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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
10章 正道擲つ渇望
220/581

209. 逮捕

 都市ガフロンへやって来た三人。

 中央の通りを少し逸れたところに位置する下層区画は、以前訪れた時とあまり変わりなかった。無骨な木製の家が立ち並び、通りは独特な硫黄のような匂いが漂っている。路傍には物乞いやごみを漁る者の姿も見受けられる。これが下層区画の日常風景であった。

 物珍しいイージアとウジンの姿を見て住民は訝しむが、すぐに興味を失して退散していく者が大半。


「おう、なんだあんたら。よそ者かあ?」


 しかし彼らに絡んでくる者も居た。

 いかにも柄の悪い、酒に酔った男が突っかかってくる。


「そのお二人は私の知り合いですよ。あんまり喧嘩を売らないでください」


「……お、ポーラじゃねえか。なんだ、お前さんの知り合いだったか。悪かったな」


 男はポーラの姿を見るや否や引き下がった。どうやら自警団である彼女は住民からも一定の信頼を得ているらしい。周囲の者もどこか安心した様子だ。


「創造神様の使いらしいです。失踪事件の調査に来てくれたとか」


「ほーん。ま、俺は誰が消えようがどうでも良いが……ご苦労なこった」


 男もまた興味をなくし、離れて行った。


「この街の奴らは生きるのに必死らしいな。おっちゃん達に向ける関心なんてないってことか」


「そうですね。みんな頑張って生きてます。頑張って生きようとするからこそ、犯罪も多発してしまう訳ですが……」


「だからこそ君達のような自警団がいるのだろう。これからもアジェンを守ってあげてくれ」


「はい。ありがとうございます……!」


 俯いていた彼女はイージアの言葉に顔を上げ、頭を下げる。彼の背後に立つウジンは複雑な表情を浮かべていたが、首を振ってイージアの肩を叩いた。


「さて、イージア。俺らも情報を集めに行くぞ」


「お二人はどこへ向かわれるので?」


「ひとまず、上層区画へ向かう。情報を多く握っているのは権力者だからな。政府が住民の失踪を調査していないのも気掛かりだ」


 もしかしたら政府の関係者に悪魔の召喚者が紛れているのかもしれない。とにかく、情報が圧倒的に不足しているのだ。


「では、私は下層を調べます。何か分かったらお伝えしますね」


「ありがとう。では、息災で」


 ポーラは去りゆく二人の背をじっと見つめ、踵を返す。

 そしていつもの様に街中の動向に目を配らせた。


                                      ----------


 自警団、本部。


「ポーラ、ただいま戻りましたー!」


 快活な声が響く。現在本部内に居るのは、団長と見張りの団員ひとりだけだった。

 自警団は常日頃から慢性的な人手不足に苛まれている。それもそのはず、このアジェンで自ら進んで治安を維持しようとする人間はかなり珍しいのだから。


「お、戻ったかい。で、どうだったよ?」


 目付きが鋭い、中年の男。自警団の団長は書類から目を離し、部下が無事に生還したことに安堵した。


「解決はできませんでした。しかし……創造神様の使いがこの事件を捜索していました。一緒に調査を行っていたところ、大量の白骨死体が見つかりました。おそらく住民のものかと思われます」


「あー……情報量が多いねえ。とりあえず、被害者の遺体は見つかったと」


「はい。創造神様の使い曰く、悪魔の仕業だとか。このガフロンに悪魔の召喚者が潜伏していると考え、調査の為に戻ってきた次第です」


 団長は突飛な話の連続に頭を抱える。悪魔に、神。悪魔は架空の存在だと考えているし、神が人に手を差し伸べることもあり得ないと考えている。故に団長は混乱する。


「分からないね、まるで分からない。まあ……神サマの使いがどうにかしてくれるのかねえ」


「そうかもしれません……でも、自分の国の問題は自分たちの手で解決するべきだとあたしは思います」


「アンタならそう言うと思ってたさ。でも、神だの悪魔だの……あまりにスケールがデカすぎる。その創造神の使いってのはどんな容姿をしてたんだ?」


「えっと……一人は仮面を被っていて、白いローブを着ていました。もう一人は中年の男性で……特徴はあんまりないですねー。二人は上層区画へ向かいました」


 イージアの外見はかなり特徴的なので、すぐに見つかるはずだ。ウジンが見つからずとも彼が見つかれば必然的に発見できる。

 団長はそれを聞き、暫し考え込む。


「んん……仮面の男……? ま、いいや。ポーラ、アンタがこの事件に首を突っ込むかどうかは自由だが、自警団としてはこれ以上の調査を打ち切る。団員をまた減らす訳にはいかないからねえ」


「……分かっています。少し頭を冷やして考えてみますね。他の仕事もありますし……」


「悪いね。賢明な判断をすることだ」


 団長としては、彼女がどうしても事件を解決したいと思っているのは分かっている。アジェンの問題は自分たちで解決したいとも、団長自身思っている。

 だが、『思い』だけでは生きていけない。感情を捨ててでも生き残らなければならない。それがアジェンの鉄の掟であった。


                                      ----------


「『統べる黄蜘(おうち)』、ジニア・ジルコ。十年前の戦乱を収束させ、アジェンを支配下に置いた男だ」


「ジルコ……『狂儲派』フォトス・ジルコの血縁者か?」


「おう。息子らしいな。そんで、俺たちは今からソイツが居る場所に行く訳だが……」


 上層区画の入り口で、二人は足踏みしていた。

 下層から上層へ移動するには通行許可証が必要だが、もちろん彼らは持っていない。どうしたものかと考えたものの、結局は創造神の名を使うのが一番信頼に足ると結論を出す。


「……許可証の提示を」


「私たちは創造神の使いで来た。この国で起こっている事件に関して、政治に関わる者に話を聞きたい」


「何を馬鹿な事を……」


 警備員は唐突に現れた自称神の使いに困惑する。見た目もこの上なく不審であり、信用には値しない。上層区画は選ばれた者のみが居住を許される安寧の地。不審者は通せない。

 警備員は仮面を被った男をまじまじと見つめ、ふと何かに気が付いた。


「……少し待て」


 彼は後方へ下がり、詰所に居る同僚へと語り掛ける。そして数名の警備を引き連れて再びイージアの前へと現れた。


「貴様ら、名を名乗れ」


「ウジンだ。こっちがイージア」


「やはり……! 確保せよ!」


 二人の名乗りを聞くや否や、警備員たちは彼らを取り囲む。


「ああ……? 何だこりゃ」


「貴様らには内乱罪の嫌疑がかかっている! 元『狂儲派』、及び『怒戦派』の首領を殺害し、国家を内乱に導いた疑いだ!」


 イージアはこの国において指名手配されていた。特徴的な外見であったので、すぐに警備員は彼の存在に気が付いたようだ。十年前の出来事であった為、街中の住人は気が付きはしなかったが、国の役員ともなればそうはいかない。

 正確に言えば、フォトス・ジルコはイージアが殺した訳ではないが、国を崩壊させてその事に負い目を感じていたのは事実。


「おいおい……どうするよイージア……!」


「いや、いい。このまま捕まろう。そうすれば上層区画の内部に入り込める」


「ったく……どうなっても知らねえぞ」


 こうしてイージア達は警備員に拘束され、上層区画の内部へと連行されたのだった。

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