先のラズアースの比ではない。まさしく世界を崩壊させんばかりの、創世主にすら匹敵する力が──


「……約束したんだ。ロール、君は……僕が守る」


 アテルの一撃を、死した筈のイージアが防いでいた。

 いや、イージアではない。彼の風貌はまるで──


「アル、ス……?」


 レアの言葉に彼は頷き、周囲一帯の神々を吹き飛ばす。

 創世主の茨もまた弾き返され、彼はただ其処に立つ。


 異様な彼の力に、創造神は問う。


「君は……イージア、なのか?」


「彼は死んだ。僕の名は、アルス。創世主を殺す者……災厄アルス」


 アテルは黙して彼を眺める。

 創世主の力が跳ね除けられている。絶対的な力を持つ創世の力を以てしても、消し炭にできない存在。

 盤上の駒が、まさしく人へ変貌したかのようだ。


「『反共鳴(アンチ・トキア)』……『魔術改編(マカ・ラズアース)』」


 共鳴の力は秩序に染まり。

 周囲に乱されていたラズアースの力は彼の身に吸収され。


「アテルトキア……お前を殺す」


 憎悪の化身、アルス。

 今、此処に新たな災厄が誕生した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幼少期の伏線の回収ですね。200話ぐらいって書いてたので楽しみにしてました笑笑
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