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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
11章 終わりを告げる時
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239. 友へ。生きて

 フェルンネに向けた神剣の切っ先を静かにイージアは下ろした。

 自分でもどうしたら良いのか分からない。彼の心にはひたすら自責と悔恨が渦巻いている。


「わ、私は……」


 何と言えばいいのだろう。何かを言えば、必ず言い訳になる。


 『君を殺そうとしたんだ』

 『君は私と争おうとしなかったのに、私はその温情を無視したんだ』

 『君との友情は、何も躊躇わずに殺そうとするほど薄いものだったんだ』


 ──どう言い訳すれば良い?


「どうして?」


 彼の堂々巡りの思考を断ち切り、フェルンネは言葉を紡ぐ。

 言葉の続きを聞く事が、イージアには怖かった。


「どうして、あなたはそう(、、)なったの?」


 彼女の問いが糾弾なのか、同情なのか。イージアには分からない。

 彼が『イージア』に至った理由。昔のアルスは見る影もなく消え、無機質な人格が生み出されてしまったことが、フェルンネは未だに理解できないでいた。


「……思い出したくない」


「そう。ごめんなさい」


「……謝らないでくれ。私が君に謝らなければならないんだ。」


 イージアは彼女がどこまでも優しいことを思い出す。

 ユリーチが自分に怒ったことはなかった。いつも自分を支えてくれて、導いてくれた友。


「もはや友として見てくれなくてもいい。だから……」


 最初にルフィアで出会った時。アリキソンと戦った自分の傷を治してくれたこと。

 神域で彼が倒れた時。涙を流してくれたこと。

 親を喪った時。自分を励ましてくれたこと。

 ディオネで政変が起こった時。命をかけて共に戦ってくれたこと。

 マリーが『睡眠病』に罹った時、全力で助けようとしてくれたこと。

 その他にも、数えきれないくらい彼女の優しさに触れて、今でも彼女は変わっていない。

 イージアはその全てを自らの手で断った。


「だから、見捨ててくれ……」


 それは衝動的な行為だった。

 イージアは剣を地面に突き立て、膝を付く。銀色の破片が散る。仮面が砕けた。

 長い間、彼が苦楽を共にしてきた仮面。自分が自分(イージア)である為に、過去を覆い隠し続けてきた蓋。これがあるから、過去の絆を忘れてしまったなどと言い訳をするつもりはない。


 彼は膝を付いたまま、目を伏せる。そしてマントを外し、剣をうなじの上に置く。

 介錯の懇願。この世界において、彼の取った行動はそれを意味した。神剣で斬り裂かれれば、彼の魂までもが斬られるだろう。それは本当の死を意味する。


「私を……殺してくれ……」


 ラウンアクロードへの復讐を諦めた訳ではない。しかし、彼はたしかにフェルンネに負けた。そして、これは彼なりの贖罪であった。本来死すべきであった運命を縒り戻したに過ぎない。


「……やっぱり、変な人」


 フェルンネは屈み込み、神剣を取る。

 終わりの時を待つイージア。


「早く、目を開けて?」


 彼女の声に、イージアは目を開けて顔を上げる。

 剣が差し出されていた。眩い剣身の光が、彼の瞳を貫く。


 魔女は彼の命を断つつもりはない。

 それはある意味では、死よりも残酷な道であった。


「君は……私に、まだ戦えと……そう言うのか」


「私、ちょっと……ううん。すごく傷付いた。あなたがアルスだって分かって、私がユリーチだと明かして。それでもあなたは戦おうとした。まるで友情を忘れられたみたいで、悲しかった」


 だから、イージアは自分を見捨てて欲しかった。

 もう自分に温情を施さないで欲しかった。


「だから、私はあなたを見捨てない。それが私にできる仕返しだと思うから……一緒に生きましょう。どれだけ辛い過去があったとしても、生きましょう」


「……ありがとう」


 謝るべきではない。彼女に感謝をしなければならない。

 イージアは剣を取り、立ち上がった。


 姿は変われど、心は変わらない魔女。心は変われど、姿は変わらない戦士。

 数奇な運命に手繰り寄せられた二人は生き抜くことを決めた。


「私は……戻って『黎触の団』と戦う。シレーネを君に頼みたい」


 イージアは遠く離れていたシレーネの下へ歩み寄る。彼女は仮面を外したイージアを不思議そうに見つめた。


「『幻影結界』」


 フェルンネはそんなシレーネに対して魔術を行使。

 外部からの侵入を阻み、外部から視認を不可能とする光の壁。


「この結界の中に居れば大丈夫。私も行くわ」


「……シレーネ。一人で待てるか?」


「う、うん……大丈夫だよ! 私だってお姫さまだもん……!」


 彼女は健気に胸を張った。虚勢だろう。


「偉い子だ。結界から出るなよ」


「はい!」


 研究のために利用していた組織とはいえ、フェルンネが『黎触の団』と戦うことに躊躇はないのだろうか。

 自分が所属していた組織だ。多少の未練はあるかもしれないが……聞くのは野暮というものか。イージアはそう思い直し、戦火が渦巻くサーラライトの国へ戻った。


                                      ----------


「これは……!?」

「アリス様、お下がりください!」


 『黎触の王』ムロクの力が大幅に増す。

 彼の手に握られた大剣に黎の力が宿り、周囲一帯を暗黒が覆い尽くす。


「『黎天ゲミノルム』……全てを食らい尽くせ」


 空が暗黒に包まれる。

 天から伸びた暗黒がムロクに降り注ぎ、莫大な力を与えた。


「遊技は終わりだ。今こそ破滅の時……!」


 黒き雨の中、衝撃が走る。

 ムロクが振るった大剣は地を裂き、眼前に居るアリスごと呑み込む。大地を震撼させる爆発が巻き起こり、台風のような黒嵐が吹き荒れる。


「ア、アリス様……ッ」


 リグスは咄嗟にアリスを庇い、後方へ飛び退く。しかし、ムロクの攻撃は回避できるほど軟弱なものではない。リグスの炎結界、アリスのオーラを貫通して衝撃が迫り──


「こ……は……」


 アリスは意識を取り戻す。一瞬気絶しただけだが、長い間眠っていた気がする。

 身体が動かない。全身から異常な痛みが波の様に押し寄せる。見上げる空は未だ黒い。


「ほう、まだ息があったか」


 ムロクの顔が視界に入る。

 首を動かすことができず、周囲の状況を確認することも不可能。彼女の手足は折れ曲がっており、全身の骨が砕けている。


「リ……グス……」


「あの白髪の者ならば、俺が首を斬り落とした。お前もすぐに後を追わせてやろう」


「あ、ああ……」


 意識が朦朧としながらも、彼女は憤怒に打ち震える。

 しかし身体は動かない。無情にも、怒りが彼女を突き動かすことはなかった。


 ムロクは大剣を彼女へと振り下ろす。血しぶきが舞う。

 もはや抵抗する力すらない少女を断ち、黎触の王は勝利を収めた。

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