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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
11章 終わりを告げる時
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229. 魔神アガカナ

 アリスは城を出て、ジリーマの下へ行った仲間たちの方角へ向かっていた。

 リグスは珍しく晴れ晴れとした表情を浮かべている。


「アリス様、よかったですね。陛下も貴女をお認めになられたようですよ」


「そうでしょうか? 私はまだ……悩んでいます。結界は必要ないと言いましたが、勢いで言ってしまったこともあり……」


 彼女が森を飛び出したきっかけは、ジリーマの『大いなる暗黒』の予言と……些細な憧れだった。

 それがきっかけとなり世界を見聞し、国を進歩させねばならないと痛感したのだ。しかし、自分に政治の知識がないことを自覚しているが故に彼女は悩んでいた。


「あんなに大見得を切ったことを言ってしまいましたが、私は王としての政に疎いのです。結界を取り払えば様々な問題が起こり、易々と成し遂げることは困難でしょう」


「お勉強ならば、これからしていけば良いのです。ボクも全力でお支え致します」


「ふふ……ありがとう」


 よき従者を持ったものだと、アリスは思う。

 彼女はずっとアリスを支え続けてきた。感謝してもしきれないほどの恩がある。


「そういえば……リグスは家族の下へ行かないのですか?」


「ああ、そうですね。時間がある時にでも行こうと思います」


 彼女にも家庭がある。

 旅にいつまでも付き合わせて本当に良いのだろうか。アリスは悩むが、彼女以外に自分について来てくれる人が思い浮かばない。


「アリス様。ボクの心配は無用です。どこへ行こうともお供しますから」


「……本当に、あなたは」


 その時。アリスの言葉を遮り、呼号が響いた。


「伝令、伝令ーッ! 森の西部から化け物が接近中! 避難せよ!」


 兵士たちが血相を変えて走って来る。彼らはまるでこの世の終わりを見たかのように絶望を顔に張り付けていた。


「何があったのです?」


「ア、アリス様! お帰りになったと聞きましたが……こんな時にお帰りになられるとは……運が悪い。異形の化け物が西部に出現し、こちらに進攻しております! 兵士たちでは太刀打ちできず、止めようがありません……避難をお願いします」


「アリス様……もしや『大いなる暗黒』では?」


「違いありません。私たちが食い止めます。民とお父様、お母様を避難させてください」


 西へ向かおうとするアリスを、他の兵士たちが引き留める。

 まさか王族を矢面に立たせるわけにもいかない。しかし、彼らは知らない。アリスが旅の最中で強大な脅威に立ち向かえる力を手に入れたことを。


「お待ちください! アリス様は避難を……」


「民が危機に瀕しているというのに、王族である私が逃げる訳にはいきません。最悪、私が死んでも……あの子さえ生きていればいい」


 彼女の脳裏に過ったのは、未だ見ぬ幼い妹の存在。

 サーラライトの王族は妹さえ生きていれば良い。それほどの価値が妹にはあり、相対的に自分の価値は低くなる……アリスはそう考えていた。


「リグス、行きますよ」


「はっ!」


 覚悟を抱き、彼女は進む。


                                      ----------


 目に映る物を全て破壊しながら、魔神アガカナは進撃する。

 巨体に木々が薙ぎ倒され、一歩進む度に地響きが鳴る。足元には無力な人間が群がり、煩わしく纏わりついてくるが、足止めにもならない。


 そんな巨大な魔神を見据え、アリスは策を練る。


「あれほどの巨体……一体どうすれば……」


「竜種を相手にするのと同じ要領で挑めばいいかもしれません。とにかく、他の奴らの到着を待ちながら少しでも進攻を遅らせましょう。ボクが先陣を切ります」


「では、あなたに加護を」


 アリスはリグスに身体能力強化の魔法を掛け、自らもまた魔神に接近する。

 リグスは魔神の攻撃範囲直前にまで接近し、魔術を行使。


「炎術結界・幻影!」


 炎が魔神の眼前に揺らぐ。いかに巨躯を持つろはいえ、幻に蝕まれてはどうしようもない。竜種を相手する際にも、リグスは幻術を用いて対処する。

 幻影を見せ、足止めを狙う筈だったが……


『これは、炎……温い』


 魔力の絶対量が違う。障壁によって幻影は打ち破られ、魔神の足止めをすることは敵わない。

 咆哮が響き渡る。耳を劈く轟音と、波及する邪気。


「リグス、こちらへ!」


 アリスは瞬時にリグスを引き戻し、オーラを展開。邪気を防ぐ。


「っ……ありがとうございます。前よりもオーラが強くなっていますね」


「おそらく神能の影響かと。私の場合は元々備わっていたオーラの力が強化されたのだと思います」


 しかし、いくらオーラが強力になろうとも魔神の進攻は防げない。

 為す術なし。それが彼女たちの現状だった。


風波動ウェインルム!」


 アリスの風魔術により、暴風が巻き起こる。

 岩石を巻き上げた風の波は魔神に正面から衝突し、一瞬動きを停滞させる。ダメージは与えられていない。一秒でも進行を遅らせることができれば上々。

 後は増援を待つのみ。


『壊す……メッスル』


 四足歩行の魔神が、二足で立ち上がる。

 強大な魔力が口元に収縮し、地平へと向けられる。

 ──ブレスだ。広範囲を薙ぎ払う、巨躯の敵と戦う際において最も警戒すべき暴威。


「まずい! アリス様、お下がりください!」


 リグスは叫ぶが、あまりに規模の大きい攻撃。逃げ場はない。

 魔神の口から放たれた光の波が、地を貫かんと迫る。


「間に合えよ……『聖重結界』!」


 刹那、世界に歪みが生じる。

 魔神の前に張り巡らされた紫色の結界が攻撃を弾き返した。凄まじい質量を持つ光を捻じ曲げ、天へと逸らしたのだ。


「これは……!?」


「よお、間に合ったか!」


 それを為したのは、二人の仲間であるウジン。

 ゼロとサーラ、ダイリードも急いで駆けつけた。


「おっさん! お前、そんな力あったのか?」


「今のは『変質』の神能だ。俺が持つ重力の力を変質させ……聖属性を付与した。俺みたいな奴が聖なる力を使うってのも変な話だがな!」


「まったくだ……でも、助かった」


 ウジンはダイリードを除き、最も早く神能の力を目覚めさせた。

 『変質』の神能。重属性魔術を聖属性魔術に変化させることができる。二つの属性を織り交ぜて使うこともできる、より守備力を上昇させた神能だ。


 そして、天に逸らされた魔神の光を回避しながら、悠々と戦場を俯瞰する者が二人。


「うお……なんだアレ。強そうだな! 『大いなる暗黒』か?」

「ゼロー? 流石に突っ込むのはやめてね?」

「分かってるって……で、どう倒すよ!?」


 ゼロとサーラは魔神の周囲を飛び回りながら、動きを観察する。

 理性に欠けた状態で破壊を振り撒き続ける魔神。攻撃を誘導することは簡単そうだ。

 ダイリードは魔神を見据え、重苦しく一歩を踏み出した。


「ふむ……我が最前線に立つ。補助を頼む。神能を使うから、少し離れていろ」


「分かりました。どれくらい離れればいいですか?」


「向こうの岩陰へ。我はこれより、巨大な獣へと転ずる。巻き込まれないように注意しろ」


 アリス達はダイリードに言われた通り、木を十本ほど隔てた岩陰へと隠れる。

 周囲に人が居ないことを確認したダイリードは、『衝動』の神能を発動させた。


「神転……!」


 彼の姿は光に包まれ、巨大化する。

 魔神と同等の、天を突くほど巨大な獣。全身を白き肌と毛に包み、二足にて立つ。鋭い爪牙を備えたダイリードは魔神と正面から衝突。創造神の右腕としての本性、力の神髄を現出させた。

 土煙が上がり、地鳴りは一層大きくなる。


『これ、は……神。我が、イマイマしき、敵……!』


 ダイリードの神転後の能力は、神能により通常よりも強化されている。

 不完全な状態で召喚された魔神では、容易に退けることはできない。


「すげえな……あれがダイリードの本気か!」


「とりあえず、アタシ達はダイリードのサポートをしよう!」


 周囲を囲んでいた面々も動き出す。

 ゼロとサーラは天から様子を見る。ダイリードと魔神が拮抗する中、サーラは足元を狙う。


「体勢を崩そう! ゼロ、いける?」


「任せろ!」


 サーラが作り出した水の刃をゼロは剣に宿す。

 剣身は水により延長され、魔神の足と同等の長さまで伸びる。


「いくぜ! 『超水刃斬竜剣』!」


 意味のない技名を叫びながら、魔神の足元に斬りかかる。

 水は質量を無尽蔵に増加させる。ゼロの放った水刃は魔神の足元を薙ぎ、僅かに体勢を崩させた。そして、その僅かな隙が戦場では命取りとなる。


「はぁあああッ!」


 ダイリードの巨腕が魔神の右側面を叩き、爪が装甲を抉る。

 鋼鉄の鱗と爪がぶつかり合い、魔神は痛みに悶え苦しむ。


『おお……ッ! 滅す、滅する! ジャマを、するなァ!』


 地上からその様子を見ていたアリス達は動き出す。


 ウジンの絶対重力が魔神に圧し掛かり、更に動きを制限する。

 いかなる巨体であろうとも、重力には逆らえない。体が大きければ大きいほど、その枷もまた大きくなる。


「リグス! 周囲への被害を防がないと!」


「はっ! 結界を張ります!」


 炎が魔神の周囲を取り囲み、衝撃を和らげる。

 少しでも人が集まる方角への衝撃は減らさなければならない。


『……滅びを』


 攻撃を受ける一方の魔神。

 しかし、その内側には闇が次第に蓄積されていた。

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