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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
11章 終わりを告げる時
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244. 調律共振

 漆黒と紫紺の雷を纏い、黎竜が猛る。

 迸る雷撃をフェルンネは正面から捉え、魔術結界により反射。同時、ムロクの大剣が側面から迫る。

 秩序茨インディを地に打ち立て、地面から黒の触手を伸ばす。触手は大剣と衝突する。


「彗嵐の撃、『翔鷹』!」


 インディと相克していたムロクの下に、青き斬撃が飛来する。


「ぬうっ……!?」


 反射的に彼は斬撃を回避し、黎竜の裏に飛び退く。黎の力が破られ、大剣が欠落。

 ──この【青】は黎の力の天敵であると、ムロクの本能がそう告げた。


「……イージア。ロンドは対処できたようね」


 どうやら無事にレヴィーの戦力を片付けて来たらしい。


「君が『黎触の王』、ムロクか」


 駆けつけたイージアの質問に答えることなく、ムロクは黎竜に命を下す。


「滅せよ、ゲミノルム」


 咆哮が響き渡る。

 イージア目掛けて黎竜はその身を滑らせた。地上に走る雷の様に速く、鋭い突進。彼に迫った雷電は受け流され、勢いのままに周囲に破滅を振り撒く。

 黒雷が石畳を砕き、紫電が木々を焼き尽くす。


 ムロクは戦いの手を止めることなく、イージア目掛けて大剣を振り被った。万象を両断する黎の斬撃が地に走る。


「『虚構』」


 フェルンネは斬撃の前へと飛び出し、自分とイージアの存在を遮断。災厄フラムトアの次元歪曲を利用した展開魔術だ。守られたイージアは、自身が時空の歪曲に包まれる感覚を味わい、不可思議な気分に酔う。発現中途の神能による平衡感覚の狂いもあり、意識を失いかけた。


「……大丈夫?」


「っ……大丈夫だ。戦えるさ……」


 次第に感覚が狂ってきている。神転しても消えない感覚の狂いが、彼を苦境に立たせているのだ。

 再び黎竜の力が収縮し、一気に放たれる。


「ファローリィ」


 光の壁がブレスを防ぐ。イージアの不調を気遣ってか、フェルンネは再び空間を歪ませて攻撃を防がなかった。

 黎竜とフェルンネの力が衝突する最中、ムロクは力をひたすらに蓄積させていた。暗黒が次々に彼へと纏わり付き、かつてないほどの黎の力が集結する。


 黎竜のブレスが弾かれる。紫電が周囲一帯に放出され、その場に居た全員の視界が揺らぐ。

 ここが好機。ムロクは集結させた力を大剣に宿し、本能のままに解き放った。


「終わりだ、賢者よ! はぁあああっ!」


 音が消える。絶対的な質量を持つ衝撃が爆発し、世界に暗黒の光が満ちる。

 迫り来る爆発の中、イージアの視界はコマ送りのように遅い光景にあった。あの攻撃は青霧を纏えば防ぐ事ができる。しかし、フェルンネは守れない。

 同時、フェルンネもまた考える。次元を歪曲させ、『虚構』によって次元の断層にイージアを取り込めば、攻撃を防ぐ事ができる。しかし……もう一度イージアを虚構へ呑めば、彼の負担は測り知れないほど大きなものとなるだろう。フェルンネは術者本人の為そこまで負担がかからないが、他者を巻き込む場合は他者の負担がかなり大きい。


「……?」


 ふと、イージアは違和感を覚える。

 感覚の狂いが消えていた。いや、未だに中空を漂うかの様な揺らぎは消えていない。迫る黒き破滅を前にして、彼の頭は冴え渡ってゆく。


 自己。

 他者。

 波長。


 周囲への知覚と、自身の自覚。二つの見えざる感覚が極限まで冴え渡り、重なる。


(何だ、これは……?)


 自らの魂が俯瞰して見えた。同時に、隣り合う者……フェルンネの魂が見える。

 真っ白な空間の中に、ぽつりと二つの魂が浮かんでいる。その位相が徐々に近づいていき、互いに触れ合った。

 刹那、彼は自身の身に起こった事象を完全に理解する。『接続』の神能が、今まさに開花しようとしている。後は、自らの意思で花を咲かせるのみ。


「この苦境、乗り越える……!」


 自らの魂に、誰かの魂を重ねて。

 意思と、希望を一つに。

 共に乗り越えようとする仲間だからこそ……力を束ねられる。


「──『調律共振』」


 青き光が爆ぜた。


                               ----------


 フェルンネは咄嗟の判断を迫られる。

 迫る黒き光を如何にして防ぐか。攻撃を防いだ直後も、ムロクと黎竜の追撃へ備えねばならない。それを考えると……


「──『調律共振』」


 刹那、彼女は奇妙な感覚に包まれる。

 自分を何かが守っている。温かい感覚だ。


「これは……」


 彼女の身に、青い霧が宿っていた。イージアが扱っていたものだ。

 彼は立ち上がり、フェルンネの前に立つ。


 ──心配はいらない。全力で迎え撃とう。

 たしかに、イージアの心がフェルンネの精神に響いた。調子の悪そうだった彼の面影は既になく、毅然として立ち向かおうとしている。


「……ええ」


 答えねばならない。

 彼女は躊躇うことなく時空を捻じ曲げる。青き霧が時間の概念を消し去り、彼女は空間の調整のみに集中することができる。これまでにないほど、正確で反動の少ない虚構を生み出すことができた。


「イージア! 空間が戻ったらすぐにムロクをお願い!」


 分かった……その返事すらもイージアは言葉にすることなく、当然のように彼女の精神に呼びかけた。

 歪曲が正される。同時、二人は衝撃から飛び出した。爆風が吹き荒れる中、互いの身は青霧によって守られていた。


「……!?」


 ムロクもまた、攻撃が防がれてから追撃を加えようと画策していた。

 その矢先、イージアが眼前に迫っていた。あまりに反撃が早すぎる。まだ視界も明瞭ではなく、攻撃の余波を防ぐのに精一杯なはず。


「貴様、何故……」


「『青霧覆滅』!」


 避け切れる筈もない。黎竜もまたフェルンネに不意を突かれ、動けない。

 迫る青き霧を前に、ムロクは大剣を構える暇もなく。ただ黎の力を滾らせるのみだった。


「ぬ……おおおおおッ!」


 黎の力と、青霧の力。

 両者が衝突すれば、勝つのは青霧。それはとうに分かり切っていた事。


 それでもなおムロクが目を背けなかったのは、死を受け入れなかったのは……彼の王としての信念が尋常ならざるものであったからなのだろう。

 鮮やかな、空よりも少し深い青に呑まれながら。


「俺は……俺は……ッ!」


 彼は信念を曲げず、ただ力を放ち続けた。


                                      ----------


 ムロクの身が吹き飛ばされ、同時に黎竜もフェルンネの魔術により霧散する。

 天を覆う暗黒が吹き飛ばされ、晴天が取り戻される。


 同時に、イージアは『接続』の神能を解除。未だにこの神能の全容を掴めた訳ではないが、他者と意思を重ね合い、力を束ねるもののようだ。


「……終わったようね」


 『黎触の王』は倒れた。長きに渡り世界を蝕んできた暗黒の首領は死し、そしてサーラライトの国に平穏が戻ろうとしていた。


「イージアさん!」


 アリスとリグスも『黎触の団』から国を守り切ったようで、二人は荒廃した戦場へ駆けて来た。周囲は焦げた匂いに満ち、黒々とした異形の大地になってしまった。戦いの激しさを物語っている。


「『黎触の王』は倒した。後は残党をどうするかだな……」


 彼の言葉にアリスは安堵し、フェルンネとイージアに礼を言う。


「お二人とも、ありがとうございました。私たちではあの王は止められませんでした。お二人がいたからこそ……」


 その時。

 悪寒がイージアを襲った。感覚が覚醒したばかりの彼だからこそ、反応することができたのだ。


「下がれ!」


 咄嗟に三人の前へ出て、迫っていた何かを弾き返す。

 ──黎の力。未だにこれほどの力を使いこなす者が……


「……いや、違う」


 『別の黎触の団員』ではない。

 まだ、戦いは終わっていない。


「俺は……王。我らが、悲願を……果たす為……」


 黒煙の中から、一人の男が飛び出した。

 全身が焼けただれ、斬り刻まれ。それでもなお、男は信念の下に立つ。


「嘘……まだ、生きて……」


「我が名はッ! 『黎触の王』、ムロク! 正しき世界を、作る為に……進み続ける……!」


 フェルンネは慌てて紅の魔術矢をムロク目掛けて飛ばす。

 矢は彼の前で弾かれ、消え失せる。


「黎天ゲミノルム……第、三天……」


 もはや動くことが許されない身体を無理に動かし、彼は天へと手を伸ばした。

 再び世界が暗黒に包まれる。黒き風雨が吹き荒れ、災禍がサーラライトの国を覆い尽くしてゆく。

 ムロクの肉体は消え失せ、そして──


『俺こそ、新たなる黎触の試練。名をムロク。俺こそ、【黎触の試練・再編】。名をムロク。俺こそ……破滅の徒』


 天から声が響く。概念存在と化した『黎触の王』。

 新たなる試練が、世界に降臨した。

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