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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
11章 終わりを告げる時
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242. 駒は駒らしく

 フェルンネは突如として消える。

 世界の停滞が戻り、周囲の者は再び意識を取り戻し、時間の中で動き出した。


「おや、賢者様はどこへ?」


「む……隠し通路の見張りに戻ったのだろう。創造神の使いは全て排除したようだな。では、進軍を再開する……!」


 もはや残るは脆弱なサーラライト族のみ。事実上『黎触の団』の勝利と言えよう。

 長年に渡る因縁に終止符を打ち、勝鬨を上げる時が来たのだ。


 ムロクは黒き天の下に、城へ向けて進軍を開始した。その時だった。


「……!?」


 殺気。その場にいた誰もが足を止めるような殺気があった。

 僅かに蟠るイージアの神気。神々しくも、禍々しい何かが降り立とうとしていた。


「──穿つは栄光の霓天不敗。『穿魔の鬼』」


 刹那、鏖殺が巻き起こる。

 一つの蒼光が駆け巡った。同時に血の雨が降る。黒の雨を血が覆い尽くす。たった一度の衝撃で空は晴れ、周囲の生命は枯れてしまった。

 『黎触の団』の企みも虚しく、王も、駒も、矢も全てが灰塵と化す。


「こんな未来は望んじゃいなかった……君だってそうだろう、イージア。安心してくれ……まずは君の無念を晴らそう。ラウンアクロードを殺し、そして──」


 突如として現れた男は、光なき瞳で天を見据える。


創世主(アテル)を殺す」


 これは、起こり得たとある未来の話。

 その結末は誰も知る由はない。

                            **********



 また、異なる世界線において。

 時はイージアが通路を出る直前に遡る。


「私は……戻って『黎触の団』と戦う。シレーネを君に頼みたい」


 イージアは剣を取り立ち上がる。

 フェルンネは時間を遡ったことを自覚する。ユリーチに関する何の記憶を忘れてしまったのかは分からない。しかし、今彼女が取るべき行動は一つ。


「それはいいから、早く行きましょう!」


「な、何……?」


「シレーネには結界をかけておくから大丈夫。さあ、早くして!」


 困惑するイージアの手を取り、彼女は出口へと駆け出す。

 隠し通路を出て、イージアに速度強化の魔法を付与する。


「あなたはレヴィーに向かって。『黎触の駒』ロンドは、神殺しの毒を持ってる。掠めただけで神族の魂を蝕む猛毒を。まあ、私が作ったのだけど……このままだとあなたの仲間が危ないわ」


「屠神の毒……分かった、すぐに向かおう。君は……」


「私のことは大丈夫。ほら、行って」


 フェルンネはイージアの背を押して、半ば強引に彼を送り出す。異様に焦っているフェルンネに戸惑うイージアだったが、急いで損はない。

 彼は全速力でレヴィーの方角へと駆け出した。


 フェルンネが前の時間軸でレヴィーへ到着した時、ダイリードとウジンは直前に殺されてしまっていた。毒を受けた時間から見て、今からイージアが全力で向かえば間に合う筈だ。単純な移動速度ではイージアの方が上だ。

 『黎触の王』に殺されたと思われる、サーラライト族の二人も救わねばならない。となると、『黎触の王』はフェルンネが止めなければならない。厄介な事になった。

 国の外部の森を見張っている、『黎触の衣』はあまり警戒しなくても良いだろう。最も警戒すべきは『黎触の駒』である。次いで『黎触の矢』も得体が知れないが、彼は不死の神族や魔族を殺す術は持っていない。創造神の使いは、サーラライト族以外は全て不死性を持っているとロンドから聞いていたので、『黎触の矢』は後回しで良い。


「これは私が決めた戦い。だから迷いはしない」


 彼女は『黎触の王』の下へと走り出した。


                                      ----------


 魔導士の駒が破壊される。

 状況の好転を確認したウジンは、自身が持つ神定法則を発動しようと動く。


「絶対重……」


「青雪の撃、『激烈』!」


 レヴィーの入り口から、青き弾丸が飛来する。

 弾丸はロンドに迫り、彼は即座に踏みとどまり回避した。


「な、何です……? 乱入者ですか?」


「間に合ったか……!」


 水色の瞳と髪を持つ少年が飛び込んで来た。

 突然の乱入者に、ダイリードとロンドは目を丸くする。


「イージアじゃねえか! 助かったぜ……」


 ウジンの言葉を聞き、ダイリードはそこで得心がいく。たしかにイージアと服装や髪色が全く同じなのに、彼がイージアであると気が付けなかった。仮面がないだけなのに、なぜ気が付けなかったのか。


「おや、イージアさんは仮面を被っているとの前情報があるのですが……まあいいでしょう。僕は『黎触の駒』、ロンド・デウム。以後お見知りおきを」


 戦場で堂々と挨拶をするロンドを不気味に思いつつ、イージアは二人に警戒を周知する。


「二人とも、この男は神殺しの毒を隠し持っている。攻撃を受けないように注意してくれ」


「おやおやおや……なぜそれをご存じで? 困ったなあ……ま、良いでしょう。いくら小生とあなた方に力量差があるとはいえ、一撃くらいは浴びせられます」


 彼は懐から毒を塗った短刀を取り出し、堂々と敵へ向けた。当初の計画ではある程度油断させたところに、隠し刃を浴びせるつもりだったが……看破された以上は隠している必要は無い。

 たった一撃、命中させればいいだけのこと。


「了解した。兵士の駒にも警戒しながら戦え!」


 ダイリードは前線に出て、ロンドへと拳撃を仕掛ける。相手のカウンターを食らわないように、慎重に。軽い身のこなしでロンドは攻撃を回避し、回し蹴りを放つ。短刀に触れないことを最優先としながら、ダイリードは連撃を再び叩き込む。


 一方、ウジンは絶対重力の行使を中止した。相手の行動が重力によって制限されれば、かえって普段と違う敵の動きに翻弄され、攻撃を食らってしまうかもしれない。何より……先程ウジンが絶対重力を使いかけた時、ロンドが不自然な動きをしたのが気掛かりだった。


 イージアは常に周囲の気の流れを観察している。もしもロンドが機転を利かせて、突飛な一撃を放った際には、それを防ぐ役割が必要だ。一撃でも掠めれば死に至る毒を敵は持っているのだから。

 イージアはこの場で最も守りに長けた戦法を取る。自身の役割を明確に意識し、戦況を有利に導かなくてはならない。


「兵士君、その目障りな人を!」


 兵士の駒はロンドの命令に応じ、イージアに斬り掛かる。

 以前に『将軍の駒』と戦ったことがあるが、この駒はそれとは一線を画した動きを見せる。黎の力を打ち払える青霧を扱うイージアとて、一瞬で片付けることは難しい。


 正面から迫る剣身を往なし、自身の幻影を作り出す。無数に作り出されたイージアの残像の中から、駒は最も強大な魔力を持つ像を狙う。


「はぁっ!」


 その動きこそが彼の狙い。いくら卓越した技能を持つとはいえ、無機的に戦闘を行う駒の性質は変えられない。必然的に魔力が大きい者を強者と捉え、警戒するはずだ。

 兵士の駒に生まれた隙を突き、イージアは渾身の一撃を叩き込む。中心から瓦解した駒は、黎の力を振り撒きながら消滅していく。


「ああ……想定外、想定外。でも、イレギュラーこそが人を進化させるのです!」


 三対一。絶望的な状況に立たされ、ロンドの顔に焦燥が浮かぶ。されど彼は喜悦を抱く。


「人生最大の大博打です。俺は今、死の淵に立っている!」


 ウジンの剣先を無理のある体勢で回避しつつ、ロンドはレヴィー内部を飛び回る。物陰を利用しつつ、短刀を浴びせようと動き回る。

 手負いの獣が最も恐ろしい。ダイリードはひたすらに警戒しつつ、明確な決定打を探していた。早くこの戦いを終わらせねばならない。


 ロンドは中腹部にあるリアクターの陰に隠れ、息を潜める。彼を率先して追うダイリードとウジンは顔を顰める。レヴィーの核であるリアクターを壊す訳にはいかない。しかし、大規模な攻撃を仕掛けなければ勝負は決まらない。

 刹那、ロンドの眼光が光る。彼は咄嗟に動き出し、短刀を構え……


暴嵐(ウェインルム)!」


 後方から駆けつけたイージアが爆発的な威力の風魔術を行使。

 投擲された短刀と共に、ロンドの隠れるリアクターを吹き飛ばした。


「くっ……ハハハ! ああイージアさん、貴方は馬鹿ですか! 私とおんなじだあ! 戦闘狂、もしくは戦いの真理を忘れない馬鹿だ!」


「……イージア! あまり内部を壊すな!」


 ダイリードの言葉に耳を傾けることなく、イージアはロンドと間合いを詰める。

 崩壊した機器に動きを阻害され、彼は瞬く間に距離を縮められ──


「青雪の撃、『月輪』」


 吹き抜けた風に青き霧が舞い、ロンドの身体を貫いた。

 彼の身体から鮮血が噴水のように吹き出し、力なく地に落ちる。


「は……はは……負けだ。どうして勝てない、どうして……いや。良いんです、これで……」


 ロンドが悪あがきに投げた最後の短刀を、三人は無情に回避する。最後まで油断ならない敵、それがロンドであった。


「終わりだ」


「ええ、私は(、、)終わりです……小生はね。しかし、『黎触の駒』は忠実にその役目を果たした……」


 彼の言葉にウジンは首を傾げる。


「一体どういう意味だよ……?」


「俺もまた、一つの駒に過ぎないんですよ。王を勝利へ導くこと……それが駒の本懐。今こうして時間を取られている間にも……サーラライト族は死んでいってる。勝負には負けたが……戦争には勝たせてもらいますよ……ハ、ハハッ……」


 彼はそう言い捨てて力尽きた。

 荒れ果てたレヴィーを置き去りにして、三人は外部へ急ぐ。ダイリードは走りながらイージアに苦言を呈する。


「……手ごわい相手だったな。しかしイージア、もう少し周囲に気を配れ」


「あの場面で大技を使わなければ、こちら側が殺されていた。戦いでは殺されるか、殺されないかが全てなのだから。レヴィーは後で直せばいいさ」


「それもそうか……助かった」


 きっと、自分とロンドは似た信念を抱いていた。イージアは薄々そう感じながらも、死したロンドを置き去りにした。

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