表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
11章 終わりを告げる時
251/581

240. 生きて

 打ち破られた魔導士の駒。

 残るはロンドと、兵士の駒のみ。状況が好転したが、ダイリードとウジンが油断をすることはない。


「──絶対重力」


 魔導士の重魔術はもはや警戒する必要がない。ウジンは再びレヴィー内に神定法則を展開した。

 ロンドと兵士の駒は姿勢を低くし、動きの速度を鈍らせる。いくら過重力下での経験を積まれているとはいえ、ロンド達の動きが鈍くなるのは変わりない。


「ふ……クククッ」


 苦しい姿勢を取りながらも、ロンドは不気味に笑う。

 前傾になってダイリードに斬り込んだ。


「遅い……!」


 ダイリードの拳がロンドの攻撃を弾き返す。彼の背後に迫る兵士の駒の剣を、ウジンが即座に防ぐ。

 ロンドの後退を防ぐようにダイリードが作り出した土壁。彼は土壁を敢えて砕き、自身の周囲に石礫を振り撒く。


「チッ……邪魔くせえ」


「邪魔、では済みませんよ。たった一瞬……刹那が勝負を分ける」


 目くらましが炸裂する中、ウジンはロンドの姿を見失う。

 この絶対重力下では、そこまで速く動けないはず。一体どこへ消えたのか……


「屠神の邪毒……」


「がっ……!?」


 背後。ウジンの背後から、ロンドの短刀が突き刺されていた。

 ロンドは即座に刃を抜き、ウジンの反撃を回避。


「ウジン!」


「……大丈夫だ。だが、背後に回れるほどの時間はなかったはずだ。お前……なぜ絶対重力の影響を受けていない!?」


「手の内をむざむざ明かすとお思いですか? ああ、死んだ後になら教えてあげますよ。私は紳士ですから」


 ロンドの動きは、まるで神定法則の影響を受けていないようだった。

 身体に鋭敏な痛みが巡る。毒が巡っている。ウジンは神転して毒の解除を試みる。


「ぐ……ッ!?」


 ──神転ができない。神気を魂から引き出そうとした矢先、それが遮られる。


「好奇心は猫を殺す。相手の力量を見定めながら戦おうなんて真似をするから、死んでしまうんですよ。勝負は常に全力で、相手を殺す為に。神族は不死でしょうが、殺せないと誰が決めた? ほら、ウジンさん……あなたはもう再生できない。死を待つのみだ」


 ロンドは事前に神族を殺す為の毒を賢者に作ってもらっていた。

 魔族を殺す為の毒と、神族を殺す為の毒。それが彼の秘密兵器だった。ただ一撃を浴びせる為だけに、ありとあらゆる手段を利用する。これまでの彼の戦いはその軌跡。


「兵士君!」


 彼は兵士の駒に命令を下す。

 駒が剣を振った先はダイリードでもウジンでもなく、壁に取り付けられたレヴィーの装置。


「なっ……!」


 ダイリードは咄嗟に兵士の駒の前へと出て、その一撃を防ぐ。


「どういうつもりだ……!」


「どういうつもりって……ええ? そりゃ、貴方の気を奪う為でしょう」


 間隙を縫い、ロンドは無数の刃を投擲した。

 一刀でも当たればそれでいい。神殺しの毒を仕込めば勝ちなのだから。ここが彼にとっての正念場であった。


「──命中。フフッ……ハハハッ!」


 甲高い哄笑が響く。毒牙はダイリードの腕に突き刺さる。ロンドの胸中にあった勝利への確信、それは今現実となった。


「不味いな……ダイリード、逃げるぞ!」


「ウジン、汝はナリアを探しに行け! 奴ならば、毒も治せるやもしれん!」


 ダイリードはウジンの逃げ道を確保するように立ち塞がる。まだ希望を捨てた訳ではない。

 ナリアは全ての物質の構造に精通している。解毒法も知っている可能性が高い。


「逃がすとお思いですか? 兵士君、彼を追いなさい。敵に背を向けるとは愚の骨頂」


 駒はウジンを追い、レヴィーの船外へ駆け出していく。

 毒が回りつつある。ダイリードの魂が毒に侵されるのも時間の問題だろう。


「よくも……このような外道の戦いを……!」


 彼の言葉を受けたロンドは思わず吹き出してしまう。

 清廉潔白な神の使いとは、あまりに価値観が違いすぎるのだ。


「げ、げ、外道っ……! ハハハッ! ダイリードさん、戦いに正道も邪道も外道も上道もありはしませんよ! そんな私情を持ち込むから死ぬんです、貴方は!」


 遅延さえしていればロンドの勝ちだ。それを理解した上で、彼は自らの信念を語り続ける。


「ねえねえ、どうして巨大な獣にならなかったんですか? レヴィーが壊れてしまうかもしれないから? 一刻でも早く創造神の下へ帰りたいから?」


「貴様……!」


 ダイリードの拳が振るわれる。

 歴戦の戦士である彼の拳も、毒に弱った今では鈍い。ロンドは彼の腕を蹴って跳躍し、付近にあった装置を蹴り壊した。


「戦いで何より重要なのは、相手を殺すことのみ! 私情を挟み、全力を出さないなんてもっての外です。壊れたものがあるのなら、後から直せばいい。戦場では全身全霊で相手を殺す為の策を練るべきだ……何度俺はその考えに命を拾われたことか! 殺さなきゃ、殺される! それが戦場でしょう!? 貴方のような甘ったれを見ると吐き気がするんですよ……」


 毒が回る、巡る。

 何とか毒を遅らせようとするも、ダイリードは力なく膝をつく。


「ぐ、ぅ……主よ……」


「甘いから、死ぬ。馬鹿だから、死ぬ。感情を持つから、死ぬ! さようなら、ダイリードさん。借りは返しましたよ……」


 意識が途切れる。

 ダイリードの巨大な体躯は地に斃れ、神気となって霧散していく。それは一柱の神族の死。世界(アテルトキア)においては、きわめて類稀なる死であった。


「ハ……ハハハハハハッ! ああ、勝った! 勝ちました! 圧勝、完勝、大勝利ッ! やはり勝利にこそ価値がある! 勝てば官軍、負ければ賊軍! 最ッッ高ッ!」


 勝利に酔い、『黎触の駒』は愉悦する。

 同刻。ウジン・サファイもまた毒に侵され、その魂の終焉を迎えた。


                                      ----------


「サーラ!」

「あい、『相互転移』!」


 戦場を自在に駆け巡り、ゼロとサーラは『女王の駒』と交戦を続ける。

 その様子を『黎触の矢』ムスカは黙して眺めていた。長年戦い続けている魔族だけあって、素晴らしい連携だ。ムスカは彼らに感心しつつ、撤退する頃合いを見極めていた。


「油断すんなよ、オッサン!」


 ゼロの斬撃が彼の眼前に迫る。

 ムスカは瞬時に躱し、女王の駒の陰に隠れる。


「さっきから逃げてばっか……やる気あんの?」


「ううむ……やる気はない。女王の駒の相手をしているが良い」


 『女王の駒』は、オールラウンダーな特性を持つ。完全学習した『兵士の駒』ほどではないが、他を除けば最高峰の性能を有する。なぜロンドが彼にそんな代物を渡したのかは疑問が残るが、おそらく作戦に必要ないのだろう。


「ゼロ、仕掛けるよ!」


「任せろ!」


 サーラが凄まじい魔力を発する。彼女の特徴は、爆発力。一気に蓄積した魔力を解放することで勝負を決める。水の渦がムスカと『女王の駒』の周囲を取り囲んだ。

 ゼロは渦の中央に飛び込み、純粋な魔力を宿した一刀を振るう。広範囲にわたり衝撃を巻き起こす彼の剣技からは逃れられない。渦が疑似的な籠となり、対象を逃がさないのだ。


「絶対渦巻爆裂剣!」


 水のカーテンが天高く舞い上がる。

 滝のように水が落ち、そこに残ったのは……


「ハイ、隙ありと」


 凶刃が、ゼロとサーラに浴びせられた。

 水の幕が払われる。残ったのは、ムスカ、ゼロ、サーラ。『女王の駒』は黒き破片となって砕かれた。


「困りますよ、ムスカ。小生のとっておきを壊すなんて」


「お前は……ッ!?」


 ゼロが突如として現れた男に驚愕する矢先、苦悶の表情を浮かべる。サーラもまた、自身の身体に起こった異変を感じ取っていた。


「やば……ゼロ、逃げなきゃ!」


「だから、どうして逃げようとするのです? いや、退路を予め確保してるなら良いんですけどね……自分達が逃げる破目に陥るなんて想定していなかったでしょう?」


 二人に魔族特攻の毒を仕込んだ男……ロンドは呆れたように溜息をつく。ムスカは想定外の男の乱入に頭を抱える。元々ゼロとサーラを殺すつもりはなかった。寧ろムスカは創造神の使い達には『黎触の団』を倒すことを期待していたのだが……


「ロンドよ、飛空艇の制圧は終わったのか?」


「ええ。ダイリードさんと、ウジンさんは殺しました。これで四匹目ですね」


「なっ……ダイリードが負けるなんてあり得ねえ!」


 ゼロは信じがたい事実に反論する。神族は死なない。

 しかし、その時ふと思う。不死の魔族である自分は今、死に至ろうとしている。ならばダイリードが死んでもおかしくないのではないだろうか……と。


「まあ、そう思い込んで死んでいった方が良いんじゃないですか? というか、ウジンさんは負けると思われてたんですね……かわいそ」


「ゼロ、はやくっ……逃げ、ないと……」


 サーラはゼロの手を引くが、彼の足は動かない。

 このままでは間違いなく死ぬ。


「逃がしませんよ。退路はない。死んでください」


 ロンドは二発目の毒を宿した刃で、二人を斬り裂いた。

 二人は断末魔を上げることもなく邪気となって霧散する。


「フフ……アハハ! また勝ちだぁ! ……ま、強者の神族に比べれば感慨はないですけどね」


「…………」


「おや、どうしたんです? 早く陛下の下へ行きますよ」


 黙り込むムスカに首を傾げるロンドだったが、気に留めずにムロクの下へ急ぐ。

 ムスカはどうしたものかと考え込むが、今は様子を静観することに決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ