248. これからも共に
アリスの目覚めを待つ間、一行はサーラライトの国に再び滞在することになった。
レヴィーもまた壊れてしまったので修理を行わなければならない。
「……『黎触の団』では、【ラウンアクロード】の存在を世界の守護者だと定義していたわ」
「世界の守護者? いや、ラウンアクロードは世界を滅ぼそうとする存在で……真逆だよ」
フェルンネから聞かされた情報は耳を疑うようなものだった。
イージアはここまでに至る流れを大まかにフェルンネに話した。そして元『黎触の団』であるフェルンネにラウンアクロードのことを尋ねてみたのだが……
「ラウンアクロードは災厄……君が語ったフラムトアと同質の存在だ。奴もまた時間を遡る力を持っている。無論、フラムトアのそれとは違うものだと思うが」
「残念だけれど、それしか知らないわ。王様もラウンアクロードという単語は概念的に使っていたし……力になれなくてごめんなさい」
浮かない表情のフェルンネを気遣い、イージアは席を立つ。
また振り出しだ。だが、今はそれで良い。
仲間と友を守り抜いたことにこそ意味があるのだから。
「別にいいさ。さて、今日もレヴィーを直しに行こう。君も来てくれるか? できれば力を借りたいんだ」
「……ええ」
敵対する筈だった自分が、創造神の使い達に協力している。フェルンネはどこか後ろめたさを感じながらも、イージアの期待に応えようと足を運んだ。
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数日後。
「お姉さま! 見て!」
「あら……これは何ですか?」
シレーネから手渡された紙の模型を手に取り、アリスは首を傾げる。
平たい錐状の紙の塊だ。
「おーおー!」
「……おーおー? ああ、ナリア様のアーティファクトですね。よく形を捉えています。シレーネにはものを作る才能がありますね!」
「ほんと!? じゃあ、ナリアさまに見せてくる!」
そう言ってシレーネは駆け出して行った。
溌剌な妹にアリスは振り回されながらも、楽しい時間を過ごしていた。
姉妹の様子を遠巻きに見ていたイージア。その場に残されたアリスは、傍のリグスと何かを話し合っている。会話の中に結界という言葉が混じっている。
恐らく、今後のサーラライト国に関して話し合っているのだろう。今はまだ結界は取り払っていない。
『黎触の団』に破壊された後にアリスが再展開し、どのようなペースで解除していくのか検討している状況だ。時間は二百年もある。ゆっくり解除し、徐々に間口を広げていけばいいだろう。
しかしイージアは、ある一点を懸念していた。
「アリス、本当に良かったのか? あの契約内容で」
もしも二百年以内に結界が全て消滅できなかった場合。
アリスは自らの魂を以て、代償を支払う契約を交わした。具体的な契約内容は、契約を交わした両者にしか分からない。しかし、魂を賭した契約は危険を伴うことが多い。
萌神がそこまで悪辣な契約を迫るとは思えないが……
「はい。私が決めたことです」
「そうか」
自分で良いと言うのならば、もはや何も言うまい。
当然のように神剣ライルハウトを扱うイージアとは違い、アリスは立派に契約を交わした。仲間としてその気概を汲んでやらねばならない。
「おい、イージア。お前はレヴィーの修理に行かなくて良いのか?」
「ん……ああ。私に出来ることは全てした。そろそろ様子を見に行ってみるか」
ロンドが盛大にぶっ壊したリアクターと、イージアが風魔術で盛大に吹き飛ばした諸機関。
それを修理する負担はナリアが請け負うことになる。全力で戦ったことに後悔はしていないものの、仕事を増やしてしまったことには引け目を感じている。
逐次、レヴィーの様子を見に行くのが義理というものだろう。
レヴィーへ到着したイージア。
中央の制御室にはシレーネに纏わりつかれるナリアの姿があった。どうにも彼女はシレーネに懐かれているようだった。
明らかに苛立っている様子を見て、イージアは今は近づかない方が良いだろうと判断。右折して別の部屋へ向かった。
「あ、イージア!」
庭園ではゼロが忙しなく荷物を運んでいた。
サーラが『荷物を運ぶのも修行の内だよ』と唆すと、彼は息巻いて荷運びに取り掛かり始めたのだ。
「誰……って思ったけど、イージアなんだよね。何か仮面がないと違和感ありありだなあ……」
サーラが困った様にイージアの顔を見つめる。
たしかに、イージア自身も仮面を被っていないと落ち着かない。自らの記憶を頼りに、仮面を身体の一部として復元できるが……今は必要ない。
「大勢の人前に出る時は、仮面を被ろうと思う。ただ……君たちの前ではもう必要ないかな」
「おっ! なんだ、イージア! 結構素直になってくれるじゃねえか!」
「ゼロ! そう言うこというと、またイージアが仮面つけちゃうでしょ?」
サーラの言う通りだ。
あまりからかわれてしまうと、イージアは再び仮面を被ってしまう。それすらも見透かされているようで、彼はなんだか恥ずかしい思いをした。
「……私も荷運びを手伝おう」
「あ! 照れ隠しってヤツだな!?」
「ゼロ! だから……」
直後、イージアは記憶を頼りに仮面を神気で構成して復元。
再び被った。
「あ、おい? 冗談だって! なあ、イージア!」
「あーあ……」
ーーーーーーーーーー
レヴィーの試運転が完了した。
問題なく飛べるようだ。一行は荷物を纏めて、長らく滞在したこの地を去ることになった。
「この度はお世話になった。貴殿らは我が国の恩人。困ったことがあれば何なりと頼ってくれ」
国王から謝辞を受け取り、一行は次々にレヴィーへ乗り込んだ。
「アリス。どうか自分の身は大事にするのですよ」
「はい。また戻ります。お母様も、お父様も……それからシレーネも。どうかお元気で」
「お姉さま……もう行っちゃうの?」
シレーネは姉の出立に、寂しそうな表情を浮かべる。
アリスは妹の頭を優しく撫でて、柔らかい声で言った。
「私は、大切なお仕事があるのです。シレーネもいい子にしているんですよ」
「うん……」
最初、アリスはシレーネに嫉妬して国を飛び出したのだった。
妹が『選ばれた存在』であることを知り……衝動的に飛び出した。自分が不要な王族だと突きつけられたような気がして。
今では馬鹿らしいと思っているが、後悔はしていない。なぜなら、外の世界を知り、頼もしい仲間たちと出会えたから。
「アリス。そろそろ行くぞ」
ダイリードから声がかかる。
そろそろ行かなくてはならない。
「……行って参ります」
彼女は振り返ることなく、その場を去った。
隣には相変わらず頼れる従者が居る。本当に、どこまでも付いてきそうな従者だ。
「リグス。私の選択は……正しかったのでしょうか?」
「はい、もちろんです……と言いたいところですが。それはこれからの未来で、アリス様自身が決めることでしょう」
「──そうですね。私はきっと、正しい道を歩みます。ついて来てくれますよね?」
「言うまでもありませんよ」
サーラライトの主従は未来へ歩み続ける。
それぞれの信念を背負って。
11章完結です




