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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
11章 終わりを告げる時
247/581

236. Who are you?

 先に動いたのはイージアだった。

 神剣を構え、フェルンネへと疾走する。


 極限まで高められた速度と威力。万象を裂く一閃は、空間に歪みを作りながら駆け巡る。フェルンネは幻のように掻き消え、数歩先に現れた。

 狭い通路で戦う以上、天井を崩さないように互いに技量が求められる。無論、両者はとうに戦場の崩壊など気にするまでもない域にまで達している。


獄炎(キランジマノフ)


 通路を埋め尽くさんばかりの火炎がイージアの前方から迫る。離れた背後にはシレーネが居る。彼は彼女を守ることを最優先として動かなければならない。


「──青雪の構え」


 自身の周囲に青霧を展開し、炎を打ち払う。

 追撃に身構えたイージアだったが、フェルンネは魔術を一度放つだけで静止する。

 彼は手を休めるつもりはない。相手は八重戦聖、油断すれば一瞬で敗北するのだから。


「彗嵐の撃──『翔鷹』」


 青き斬撃が飛ぶ。

 フェルンネ目掛けて放たれた斬撃。彼女は迫る刃を躱し、追撃に走るイージアの対処に回る。


 彼は風刃を宿した斬撃を十二、異なる角度から飛ばす。神速に迫る刃をフェルンネは事も無げに回避。

 イージアは常に相手の攻撃を食らわないように一撃離脱を心がける。

 彼が下がったと同時、先程フェルンネが回避した青き斬撃が翻り、彼女の背を狙う。


「──『虚構』」


 刹那、彼女の姿がホログラムのように霞む。

 斬撃は彼女の立っている場所を通過し、消滅してしまう。不可思議な術だ。まずはあの術を看破しなければ、『理外の魔女』を討つことはできない。


「…………」


 魔女は動かない。

 ただ一度、イージアに対して炎を放ったのみ。


「……なぜ動かない?」


 力に差があることは認めている。しかし、彼女は自分を脅威とすら見做していないのだろうか。或いは時間稼ぎが目的なのか。


「……どうしてかしら」


 フェルンネには躊躇があった。

 名前も知らない、仮面の人。彼を殺めてしまえば、取り返しのつかない何かを失ってしまいそうな予感がしていた。

 悪人ではないということ以外、彼のことは何も知らなかった。しかしフェルンネの手は中々動かない。自分でもその理由は分からなかった。 


 彼女は右手に握る杖を見る。

 【秩序茨(ちつじょし)インディ】。この杖の力を解放すれば、瞬く間に戦いは終わるかもしれない。イージアの魂を破壊し、殺す事で。


「……!」


 気が付けばイージアの剣が眼前に迫っていた。

 フェルンネに対して、彼は躊躇わない。油断が敗北を生むことを自覚している故だ。強者に立ち向かうという僅かな高揚もまた、彼の背を後押ししていた。


 フェルンネは咄嗟の判断を求められる。迎え撃つか、躱すか。攻撃は避けねばならないが、本当にインディを使って反撃してもいいのか。

 彼女は無意識の内に守りを展開していた。


「ッ……ツイルーン!」


 光の障壁がイージアの剣を弾く。


「……ッ!?」


 イージアは体勢を崩しながら咄嗟に飛び退く。

 戦闘が始まってから、初めて彼は動揺する。相手が八重戦聖である以上、どのような手を使われても驚きはしまいと意識していた。

 しかし……たった今起こった事態は常ならざる事態だった。


 彼は魔女を見据え、再び剣を構える。

 前方の光が妙に温かく見えた。『理外の魔女』……理外魔術を司るが故の異名。彼女は常人には扱えない、光魔術すらも使いこなして見せたのだ。


「青雪の撃──『激浪』」


 イージアは気を取り直し、再び魔力を繰る。

 周囲に水流が生じ、彼は波を纏う。通路が壊れず、遠く後ろに隠れるシレーネに被害を及ぼさないように範囲を調整。


「へえ……風属性以外も使えるのね」


 普段の戦いで彼が扱うのは風属性のみ。風を身に纏って速度を上昇させ、風刃にて威力を増幅させる。

 通常、人が扱える属性は一つのみ。故にイージアは人前では風属性以外を扱うことはなかった。


「君とて、数多の理外魔術を使いこなすだろう……!」


 纏った激流を勢いに変換し、自身を弾丸のように射出する。

 爆発的な水球となったイージアはフェルンネに正面から向かって行く。


時縛(レ・トア)


 ──世界が白く染まる。

 いや、染まったのはイージアの視界のみ。極端に自身の動きが遅くなっている事に彼は気付く。


 イージアは即座に推測する。

 自身の動きは停滞しているが、少しずつ動いている。フェルンネは普段通りに動き、イージアの攻撃を回避しようとしている。

 つまるところ、自分の時間が停滞させられたのだろうか。


「試してみる価値はある……!」


 纏う波に混沌の力を混ぜる。

 時間を斬り裂く、青霧。もしもフェルンネの魔術によって自身の力が停滞しているというのならば──この技で打破できる。


「突破された……!?」


 視界に色が戻る。

 勢いを保持し、彼は目標へと接近。巨大な波の弾丸がフェルンネの直前まで到達。

 このまま剣を振り抜き……


「インディ!」


 剣先を黒き茨が弾く。

 拮抗すら及ばず、イージアの神剣は純粋に力負けしてしまう。


「これは……秩序の因果……!?」


 混沌の因果に属する神の力を超え、滅する力。

 秩序の力が間違いなく彼女の杖から放たれていた。


 迎え討たねばならない。判断を下したイージアは、自身の魂から神気を引き出す。

 神気を剣に注ぎ込み、インディの茨と相克させる。そして更に神気を注ぎ込み、インディを打ち払った。


「その力……あなた、神族だったのね」


 彼が放った神気を見て、フェルンネは敵の種族を把握する。彼女の知る限り、仮面を被った神族など存在しない。

 現代に存在する創造神、龍神、地神、海神、天神のどれにも当てはまらない。正体不明の神族。

 その事実は彼女の警戒心を引き上げると共に、興味を引き出した。


絶対零度(バーミキュライ)


 魂を殺さなければ、イージアは死なない。

 それを知覚した時、フェルンネは魔術を使う。可能な限り、傷付けずに戦いを終わらせる魔術を。


 瞬間的に冷気が満ち、天井と壁を氷が塗り替えていく。対象を凍結させ、封じ込める氷魔術の極致。

 凄まじい速度で凍り付いていく空間に対してイージアが取った行動は、


「炎よ……!」


 自身が神族だと看破された以上、もはや属性を絞る必要もあるまい。

 四葉(よつのは)を発動させ、炎を身に纏う。


「くっ……」


 しかし、魔力の質が大きく異なる。

 軽く纏った炎だけでは絶対零度は防げない。青霧を周囲に展開し、自分の身と背後を守る。彼を境界として氷の進出は止まり、背後のシレーネは守られた。


「炎まで……使えるの?」


「そう言う君は何属性使える?」


「ええっと……理内属性は三十四属性」


「……」


 ──あまりに多すぎる。

 それがイージアの率直な感想だった。


「光魔術はどうやって習得した?」


 少し会話が生まれた瞬間、彼は抱いていた疑問を彼女にぶつける。

 光魔術は、初代輝天カシーネ・ナージェントの代から公に記録された属性。英雄よりも一足先にフェルンネが見つけていたということなのか。


「どうして光魔術という概念を知っているのか、理解に苦しむわ。……ああ、でも。あなたが神族なら知っていてもおかしくはないわね」


「……」


「あなた、光は好き?」


 突如として返された質問にイージアは虚を突かれる。

 彼は答えあぐねる。何かの罠かもしれない。


「私は好き。光がないと、人は生きられないもの」


 彼女の言葉。それはどこまでも真実味を帯びていて、本心から発せられた感情に違いはなかった。

 そしてイージアの魂が震える。何かが、彼の中で呼び起こされようとしていた。


 刹那、イージアは違和感を覚える。

 周囲に魔力が満ちていた。その魔力は、眼前の魔女から発せられたものであり……


「しまっ……!」


「──神魔鎖(グレイプニル)


 神をも束縛する、異空の魔術。

 鎖がイージアの四方から迫り、手足を束縛する。


 油断してしまった。絶対に強者との戦いではしてはならない行為を、イージアはしてしまったのだ。

 神転しても鎖は振り解けない。敗北。その言葉がイージアの脳裏を過る。


「……争いはよくないと思うの。私は善良な人を殺めたくないし、傷付けたくもない。だから、これで終わりにしましょう?」


 フェルンネは束縛されたイージアに歩み寄る。

 常に彼女は無表情だ。笑うことをいつしか忘れてしまった。故に、降伏を促す場面ですら愛想笑いも作れない。


 彼女は少し躊躇ってから、イージアの顔に手を伸ばす。

 細い指が仮面の縁に触れる。そして──



「……え」



 カラン、と音がした。

 フェルンネが取った仮面は、力なく地面へと落ちる。


 驚愕。感情を見せなかった彼女の瞳に、動揺の色が浮かんだ。

 目を伏せながら、イージアの記憶が蘇る。姿も、話し方も違う一人の少女の姿。



「やはり……君だったのか。ユリーチ」

 




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