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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
11章 終わりを告げる時
256/581

245. 悪霊の目覚め

「絶対渦巻爆裂剣!」


 ゼロとサーラの合わせ技が炸裂し、女王の駒が渦に呑まれる。

 高い水のカーテンが上がり、駒が砕かれる。


「ふむ……潮時か」


 遥か彼方で、強大な黎の力が爆発した。

 『黎触の矢』ムスカはそれを察知し、退却の準備を始める。

 巻き上がる水に身を隠し、森の中へ中へと。


「って……あれ? ジリーマは?」


「あー……もしかして逃げられた?」


 二人が気が付いた時には、既に彼の影はなかった。

 暗黒の、更なる暗黒にて。闇は蠢き続ける。


                               ----------


 自身の存在すらも概念と化し、『黎触の試練・再編』となったムロク。

 黎の力を孕んだ雨風が吹き荒れ、周囲一帯の生命を蝕んで行く。


「この雨は……触れてはいけません!」


「アリス様、早く屋内へ避難を!」


 『黎触の試練』では、黒き水が世界を蝕み、多くの命を死に至らしめた。今まさに同じ惨劇が巻き起ころうとしているのだった。


神聖の波動(ナーガ)!」


 イージアは自身の魂から神気を引き出し、雨風を吹き飛ばす。しかし、焼け石に水。国全体を覆う暗黒に抗うことはできない。

 彼の身体を次第に邪気が侵食する。雨粒が彼の身を叩く度に、魂に針が刺さるような感覚が走る。


「イージア、とりあえず避難しましょう。そこの二人も」


 フェルンネは防護壁を展開して三人を守る。この国全てを覆い隠す闇を晴らすのは至難の業だ。

 あまりに範囲が大きすぎる。常人離れした魔力を持つ彼女でさえも、どうにかできる問題ではなかった。


『逃げ惑え……そして絶望せよ。どこへ逃げようとも、命は助からん……』


 天から憎悪に満ちた声が響く。

 もはや滅亡をひたすらに渇望するムロクは、意思を失いつつあった。


「この国は……王女の私が護らないと」


 アリスは退避しながらも、現状を打破する策を考え続けていた。


                             ----------


 時は少し遡る。

 ナリアは『黎触の衣』ジュッケを撃破し、遺跡の中へと歩みを進めた。

 この国に滞在している間、遺跡に眠る【悪霊】の情報を探し続けた。しかし、これといって決定的な情報は見当たらず、推論に頼るしかない。


 彼女は深部にある石板に触れる。

 そして、石板の奥深くに眠る『何か』に働きかける。分解の能力を行使し、その『何か』を石板から引き剥がそうと魔力を籠め……


『い、痛い痛いっ……! やめてください!』


「……お前は萌神か?」


『ああ……はい。萌神に何かご用ですか?』


 予想通り、萌神の魂がここには眠っていた。萌神は死したが、戦神と同じように魂をこの世界に残して眠りについているのだった。

 どうしても、ここに眠る存在が萌神以外に思いつかなかった。数多の文献を調べたが、この大霊の森に入り込んだ者の中で、精神体となれそうなのは萌神くらいなものだ。


「なぜここに眠っている?」


『ええ……? なぜ、と言われましても。試練を与える為でしょうか?』


「試練……」


 どうにもナリアは事情を把握していないようだった。実際、萌神と深く関わるサーラライト族でさえも、萌神の意図について与り知らないのだ。

 なぜサーラライト族を守る萌神が、【悪霊】と呼ばれるに至ったのか。なぜ試練を与えているのか。


『説明めんどくさいです……』


「いいから教えろ。今、外が危機に陥ってるんだ」


『萌神が力を授けて、この森の周囲に結界を巡らせたことは知ってます?』


「ああ。かつての『黎触の試練』の際……『黎触の団』による迫害から逃れるためにな」


 萌神が力なきサーラライト族に加護を贈与(リンヴ)したことが引き金となって、『黎触の団』はサーラライト族を深く憎悪することにもなってしまったのだが。


『でも、神族からの受贈(リンヴル)には代償が伴いますよね。私の結界は長きにわたり国を守りますから……代償として、定期的に試練を課すことにしたんです。こっそり農作物を盗むような小さな試練から、大災害を引き起こす大きな試練まで……』


「だから悪霊とか呼ばれているのだな。ちなみに、その事実をサーラライト族には伝えてるのか?」


『いえいえ。教えたら試練の意味がないじゃないですか』


「はあ……」


 道理で文献が無いわけだ。萌神がここに眠っているということも教えなかったのだろう。

 しかし、ある意味では合理的な措置かもしれない。神族の力を受贈(リンヴル)し続けるとなると、相当な代償が必要だ。

 超常現象として代償を処理してしまえば、神々に不満が募ることもない。


『で、お外は今どうなってるんです?』


「結界が破られ、サーラライト族を迫害した一族が攻め入って来た」


『あらまあ……』


 他人事のように驚く萌神。実際、人間の争いには介入してはいけないというのが神々の約定なので他人事と言えよう。

 ただし、『黎触の団』は秩序の因果による黎の力を司るので、創世主から特例的に介入が認められたのだ。


『萌神的には、試練を起こすのも飽きたので……結界はもう一度張りたくないんですよね。どうしましょう……』


「私に聞かれても困るが……そうだな。サーラライト族の王族に聞いてみればどうだ」


『そうしましょう、そうしましょう。でも……あなたが話し合いの仲介人になって、結界を撤廃する方向に誘導してくれると助かるんですけど』


「それならば、結界の撤廃に肯定的な姫を知っているぞ。アイツの下に行こうではないか」


 ナリアは分解の権能を行使し、萌神の魂を石板から引き剥がす。

 萌神が痛いと悲鳴を上げているが、無視して一気に剥がした。


『き、鬼畜幼女……』


「幼女じゃない!」


 ナリアは萌神の魂を乱暴に掴み、遺跡の外へ出て行った。


                            ----------


『……あ。萌神の腕があっちにあります』


「は?」


 萌神の魂が西方を示す。


『私が昔贈与(リンヴ)したやつ……なんて言いましたっけ。結界を張る礎になった槍なんですけど』


「『春霞』か。件の姫が持っている。錆び付いてまともに使えないらしいが」


『ああ、それです。わざと腐るように細工を施しといたんですよ。また結界張るのめんどくさいので』


 ナチュラルに畜生だ。ナリアはそんな印象を萌神に抱きつつも、口には出さない。

 神族というのは大体クズである。龍神も人間の女性にフラれて、大層暴れ回ったことがあるのだ。まともな神族は天神くらいだろう。


「む……雨、か?」


 水滴が彼女の顔に当たった。

 その水に触れた瞬間、呪術を受けた時に近い不快感を感じる。

 よく見ると雨は黒い。一瞬晴れたかのように思われた暗黒の空が、再び戻ったようだ。


『あれあれ……これ、『黎触の試練』と酷似した光景ですね。あの時ほど規模は大きくないですけど……『黎触の試練』は世界中を覆い尽くしましたからねー』


 何かが中央部で起こっている。

 急がねばならないとナリアは直感した。


「オーオー、急ぐぞ」


 懐からアーティファクトを取り出し、搭乗する。

 次第に雨脚は激しくなっていく。暗黒の雨を弾きながら疾走する。


『わー……なんですかこれ。これに憑依してもいいですか?』


「……絶対嫌だ。やめろ。おい、聞いてるのか」


 もしもオーオーに憑依されたら容赦なく引き剥がそう。

 ナリアはそう決意しながらアリスの下へ向かった。

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