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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
11章 終わりを告げる時
245/581

234. 交錯してしまった運命

 空中から『黎触の団』を退け、ゼロとサーラは華麗に舞う。

 縦横無尽に駆け巡る二人の姿は、まさに天の撃砕者。


「……ん? なあサーラ、あれって……」


 逃げ惑う人々の中に、一人の見覚えがある男がいた。

 二人は彼の下へと下降し、顔を確認する。


「あ、ジリーマさん! 無事だったー!」


「……む。お主らは創造神の使いか」


 昨日姿を消したジリーマ。彼は何事もなかったかのように人ごみに紛れていた。


「おいジリーマ! 今は危ない奴らが襲ってきてるから、避難した方が良いぜ!」


 ゼロは彼を城の方角へ誘導しようとするが、彼は動く気配がない。

 刹那、サーラが咄嗟にゼロを引き戻す。


「ゼロっ!」


 一筋の暗黒。ゼロが居た空間に黒き矢が放たれていた。


「外したか。もう少し警戒した方が良い。敵である我が言うのも何だがな」


「ど、どういうつもりだよ……?」


 未だに状況を呑み込めていないゼロに、ジリーマは子供に諭すように告げる。


「我はジリーマではない。『黎触の矢』、ムスカ。今この国を襲っている組織の幹部であり、お主らの敵だ」


 そう言って彼はロンドから預かった『女王の駒』を呼び出した。

 ロンドが持つ駒の中で最も強力で扱いやすい駒である。彼は事前に『黎触の駒』から駒を受け取っていた。これでロンドの手元に残る駒は二つ。


「で、でも何で? ジリーマさんはずっとサーラライト族を助けてきたんでしょ!?」


「最初から、我はサーラライトを欺くつもりで潜入していた。長年にわたり行ってきた占術もまた空言。全てはあのお方の為に……」


 ゼロも次第に状況を理解し始め、二人の注意はムスカに注がれる。しかし彼はそんな注意を歯牙にもかけず、傍の『女王の駒』に命令を下した。


「せっかく貰ったのだ、使わねば損か……『女王の駒』よ、あの者らを倒せ」


 ムスカの目的は彼らを殺すことでもなく、サーラライト族を滅ぼすことでもない。

 この戦が起こった以上、彼の役目はもうない。後は離脱し、終戦を待つのみ。


 ゼロとサーラが女王の駒と戦う様子を彼は傍観。

 彼の目的は決定的に異なった。『黎触の団』の異分子は密かに暗躍し続ける。


                                      ----------


 【悪霊】が眠る遺跡の前に訪れたナリアは、何者かの気配を感じ取る。


「こんにちは、お姉さん!」


 子供の姿をした何かが、木によじ登っていた。

 無垢の裏にどす黒い何かが流れている。彼は『黎触の衣』、ジュッケ。


「ここは子供の来る場所ではない。帰れ」


「えー……お姉さんはこの遺跡の中に何が入ってるのか知ってるの?」


「私の推測だが……おそらく萌神が眠っているのではないかと思う。まだ結論には至ってないが」


 ナリアの言葉を聞いた少年は、嗜虐的な笑みを浮かべて遺跡に近づく。


「へえ……この遺跡に、あの邪神が……」


 萌神を邪神と呼ぶ者。それは『黎触の団』くらいなものだろう。

 ナリアは子供を警戒しつつも、決して余裕を崩すことなくその場に立っている。


「ねえ、お姉さんって魔族?」


「いや、魔族ではない」


 嗜虐的な笑みはコロリと純粋な笑みへと変わり、少年はナリアに歩み寄る。


「へえ! じゃあ、人間? ボクの仲間だね! ボクも呪術で子供の姿のままにされちゃってるんだ……おまけに親から捨てられて……酷い話だよね?」


「私は望んでこの姿になったのだ。望みの道を往くには、あまりにヒトの寿命は短すぎた。お前とは違う」


 少年の笑顔が失せる。二転三転と表情を変える彼は、喜怒哀楽が激しいように見えて、その実何も感じていない。


「そうなんだ……じゃあどうでもいいや。早く死ねよ」


 少年が呼び出したのは『竜騎士の駒』。これもまたロンドから授かったものだ。

 殺意と、邪気。常人であれば正気を保てない程の空気に当てられてもなお、ナリアは身動ぎ一つしない。


「遊んでる暇はないぞ。さっさと帰れ、クソガキ」


 アーティファクト、起動。

 ナリアは煩わしい虫を追い払うような感覚で一歩を踏み出した。


                                      ----------


 サーラライト王族が緊急時に使う通路を、イージアは走っていた。

 シレーネを抱えながら、可能な限り急いで駆ける。


「どこへ行くの?」


 彼の足が止まる。

 眼前の虚空から、一人の少女が姿を現した。若草色の髪を揺らし、彼女はイージアの行く手を阻む。


「……フェルンネ」


 彼はシレーネを下ろし、守るように前に立つ。

 『黎触の団』が総力を挙げて攻めて来ているとなれば、賢者と呼ばれる彼女が来ていることも想定できた。


「できれば誰も殺したくなかったから。この通路を見張ることにしたのだけれど……」


「ならば、そこを退いてくれないか」


「……あなただけなら良いわ。そこの子供はサーラライトの王族でしょう?」


 どうやら彼女はシレーネを逃がす気はないらしい。

 ならば、イージアが取らなければならない未来は決まってしまう。


「殺しはしないわ。その子は折を見て私が逃がす」


「……信頼できるとでも?」


「そうね。信頼できないでしょう」


 互いに相手の強さを分かっている。

 八重戦聖であるフェルンネに、イージアは敵わない。戦わずに済むのなら、それが一番だ。


「どうして君は『黎触の団』に加担する? 人を殺したくないのならば、団を抜ければいい」


「……合成獣って知ってる?」


 合成獣。『理外の魔女』フェルンネが作り出した禁忌の一つ。

 彼女は人理の魔導を大幅に進歩させたが、一方で数多の禁忌を作り出した。害なくして人は進めぬことを、彼女の軌跡が物語っている。歴史を知る者であればフェルンネの罪過と功績を知らぬ者はいない。


「ああ……」


「元々は、人の傷を治す為に開発した技術だったの。それが転用されて合成獣が生まれた」


 開発者本人が望まれない使い方をされてしまう技術は多い。

 彼女が作り出した禁忌も、本当は彼女自身が考えたものではなかったのかもしれない。


「空を飛ばして物資を運ぶ為の技術は、爆弾を飛ばす技術になった。不安を和らげる為の技術は、精神を害す技術になった。誰かを助ける為に作った技術が、誰かを傷付けてしまう。少し考えれば分かることだったのにね」


 フェルンネは自嘲するように呟いた。

 彼女が嘲ったのは、自分の行いか、人の愚かさか。


「だから、私はどうでも良いって思うの。ただ引き籠って実験を続けて……私が生み出した結果をどう改造するのも、好きにすれば良いと思うわ。『黎触の団』に居る限り、私は実験を続けられる。居心地は悪いけれど、楽な暮らしなの」


「…………」


 イージアには何も言えなかった。

 自分と関わりのない現実から目を背けることは、イージア自身も辿って来た過去。彼女を糾弾することはできない。


「私は……君がそんな生き方をするのはやめて欲しいと思う。だが、無理に止めることはできない」


「オキシトシンの塊のような人ね、あなたは」


「独特な喩えだ。……シレーネ、少し下がっていてくれ」


 彼は神剣ライルハウトを手にした。それは断命の決意。

 もはや争いは止められない。


「不毛な争い……」


「……そうだな」


 運命は交錯する。

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― 新着の感想 ―
[一言] 八重戦聖、「不敗の王」使っても倒せないぐらい強いんですか?
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