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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
11章 終わりを告げる時
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225. 動き出す世界

「うーん……この辺から異変を察知したんだけどな……」


 楽園を遠く離れ、更に南方へと進んだ海上にて。

 レーシャは辺りを見回していた。創世主(アテル)が何らかの因果の拗れを察知し、その場所までレーシャを確認へ行かせた。

 しかし、異変は見当たらない。大海原が水平線の向こうまで広がっているだけだ。


「やっぱりあそこで異変が起こったのかな……?」


 彼女は空を見上げる。

 見通せぬ時空の歪みが生じていた。年中あの空は時空の歪曲が生じている。【愚者の空】。

 何者にも立ち入る事はできず、創世主でさえも観測不可能な異端の空域。創世の際に、世界(アテルトキア)は混沌と秩序の因果に別れた。その時に出来てしまった領域。彼の領域には創世主の忘れ形見と、世界の調停者が存在する。

 いわば世界にとってのバグのようなもの。気にしても仕方がないのだ。


「ま、いっか。早く『セティナガル』が戻れば……アテルも多少マシになると思うんだけどな……そしたら私の心も消えちゃうかもしれないけど。でも、それでいいんだ。終わりを待って、私は……」


 彼女は空から目を逸らす。このまま創世主(アテル)の下へ帰りたくはないが、特にすることもない。

 創世主(アテル)が必要だと判断した時にしかレーシャの顕現は許されないので、せっかくだし散歩でもしようかと思ったのだ。

 しかし、今の彼女は知り合いでもないイージアに恐怖されて気分が落ち込んでいたので、素直に帰ることにした。


                                      ----------


 暗い城の広間にて、子どもが玉座に座る男の下へ走って行く。


「陛下! 準備が整ったってさ!」


「ジュッケ。ご苦労……いよいよこの時が来たか」


 『黎触の王』、ムロクは静かに目を見開いた。

 彼の目は狂気に呑まれながらも正気を保ち、未来を見据えていた。


「ねえ、いつ行くの!? ボクも出番あるよね!」


「ああ。今回は『黎触の団』総力を挙げての戦となる。無論、この俺も出よう」


 ムロクは玉座から立ち上がり、周囲を見渡す。世界の破滅を悲願とする同志がそこには集っている。

 彼は『黎触の団』が設立されて以来、長年戦ってきた。この世界を滅ぼす為に。


「でもね、陛下。小生の駒は残り四つしかないんですよ。僕が生まれた時には九つもあったのにさ……どうしましょう」


「アハハ、四つもあれば十分でしょ? ロンドって有能だし……ボクが嫉妬するくらいにね」


 『黎触の駒』、ロンド・デウムは不服そうに顔を顰めた。一度失った駒は再生できない。手数は多ければ多いほど良い。有能無能の問題ではないのだ。

 彼の身は二十年以上前から衰えていない。自身の肉体を改造し、身体能力と外見が劣化しないように施術をした。全ては賢者の協力の恩恵があってこそだ。

 そんな彼に話しかける子供が、『黎触の衣』ジュッケ。子供の姿をしているが、諸事情により子供の姿を取らざるを得ないだけで、中身は大人だ。


「我々が世界を滅ぼそうとすれば、世界の抑止力……ラウンアクロードが発現するやもしれん。今回の戦でも現れる可能性がある……留意せよ」


「あの、陛下。そのラウンアクロードって結局何なんでしょう? 俺も色々と調べてみましたが何も分かりませんでしたよ」


「俺も詳しくは知らぬ。しかしリフォル教に忍ばせた斥候が世界の守護者たる概念をそう呼んでいた。とにかく、邪魔が入るやもしれぬということだ」


 世界の守護者の名前が何であろうが、神々が立ち塞がろうが、彼は立ち止まらない。

 ただ世界を滅するのみ。黎の力がこれまでにないほど昂っている。


「……賢者を呼べ。作戦の決行は間近。この戦い、我らが制する。そして悲願へと前進する!」


                                      ----------


「……教皇様。奴らが動き出したようです」


 時を同じくして、もう一つの闇が動き出そうとしていた。


「そうか、想定通りだね。塵芥の上で踊る彼らは、実に心地いい悦楽に浸っていることだろう。──薄弱、惰弱。彼らの意志は僕が打ち砕く」


 リフォル教教皇、AT。

 彼は虚空を見つめ呟いた。彼の瞳には全てが視えていた。視え過ぎて、目を覆いたくなるほどに。しかし現実は瞼の裏にもこびり付き、現実から目を逸らすことは許されない。


「大司教に伝えてくれ。予定通り動け、と」


「はっ。ラウア様は如何致しましょう」


「彼はまだ必要ない。力の回収まで表に出す訳にはいかない」


「承知しました」


 信徒は姿を消し、己の使命の為に奔走する。

 そんな彼らを憐れみながら、ATは現実を見据え続けた。


                                      ----------


「……みんな。よく集まってくれた」


 創造神の招集に応じ、イージア達は玉座の前に集う。


「まったく、なぜ私まで……」


 どういう訳かナリアも来ていた。実験室に籠り切りの彼女が部屋の外にいるというだけで、実に奇妙な光景だ。彼女は文句を言いながらも、恩のある創造神の言葉には従っていた。


「今回集まってもらったのは、大事な任務を伝える為だ。今回の任はナリアを含めて全員で行ってもらう」


「え、全員で!? そんなこと今までになかったよね?」


 サーラは驚きの声を上げる。

 長年任務を行ってきた面々だが、全員で任務に当たったことはない。ましてやナリアが任務に参加するなど、創造神と数千年の付き合いであるダイリードにとっても異例な事態だった。


「任務……? 私が……?」


「悪いね、ナリア。お願いを聞いてくれたら新しい実験器具を創ってあげるから」


「む……良いだろう」


 あっさりと彼女は物欲に負けて了承した。

 創造神は緊張する面々に話を続ける。


「今回行ってもらうのは、大霊の森。サーラライト族の住まう地だ」


「……!」


 アリスとリグスが反応を見せる。

 アリスは故郷である大霊の森を飛び出して旅に出た。今になって戻るのは複雑な気持ちだろう。


「彼の地に、大いなる暗黒が迫っている。君たちは総力を挙げて其を止めねばならない」


「大いなる、暗黒……?」


 リグスの表情が強張る。

 その言葉に聞き覚えがあったからだ。彼女たちが『春霞』を求めた旅立ったのも、その言葉によるものだ。


「大いなる暗黒とは何だ?」


「……すまない。僕にも分からないよ」


 創造神は首を横に振り、イージアの疑問には答えなかった。

 あまりに抽象的な助言だが、いつもこのような感じで任務は課せられる。今回ばかりは事態が深刻そうなので、できるだけ詳細な情報を知っておきたいものだが。


「きっと大変な戦いになる。でも、僕は信じているよ。君たちならば乗り越えられると……」


 大きな揺らぎが巻き起こる。

 それを予感しながらも、創造神はただ自らの子供たちを信じていた。

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